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新興俳句は面白い!

『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』現代俳句協会青年部

◆現代俳句協会青年部・編
この輝かしい俳句の流れは、ここで途絶えてしまったのだろうか。そうではない。地下水脈となって浸透したのだ。

新興俳句とは何であったかを、広角的にアプローチし検証することが目的である。担い手は新興俳句がそうであったように、二、三十代の若者が中心となった。本書には俳句の未来をさぐる手がかりが無尽蔵であると信ずる。

◆収録作家
安住あつし/阿部青鞋/石田波郷/石橋辰之助/井上白文地/片山桃史/桂信子/加藤楸邨/神生彩史/喜多青子/栗林一石路/高篤三/齋藤玄/西東三鬼/佐藤鬼房/篠原鳳作/芝不器男/嶋田青峰/杉村聖林子/鈴木六林男/高屋窓秋/竹下しづの女/富澤赤黄男/永田耕衣/中村三山/仁智栄坊/波止影夫/橋本多佳子/橋本夢道/東京三/東鷹女/日野草城/平畑静塔/藤木清子/古家榧夫/細谷源二/堀内薫/水原秋櫻子/三谷昭/三橋敏雄/山口誓子/横山白虹/吉岡禅寺洞/渡邊白泉

伝統俳句の約束事に疲れてしまい俳句熱も冷めていた時にこのアンソロジーに出会いました。新興俳句を知ったのは、宇多喜代子『ひとたばの手紙から 戦火を見つめた俳人たち』を読んだからでした。

「新興俳句事件」で弾圧拘束された新興俳句の俳人たち。秋元不死男『瘤』「捕らへられ傘もささずよ目に入る雪」。新興俳句の無季・戦争句でよく知られた渡辺白泉「戦争が廊下の奥に立つてゐた」も「新興俳句事件」で検挙され、それ以後断筆を余儀なくされた。

このアンソロジーを読んで、戦時体制の中で反体制派ばかりではなく、都会のお坊ちゃん風な俳句から、ダメンズ的な俳句までいろいろあるので、面白いと思います。

日野草城。「ミヤコ・ホテル」は、新婚初夜の様子を詠んだ連作。新婚初夜の様子を詠んだ連作。「麗らかな朝の焼麺麭(トースト)はづかしく」というような句で伝統俳句派からは非難轟々。俵万智になりそこねたと考えていいのか?これが乙女だったらそんなに非難轟々にはならなく俳句も口語俳句ブームが起きていたよな気がする。早すぎた口語俳句?

「ところてん煙のごとく沈みをり」
「うららかな朝のトーストはづかしく」
「クロイツェル・ソナタ スポンジケーキの黄」

虚子の逆鱗に触れ、「ホトトギス」同人除名。ただ季語を無季にしたことで理解者が少なかったようだ。室生犀星は、俳句が老人文学から若者文学へとベタ褒め。短編小説のような。草田男は「恥ずかしい俳句」「石鹸玉のような」。それは当たっているかも。

橋本夢道の自由律俳句は、なんでもあり。コピーライターでもある。「みつ豆をギリシアの神はしらざりき」がいい。「妻よおまえはなぜこんなにかわいんだろうね」これが俳句になる。

新興俳句は定形に縛られることもなく、また連句(一人で連句)で映画のカットのように表現する方法も。山口誓子「大阪駅構内」連作モンタージュ手法。「夏草に汽缶車の車輪来て止まる」は名句。正岡子規の「糸瓜」絶筆三句の例もある。連作は形式はありだと思う。けっこう連作の俳句は多い。

新興俳句で問題とされるのは、有季派と無季派がいて、水原秋桜子と山口誓子は、有季固定派だった。戦時句(南島のような場合季節感がはっきりしない)のような出来事と出会う場合は無季でもいいというような。出会いの一回性。季節はその年の一回性。社会詠は季語不要なのではないか?

無季とされるのだけれども戦争という季節があるのかもと思った。よく例に出される「戦争が廊下の奥に立つてゐた 渡辺白泉」がそうだし、「遺品あり岩波文庫「阿部一族」」も戦時作られたとすると「阿部一族」もいろいろ意味帯びてくる。

新興俳句は都市を詠む。モダン都市がキーワードだという。伝統俳句は、農村の四季折々の情景を詠むのに比べて都市の四季折々は画一的になるのかもしれない。だから無季でも都市を詠む。その時代の事件が季節変わりなのだ。

好きな新興俳句

石田波郷

自動車の深夜疾走し散る桜
音も無き苺をつぶす雷の下
霜柱俳句は切れ字響けり

喜多青子(きたせいし)早世の天才歌人


灰皿に噛み捨つるガム夏を病む
ソーダ水翡翠のあをき手が添へる
おぼろ夜の街へ空気のごとく出る
夢青し蝶肋間にひそみゐき
脳髄に驟雨ひびける銀の夢
曼殊沙華街にそだちて燃えゐしが

「新興俳句と口語」。口語は難しい。やっぱ切れの感じか。俳句読本に毒されてしまっているのかも。

「頭の中で白い夏野となつてゐる 高屋窓秋」
「水枕ガバリと寒い海がある 山東三鬼」
「戦争が廊下の奥に立つてゐた 渡辺白泉」

仁智栄坊。俳号が面白い。ロシア語の「ニーチェボー」(気にするな・勝手にしやがれ)からだと。戦争俳句を作って、京大俳句事件で逮捕。満洲に渡った。

「戦闘機ばらのあるの野に逆立ちぬ」
「日本語がわつと裂け中隊は地に」
「理髪店将軍とスパイが剪らりゐる」
「文化都市獨裁者の黒き脱糞」

高屋窓秋。


「降る雪が川の中にもふり昏れぬ」
「川を見ていたのではない。いっさいのものが沈んでゆく『思い』をみていたのだ」
「頭の中で白い夏野となつてゐる」
「蝶の木の蝶の秋風ながれけり」
「蝶ひとつ 人馬は消えて しまひけり」
満洲帰還者だった。

竹下しづの女(じょ)、新興俳句の夏井いつきか?


「 短夜や乳ぜり泣く子を須可捨焉乎(すてちまをか)」
「三井銀行の扉秋風を衝いて出し」
「汗臭き鈍(のろ)の男の群れに伍す」
絶筆
「ペンが生む字句が悲しと蛾が挑む」
「蛾の眼すら羞じらふばかり書(ふみ)を書く」

橋本多佳子。4Tの人。はじめ伝統俳句から新興俳句へ。お嬢さんだった。


「凍蝶のきりきりとのぼる虚空かな」
「猟銃音殺生界に雪ふれり」
「げんげ畑そこにも三鬼呼べば来る」
「蜥蜴食ひ猫ねんごろに身を舐める」

富澤赤黄男(かきお)」。かきおって読む。この人は凄い。

「蝶墜ちて大音響の結氷期」これは凄い。
「貧乏にまけさうになる水をのむ」落差が凄い。
「玉ねぎが白く風邪を引いてゐる」可愛いな。
「戀びとは土龍のやうにぬれてゐる」面白い。
「爛々と虎の眼に降る落葉」漢詩調。
「ペリカンは秋晴れよりもうつくしい」これはよくわからん。
「鳥のゐる枯木 と 鳥のゐぬ枯木」空白の技法



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