見出し画像

小説詩集「文房具かいぎ」

ボコボコと至るところに落とし穴があって、はまってた。

良心にしたがったり、同情したり、だれかの決定にあきれたりしてヨロヨロ歩くものだから、どんどんはまってた。

で、よし、穴から這いでるぞ、みたいにもがいていると、だれかれ寄ってきて、いろんな話をし始めるから私はコロコロ穴の中で転がされて、気づいたら丸くて美味しいタコ焼きになってた。

「お疲れ様、」

口々に言って、そそくさと帰る引き潮に、あ、んな時間かって宇宙に飛びちる鉱石みたいに私も飛び出した。

ポンポンポンって数字を打って部屋のロックを解除してたら、中から声が聞こえてきたので手をとめた。

「字が汚いのは私のせいじゃないわよ、」

「処理時間かかりすぎ、とか僕なんか罵倒されたんだぜ、」

「自分こそどんだけとろいのかわかってないのよ、」

憤慨してるのはどうやらシャーペンとパソコンのようだった。

ドアを開けたら、部屋中の物という物がタコ焼きになっていて転がってた。

「今日の会議は参加者が多そうね、」

「文房具かいぎの定員こえてますよ」

とか言ってきたのは最近使っていない消しゴムだった。

「部屋の住人全員が参加するつもりらしいですよ」

ガヤガヤと不満の噴出する渦のなか、

「今日の議題は、」

て話し始めたけれど、タコ焼きたちの嘆く声にかき消された。

「困りましたね、」

消しゴムが私のとなりで首をひねる。あれ、消しゴムだけタコ焼きの形状してないな、って私も密かに首をひねる。

「議題はストレス解消法だったんだけど、」

だってほら、埋まらない隙間を満たす誰かの欲求が、私たちを転がし続けるから。

「それでね、」

「それで?」

それで、ノートに書き出して薙ぎ倒すみたいにみんなに呪いをかけたいの。

「ああ、あのシャーペンで、」

私は頷く。

「でも、ジャッジはできないですよ、」

みんな石にされても自分のままですから。

「石にされても?」

「石にされても1ミリも変わらないんですよ」

「わかるの?」

「僕も呪いかけられてるんで、わかるんです、」

呪いかけられて消しゴムになってこうしてますけど、僕の正義はやっぱりそのままで、本質が変わると言うことはないんです。

そういえば、会議室でひろった消しゴムに持ち主が現れなくって、保管したまま私、持ち帰ったんだった。

「今日の議題は変更するね、」

とか言って呪いを解く方法を、けんけんガクガク話し始めたのだけれど、壁の白い時計だけがカチカチと変わることなく進んでて、見上げた先の宇宙のミッションを遂行してるみたいだった。

おわり

❄️長い間気絶してました。みたいな言い訳しつつ、やっとこさ仕上げたら2月でした。もう二度と気絶なんかしません、ほんとうです。みたいな神妙さをみせつつ、えっへへ、とか笑ってお茶をにごします。また書きます。ろば


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?