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真冬の海で朝日をみた話。


これは2018年12月19日の日記。
西の魔女友であるところのRが地元へ来てくれた時の話。

彼女との思い出話。


今はできなくなってしまったけれど、前は年に一度だけお互いの街へ会いに行っていた。

約束をするまえに、いつもあんなところへ一緒に行きたいねと話して、なら今度はそこにしようか。という流れで場所が決まり、日程が決まる。


Rとは長野まゆみや、プラやPIERROTみたいな世紀末バンドの話もするけれど、いちばん多いのは楠本まきやムーミンの話で、お互い魔女に憧れていた。


朝日を見に行ってみたいなとずっと思っていて
一生に一度くらい、夜の暗い海に昇る太陽をふたりで見に行くっていう事がしてみたかった。

一度黒服集会でしたことがあるけど、あれはちょっと別のノリのものだったので。


もし同じ学校だったらさ、屋上で授業をサボったり、カラオケオールしたりファミレスに寄ったり、コンビニの肉まんを公園で食べたり、電車で同じバンドの曲を聞いたり海へ行ったり、そんな何気ない日常を一緒に過ごしたかったよねって
そういう話をRといつもしていた。Rはそんな空想に、いつも本当に付き合ってくれるから。

ならそっちへまた行くからしようよって言ってくれて、その日の予定が決まった。


夕方近くに駅で落ち合ったロリータのremと、Vivienne Westwoodの上にあるカフェでケーキと珈琲のティータイムをした。

木造りの店内と、マスター夫妻の空気が物語みたいで、remと行くとまるで楠本漫画みたい。

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それから暮れた街のコンビニで肉まんを買って
近くの噴水のある公園で食べた。

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公園にはなぜかいつもは無いメリーゴーランドが出現していて、彼女は魔女だから一緒にいたらこんな事が起こるんだなと思った。

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それからカラオケのフリータイムで夜明け近くまで好きなバンドの歌をたくさん歌った。


カラオケを出ると、外は白んでとても寒くて
時間調整の為にコンビニのイートインへ入って深夜が朝に変わっていく空気を感じていた。

日の出の時間は調べていたし、乗るのは始発だったけれど、明るくなる頃に海に居たかったので、その時間を選ぶのは難しかった。


そろそろ行こうかとコンビニを出て、駅へ着くと、薄暗いプラットフォームで乗客を待つ始発電車はがらがらだった。

座席へ座って車窓を眺めながら、海の駅へ行くまでのすこしの時間、イヤホンを分け合って卓偉のSTAY TOGETHERを聴いていた。

車窓はもう朝の明るさをしていて、もう朝日なんか昇ってしまったんじゃないかってすこし焦った。



ねえ、どこからが朝なんだろうねって話しながら、朝を探して追いかけるみたいに
海の街に相応しいレトロな駅舎を出て夜を背に、朝日の昇る方へ歩いた。


駅から真っ直ぐの路を歩けば水平線はもう見えていて、海からやってくる風が凍てついていた。

寒いしか言えなくなりながら、その寒さに笑ってしまいながら、防波堤に辿り着いた。


防波堤の向こうの階段を降りると、風はいよいよ冬の凍るような冷たさで
水平線から予報時刻の通りに太陽は昇り始めた。


焼けていく空で雲が燃える木炭のように煌めいて
まだ青さの無い暗い海に光の道ができはじめた。

砂浜の波の跡は硝子のように日の光を反射して、浜辺の砂利すら輝いていた。

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電車で聴いてきた卓偉の言葉の通りだなと思った。

海を探してる遠浅の向こう
石は砂に夜は朝に変わる
形も音さえも存在しない今を
「今日」と呼ぶと知った

昇る朝日に、ケープを被って凍えたRが、「朝や…」と呟いた。

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空の色が明確に明るくなっていき、太陽に照らされた雲の影が空に出来るのだと気付いた。新海誠の描く空には、そんな影の描写があったな。

朝日の記憶は殆ど持っていないけれど
この日のこの朝日が自分の知っている朝日なら、とても素敵なことだと思った。


立ち尽くして見ている間に、朝日はみるみる昇っていった。
本当に綺麗だったから、言葉なんかいらなかった。


朝日が昇り切るとすこし寂しくなったけれど、今度は太陽と海に背を向けて朝の街を歩いた。

明るくなった駅舎の窓から富士山が見えて、Rがそれを喜んでくれていた。

地下街のカフェで、Rが乗る新幹線の出発時刻まで時間を潰した。
さすがにお互いあんまり眠くて耐久戦になりながら、他愛もない話をした。



そうしてまた一生の思い出をくれたRに、心からの感謝を。
朝日を見に行きたいなぁと行って、それに付き合ってくれる人なんてなかなか居ないよ。
夢を叶えてくれる魔女。

あんなに寒い12月の冬の夜明けを、一緒に見てくれてありがとう。





これまでサポートくださった方、本当にありがとうございました!