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私にとって、時間は手に取れる物理的な塊のようなものとしてある【読後感想】上田岳弘『太陽・惑星』その2、惑星編

注釈)前段はその1、太陽編と同じ。なので、記憶に新しければ読み飛ばして頂いて結構。もちろん、復習もかねてもう1度読んで頂くことがあれば、僕は嬉しい。「同じ」と書いたが、せっかくなので少しだけ加筆してみることにした。些細な事だけど。

2014年
 ヤバイ本
 純文学
 90点
 6.5h

本書は、『太陽』と『惑星』の2つを収録している。それら併せて上の評価とした。

僕は、難しすぎて(※)3回読んだ。
も、あるが、面白すぎて3回読んだ。でもある。彼の『私の恋人』を読んでいたせいか、1回目から80点と高評価だった。高評価というより読めた。に近いかも、2回目は85点にして、3回目は90点とした。
※彼の『私の恋人』という小説の読後感想記事で、偏差値70と書いた。僕はその前段があって今回、比較的容易に読めたが、初読1回だけでは難しいというのが、正直な感想である。

『太陽』は、彼のデビュー作で、その次が『惑星』とのこと。
さきに、はっきりと言っておく。

天才


間違いない!
なんなら、引くまである笑 レベルが違う。化物。こんなん自信喪失する。書いたけど、デビュー作だからね! もちろん『私の恋人』でもそうだったけど確信した。上田岳弘は天才だね。

断っておくが、簡単に言っているわけじゃない。前、かなり初期の記事で書いたけど、僕は「絶対」という言葉について触れた。端的に言えば嫌いだと書いた。それと同じくらいか、この「天才」という言葉にも思いがある。この言葉はね、簡単に使っちゃいけない。安くなるし、他の天才たちに失礼になる。でも、その心配は杞憂。

彼は、間違いなく天才だね。直近でいえば「小川哲」さんに対し、それに近い感情をもったかもしれない。

もちろん、僕の好み、主観にしかすぎない。だけど、上田さんは天才だな。

そもそも「天才」って、なんだろう?
天才の定義という話でいえば、僕なら、唯一無二感と説明するか、それか、到底「真似できない」だとか、想像の範囲外、とかかな。なんだろう、うまく言葉にできない。そうか、これも、「天才」を示しうるのかもしれない。とにかくすごい、凄いとしか言えない、ほかになんて言葉を紡げばいいのかわからない、これも、「天才」を説明しているのかもしれない。だって、他の言葉で説明できない、何々みたい、の、「何々」が無いのかもしれない。その意味で言えば、先駆者・パイオニア、さきがけとなった存在として説明できるのかもしれない。

どうだろう。「天才」って、なんだろうね。迷子になりそうだけど、少なくても僕は、僕の定義らしいもので、彼を「天才」だと認めるよ。

さて、話を戻す。

ジャンルは純文学にしているが、SF。というか、こういう作品に出合うとジャンルなんていう枠が邪魔くさい。2作とも、とっても面白かった。これも、間違いなく買い本。というか、彼の他の作品、ぜんぶ読みたい。前振りが長くなった。前もそうだったけど、とにかく興奮しているんだよ。


その2として、惑星編の記事をこれから書く。

ちなみにその1、太陽編の記事はこちら

さて、
『惑星』は3時間20分で読み終わる。

先に紹介した『太陽』よりは複雑だ。そう、コンプリケーションなんだよ。そして、難しい。だけど、最後のオチ? と言ってもいいのか、その点は、『惑星』の方が凄いね。まあ、この「凄い」なんて言葉も陳腐かもしれないが、ただ繰り返しになるがぜひクリストファーノーラン監督あたりで映画化してもらいたいものだね。強いて言うなら、『惑星』の方が物語性がある。

物語性があると書いた。これを読んだって、絶対に分からないと思うから書くけど、ネタバレにはならない。これは「絶対」を使って大丈夫ww


Title<Conclusion 2020>
From<Yozoh.Uchigami> 2014/4/7
To<Dr.Frederick.Carson>

冒頭はコレ。この小説はそのメール本文を読むという体裁をとる。というか、その後も日付が変わるだけで、またそのメール本文を読む。時間軸は、どんどん2020に近づく。その送付者なんだけど、内上用蔵は「最終結論」で宛先のフレデリック・カーソンってのが、「最強人間」なんだよね。

はっ?ww
まあまあ、もう少し書くよ。

内上は最終結論なので、そのメールで未来のことを書く。というか最終結論なので、神の視点を持ち、また「透明者」を除けば、その思考を読み取ることができる。……分からないよね💦 補足じゃないが、付箋を貼ったところでちょうどいいところがあったので、抜粋する。

希死念慮に囚われることで弱者となってしまった彼または彼女を守るのに、その人間の属する国家やコミュニケーションの余力があてがわれる。最終結論である私は、透明者以外のすべての人間の考えや過去や未来の経験、つまり人類の起こることのほとんどすべてがわかってしまうので、様々な共同体における力の使われ方を追ってみることもできてしまう。

上田岳弘『惑星』から抜粋

分かった?ww
まあ、分からないだろうね💦
とにかく「最終結論」である内上用蔵が、そのほぼ全てを知っている人物が、「最強人間」に向けて、『Conclusion 2020(2020年の結論)』として語るんだよね。

