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「聞き書き」のスタイルを築いた森崎和江

『奈落の神々』 森崎和江(平凡社ライブラリー – 1996)

「金のワラジをはいて探しても、地の上にゃ見つけきらん」地底の過酷な労働の中で生まれ今は失われた精神の形を、聞き書と歴史資料によって探りあてた名著。解説=簾内敬司

ETV特集で森崎和江の番組をやっていたので再アップ。

森崎和江は、ユネスコ世界記憶遺産となった山本作兵衛の絵を辿っていく映画『作兵衛さんと日本を掘る』で知った。炭鉱所で保育園を開いて女坑夫から聞き書きをして『まっくら』という本を出したというので興味を持つ。『まっくら』は絶版だった(岩波文庫で再販されるそうです)ので、さらに労働史として追求したのがこの本。炭鉱労働という、その過酷な労働が文字化されにくいこともあった。全体的に古文書とか昔の資料は読みにくく時間がかかる。聞き書きの部分がこの人の本領発揮するところだろう。炭鉱には「おがみや」という霊媒師がいて、憑き物(死霊やら狐憑き)をお祓いする。彼女もそんなタイプ。石牟礼道子のような。

民俗学でも対象となるのは平地の農耕民である。山人の民俗学は柳田国男でも言及されるが彼らのことはあまり出てこないので森崎和江が探求したのだ。直接のきっかけは朝鮮人の無縁仏かもしれない。労働史の中で毎日のように落盤で死者がでても身元不明な彼らは災害事故の数に入ってなかった。無縁仏に記された名前も日本名に変えられたり出生地がわからなかったり、オーウェルが『カタロニア讃歌』の無名戦士たちを記したように彼女が墓碑銘を記すのは祈りなのかもしれない。日本の近代化と共に犠牲となった労働者たち。児童労働もあったのだ。

「下罪人」と呼ばれた炭鉱労働者の歴史。彼らの山の神の言い伝え。やまの神さんは坑道にはおらん。神をおらんところで下罪人と呼ばれた人が地獄のような地下道で働いて、死んでも死霊となって生きているものに憑いてくるのだ。そのうちに太子堂(弘法大師が最初に彼らを救うという)が出来て近代化とともに神社に祀られていくがそれは別の安全祈願とされていく。もとはそういう炭鉱事故での弔う意味があった。さらに下罪人と呼ばれる隔離された世界での治外法権での壮絶なるリンチ。「さがり蜘蛛」「キナコ」「くくり猿」とかの拷問の数々。

キナコは土間を這いずり回すリンチ。

「高松炭坑鬼よりこわい
 キナコキナコの声がする 
    文句ぬかすとセナ棒でどたま
 さらし手拭い血で染める
 いやな人くり邪慳の勘場
 なさけしらずの納屋頭」

という歌が伝わるほど。(2019/11/02)


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