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【随筆】夕方にもなれば、だいぶ涼しくなったものだね。僕は、『ニムロッド』について考えながら走った。

9月に入ってから、
上田岳弘さんの『ニムロッド』を読んで、安堂ホセさんの『迷彩色の男』を読んで、難しいと思った。これは、彼のデビュー作の二番煎じではないだろうか? それでいいの? ずっとゲイとかミックスを書き続けるのか。彼のデビュー作『ジャクソンひとり』は、あれはあれでいい。『ハンチバック』とは覚悟小説だとも僕は書いたが、これもそうだった。難しいよね、二作目って、何を主題で書くのが正しいのだろうか。求められているから、同じような小説を書いたのかな? 分からないや。という感想はまたいつか詳しく書く。それでまた『ニムロッド』を読み返した。やっぱりよかった。90点。そして今、冲方丁さんの『骨灰』を読んでいる。ミステリーでホラーなんだけど、こういうのも面白いね。たぶん、明日には読み終わる。そしたらまた『ニムロッド』を読もうと思っている。

『ニムロッド』について、
いつもみたいにここで記事を書いてもいいのだけど、まだ足りない気がしている。それか、僕にとっての『風の歌を聴け』に近いのかもしれず、何だか乗り気がしない。『風の歌を聴け』だって、結局は記事にしたが、他の読書感想記事とは一線を画している。文章の引用はしないし、ただ徒然と想いを書いているだけに過ぎない。

『ニムロッド』には、心地よい倦怠と虚無があった。


残暑はまだあるが、9月になって、夕方にもなれば、だいぶ涼しくなった。昨日久しぶりに走った。僕は、『ニムロッド』について考えながら走った。

走る時は、いったん無心になって、色々なことを考える。小説のアイデアを考えるとかももちろんそうだけど、なかなかしないのは、既存作品について考えることだった。

僕は、読後にあまり考えない。執着しないというか、本を閉じれば終わる。自分の小説であれば、ずっとああだこうだとか考えていることがあるが、誰かの作品については、あまりしない。たぶん、しないようにしているのかもしれない。

本を読み始めたばかりの頃は、違った。読後に答え合わせのようなことを望んだ。ネットで探せば、解説記事のようなものがあるし、せっかく読んだ経験を、なんとか身にしようとする邪な気持ちがあったのだと思う。悪いことだとは思わないし、悪いとも言わない。

でも、最近はしないな。というか、いわゆるネットなどのそういうブログはほとんど見ない。僕は、気がつけばこのnoteの世界で、小説を読んだ後に、記事にするようになった。だけど、解説というよりプレゼンをしている感の方が強いし、実際に僕の記事はそういう類だと思う。

だから、僕の記事を読んでも、たぶんネタバレはしないし、「あらすじ」も分からないだろうと思う。

これは、たぶん僕がそういう記事の方が好むからだろうという背景があるのだと思う。またリテラシーとか横文字を使ってみるが、読書量に比例して、なんとなく読めるのだと思うから、いわゆる解説記事には興味がなく、むしろ新しい読書体験をそそらせる記事を好むのだろうと言う点と、僕は紹介したいのだと思う。「みんな聞いて。こんな素晴らしい、面白い本があるんだよ!」という感じに。

でもね、

向き合ってみようと思ったんだ。『ニムロッド』は2時間半で読めるし、彼の本の中では断トツで読みやすい。とても実世界に近く、主人公と同い年の僕だ。この、世界にもっと潜ってみようと思った。考える遊びしろが多いと思った。たまにあるんだけど、無責任じゃないと思った。最後、後はご自由に、と逃げているわけじゃない。あえて書かなかったラストがある。僕は、それを考えてみようと思った。


なぜ「ニムロッド」なのだろう。ダメな飛行機コレクションで、ほんとうに語りたかったことは、その真意とは。塔とは、そもそも創作としての小説とはいったい何なのだろう。「東方洋上に去る」と残した田久保紀子の行方。サリンジャーなのは分かった。でも、あの小説の最後にはいったい何が語られているのだろうか。

などと、僕は走りながら色々と考えていた。そのことに気がついて、僕は、なんて贅沢なのだろうと思った。

幸せだった。
小説を好み、この小説に出会えてよかった。

風が心地よかった。足も、痛くなかった。早くも遅くもないペースで、僕は走り続けた。よかった、久しぶりだけどまだ走り方を忘れてはいなかった。

気を抜いたのだろうか、イヤホーンからバンプオブチキンの『プラネタリウム』が聴こえた。走り始めに比べてだいぶ暗くなっていた。それもあるが、畑を横断していたところだった。照明も少なかった。もしかして、と思って空を見上げた。


あいにく星は見えなかった。
でも、なんだかいい気分だった。

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