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時代劇を作った男たち

『MIFUNE:THE LAST SAMURAI』(日本/2018年)監督スティーヴン・オカザキ 出演香川京子/司葉子/土屋嘉男/加藤武/八千草薫/夏木陽介

解説/あらすじ
スティーブン・スピルバーグやマーティン・スコセッシなど世界の巨匠に愛された唯一無二のサムライ俳優・三船敏郎。2016年にはハリウッド殿堂入りを果たすなど、いまも世界中のファンの心を惹きつけ離さない“世界のミフネ”の波乱に満ちた生涯と映画人生に迫るドキュメンタリー映画。

NHKラジオの「カルチャーラジオ 日曜カルチャー」で『春日太一の「時代劇入門』をやっている。これが面白い。時代劇の新しい見方。時代劇はファンタジーであり、現代人の失われた精神であるかのようにある特定の人々の精神を描く。それは現代劇ではリアリティに欠る話でも物語として納得せしめる。

【聴き逃し】カルチャーラジオ 日曜カルチャー「知ればもっと面白い 時代劇再入門」(2) 1月9日(日)午後8:00放送 #radiru https://www2.nhk.or.jp/radio/pg/sharer.cgi?p=1940_01_3752502

70年代の反社会的時代劇は、現実では起きない権力者を叩くというファンタジーを描いたから人気を博した。60年代の反体制運動の挫折によって現代では描かれない夢を描いていた。時代劇であるファンタジーは、失われた精神というのではなく、制作側の思惑なのだ(そうでありたい人情や義侠心)。その時代でも求められるファンタジーは変わる。

今はそうしたファンタジーを時代劇よりもアニメで求めているのかもしれない。それがかつては映画であり、時代劇であり、その一時代を築いたのが黒澤明監督と主演スターの三船敏郎だった。

その三船敏郎のドキュメンタリーだからつまらないはずはない。黒沢作品の数々や他のサムライ映画でのアクションの見事さ。『七人の侍』『用心棒』『羅生門』『蜘蛛巣城』いつみても凄い。しかし、それは時代劇のマンネリ化を打ち破ったのが黒澤監督の演出であり、三船敏郎の演技だった。

三船敏郎の殺陣(たて)がそれまでの様式美ではなく、動物のライオンの動きからヒントを得たものだった。それまでの文法を無視したところに野性味溢れる躍動感があるのだ。それをハイウッドの監督たちはダンスのようだと感想を述べる。

黒澤監督がただ一人演技指導しなかったのだが三船敏郎だったという。それだけ三船敏郎は研究熱心でもあったし、黒澤監督の無理題にも我慢強く従った。それは今の時代では考えられないことなんだろう。だから年々黒澤も日本では映画が撮れなっくなった。時間の制約と資金の問題となにより黒澤のスパルタ方式について来れる者がいなくなった。完璧主義者としての黒澤は役者への要求も高い。三船敏郎でも酒を飲むと黒澤の家の前で罵声を浴びせていたという。

そんな二人が別々の道を歩むのも、三船敏郎が大スターになるにつれて三船敏郎を使いにくくしたのかもしれない。晩年になっての身体の老いを考えて黒澤はそういう方向性に進んでいくのだが、三船敏郎は主役を張って独立会社を作って社員を食べさせるためにTVドラマにも出なければならなくなった。マンネリ化する時代劇にも。

それでも全盛期の三船敏郎と黒澤監督の素晴らしい映画が今も見られることは幸せである。

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