全ては「最後の会話」のためであって、ではなぜそんなことをするのか、理由はある。キーワードは「最高製品」だ。その説明はこうだ。

現実と寸分違わぬ五感を脳に直で送り込むことを目指し、基礎技術の開発が急ピッチで進んでいる。それだけではなく、水分補給や栄養補充、排せつ物の処理までも自動的に行う介護装置を応用した技術も組み合わせる予定だ。そうすることで、人間が「最高製品」に接続している間に、現実世界を完全にシャットアウトし、装置が作り出す刺激に没頭することができる。
(中略)
一度そこに繋がったなら接続を解除するまで何もしなくてもいい。もし気が向けば寿命が尽きるまで接続したままで過ごすこともできる、そんな製品。

上田岳弘『惑星』から抜粋

と、この「最高製品」について、後に補足があるんだけど、ここがね、攻殻テレビアニメシリーズ2ndの『草迷宮』だったか、『未完成ラブロマンス』を思い出したところ。余談。

でも、書いてあることは、納得できたなあ。長いけど、書くよww

最高製品という名前からあなたがたは一体どんなものを思い浮かべるだろう? これ以上ない、最高の製品とは、果たして? それを手に入れたら以後に何も必要としない、文字通りそれさえあれば生きていける製品。しかし、人間がある製品にすっかり満足してそれで生きていくことができるだろうか? もし、この上ない満足感を得ることができたなら、それは終わりを意味するのかもしれない。完璧な満足感をもたらしその後の人生を余生と化してしまうもの、そんなものを私は作りたくはない。それは人々が望むものでもないはずだ。あなたがたは未来志向ではあるが、どこかで未完成で、しかし先に広がる可能性を感じさせるものをいつも求めてきた。つまり、最高の満足感を与えるものは、最高製品になり得ない。むしろその逆で、最高製品はいつまでも未完成な状態を人々に際限なく見せ続けるものでなければならない。

上田岳弘『惑星』から抜粋

もう、意味がわからない、追いていけないだろうが、とにかくこういう感じがSFで、かなりディストピアなんだよね。

また『太陽』同様、他の登場人物も豊かで、たとえばアッバス・アルカン。彼は教典を書いている。彼は、キーマン。

それと
猫杓亭メバチ、衆議院議員の長谷川保に、都職員、内上のホスト赤羽時代に出会った映画好きの女性、彼女は内上に「ルール設定が違うのよ。あなただけ」と言った。

ほかに、下記に抜粋するような言及があるんだけど、どれもシビレル。

私も含めて、先進国に住む我々には責任があることを忘れてはいけません。誤解を怖れずに言えば、我々には「幸福」を追求する「責任」がある。権利ではありません、我々にはその義務があるのです。そして幸福は、個人の願望とは全く違うものです。
氏はつまり、最終結論のことを言っている。


しかし物事はそう単純ではない。本能とは現実の意味の始末に匙を投げた故の捏造物だ、と言った人類学者もいたね。


私は先ほど、独占すれば足り、分かち合えば足りない、が真だと言ったが、時間軸を無視して考えるならば、余分な鹿が最初からこの世に存在しないようにすることもまた、すでに存在しているものが、先の時間にあるかもしれない存在を未然に排除して、独占しようとする行為に他ならない。鹿でも人でもなんでも構わないが、環境を左右し得る上位者は、このケースでは殺戮と未然排除、そのどちらがよきことであるのかを見極める義務がある。


人はね、人だけは真実に従う必要なんてないんです。


私は未来も過去も全部知っているのだから、私が今このように考えることになるのも知っているはずで、私にとって、時間は手に取れる物理的な塊のようなものとしてある。

上田岳弘『惑星』から抜粋


ごめん、上手にプレゼンできなかった💦
「天才」は説明できない。さいごに、これだけは言わせて。ラストは圧巻!

ほんと、すごいんだぜ。ぜひぜひ!


そうだ、買い本と書いた。文庫本を買ったんだ。たまたま大きな書店に行くことがあって、新品で買ったんだ。新品なんて、久しぶりだね。大切にしよう。と、ついでに彼の芥川賞受賞作の『ニムロッド』も買った♬

左下見てよ、早速コーヒー零したで💦 断面はもっと最悪。一瞬で中古感が漂ってしまった💦

でね、なんと文庫巻末の解説に町田康!!
久しぶりに町田康の文体に触れたが、やべえ、火傷しそう!
もう、これも併せて読めるなら絶対に文庫本よ! 買ってよかった!
ただ難解ではある💦 というか、自由過ぎるくらい自由に書いていたww
いいよ、やっぱ面白い。すごいんだから、ほんと。
まて、そう言えばそうだった、町田康、彼も間違いなく天才だったわ笑

次は『ニムロッド』を読もう。5年前? 芥川獲った時にも読んだが、まだあの時の僕はリテラシーが乏しかったね。だけど、今ならきっと読める、楽しみだな♬


最後まで 読んでくれてありがとうございます。
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なお嬉しいです。もちろん「コメント」も!
よろしくお願いします♬
また次の記事も読んでくれたら嬉しい(過去記事も)。それではまた!

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