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短編小説 | うちの旦那 |カバー小説


椎名ピザさん原作の『うちの旦那(毎週ショートショート 塩人)』をカバーさせていただきました。
まずはピザさんの原作をお読みください。(394文字)




「うちの旦那」(青豆Ver.)


旦那が社員旅行先の沖縄から帰ってきた。
「お土産にTシャツ買ってきたぞ」
「ほんと好きだねー。ご当地Tシャツ」
旦那がボストンバッグの中からビニール袋を取り出す。
手渡された袋の中には、ピンク地にゴーヤーが描かれたTシャツが入っていた。
「いや、そっちかい」
「え?」
「ふつう、海人(うみんちゅ)でしょ」
「ああ」
旦那は満面の笑みで私を見て、羽織っていたシャツを脱いだ。
「あっ」
旦那のインナーは『海人(うみんちゅ)』と書かれたTシャツだった。

「この野菜炒め、味薄いよ」
今日もまた、旦那は私の味付けに文句を言った。
沖縄から戻って数日が経っても、郷土料理慣れした味覚が戻らないらしい。
旦那の胸にでかでかと綴られた文字が憎い。
「この海人(うみんちゅ)め」
私はこころの中で悪態をつく。
だけど、なんだかそれって、海人に申し訳ない。
誇り高き彼らの呼び名を、埼玉県出身のしがないサラリーマンに当てはめるなんて失礼だ。
野菜炒めに適量(16振りくらい)の塩を振りかける旦那を見て思った。
こいつは、塩人(しおんちゅ)だ。

旦那は酒を飲むとき、真っ赤な顔をして
「日本酒はほぼ水だから」と言う。
「泡盛が恋しいなあ」と言って、よろめきながら立ち上がった旦那の、胸に書かれた文字を見て、いやいや、と頭を振った。
今日の旦那は、水人(みずんちゅ)だ。

旦那は間違えて人の傘を持ってきてしまう、傘人(かさんちゅ)でもある。

旦那は温泉に入るとき、「生き返る〜」と言う甦人(よみがえりんちゅ)でもある。
温泉から上がって、売店の前で待ち合わせした旦那は、海人Tシャツを着ていなかった。外で着るのは恥ずかしいらしい。

旦那はときどき、私が落ち込んでいると、何も聞かず
「寿司でも食いにいくか」と言う、寿司人(すしんちゅ)でもある。
無言で支度を始める私の横で、こそこそと海人Tシャツを着込む旦那に
「ちょっと。寿司屋行くのに、海人Tシャツなんてやめてよね」と言うと、へへへとニヤけた。私を笑わせようとしたんだ。全く、笑人(わらんちゅ)なんだから。


そんな旦那は、突然、星人(ほしんちゅ)になった。


病院嫌いだった旦那は、大きな病気が進行していた病人(やまいんちゅ)だったのだ。こんなにそばにいたのに。
何も気づいてあげられなかった私は罪人(つみんちゅ)だ。

亡人(なきんちゅ)になった旦那を見て、私は泣人(なきんちゅ)になった。
夫の好きだった海人のTシャツを棺の中の夫にかけた。
夫の好きだった、こだわりの塩もかけた。
水だと言っていた日本酒をかけ、ついでに泡盛もかけた。
私は旦那の好きだったものをたくさんかけた。
今まで迷惑もたくさんかけた。
だけど、私なりの愛情もたくさんかけた。かけ人(かけんちゅ)だ。
「むりやりすぎるだろ」
旦那の声が聞こえた気がした。

葬式で久しぶりに寿司を食べた。
旦那が甦人(よみがえりんちゅ)になった気がした。
私は旦那の遺灰の一部を、沖縄の海にまこうと思った。
そうしたら旦那は、本当の海人(うみんちゅ)になるれるのかもしれない。




[完]


#カバー小説


私はピザさんの作品が大好きでいつも笑わせていただくのですが、こちらの作品は短い中に温かさやら、いじらしさやら、切なさやら、色々なものが詰まっていて、ずっと心に残っている作品でした。

ピザさんの小説をカバーするなんて恐れ多いと思っていましたが、今朝、お二人目のカバー小説が投稿されていたので、わたしも一ファンとして参加させていただくことにしました。

ほとんどピザさんの原作をなぞったに過ぎないのですが……。
ピザさん、素敵な作品をありがとうございます°・*:.。.☆



すぐにご感想をいただきました。
お忙しい中、ありがとうございます!

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