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『近代詩の誕生: 軍歌と恋歌』:心地よい歌は世界を忘れる

『近代詩の誕生: 軍歌と恋歌』尼ヶ崎彬 (著)

明治時代、軍歌「抜刀隊」は詩として発表された。しかし現在、軍歌や歌謡曲の歌詞は詩とみなされていない。それはなぜか。外山正一、森鴎外、坪内逍遙、与謝野晶子らがしのぎを削った明治の一幕から、日本に「芸術」が成立してゆくドラマを追う。
目次
序章 軍歌と恋歌
第1章 新体詩の登場
  三つの序文
  東洋学芸雑誌
  『新体詩抄』
第2章 「抜刀隊」――新体詩としての軍歌
  軍歌「抜刀隊」
  「ラ・マルセイエーズ」
  「ラインの守り」
  田原坂の抜刀隊
  テニスン「軽騎兵旅団の突撃」
  「自己犠牲」と「名誉」
第3章 志の文学――漢詩の伝統
  詩言志の文学観
  慷慨詩の時代
  還らざる壮士
第4章 共感と追随――新体詩の増殖
  『新体詩歌』
  湯浅半月「十二の石塚」
  山田美妙の『新体詞選』
  国木田独歩「独歩吟」
  軍歌としての新体詩
第5章 古典派の反撃
  俎上の『新体詩抄』
  池袋清風の新体詩批判
  長歌の改良
  朦朧体論争
第6章 西洋派の一撃
  西洋派の文学観
  芸術のための芸術
  森鴎外の美学的芸術論
  外山・鴎外論争
  論争の後
第7章 国民的詩人――民衆歌と叙事詩
  軍歌の時代
  俗謡論
  叙事詩と叙事唱歌
  寮歌と民衆詩
第8章 近代詩の成立
  島崎藤村と与謝野晶子
  感性の革新と詩の自立
第9章 忘れられた実験――自由詩と朗読
  自由律
  朗読体
  視点の転換
 参考文献
 あとがき

第1章 新体詩の登場

明治の新体詩が日本で最初に書かれたのは専門の作家ではなく、学者だった。それは西欧の詩(アンドロジー)を学び日本でも詩を普及させたいと思ったからだ。日本の短詩(短歌や俳句)は詩というよりも文芸だった。詩と言えば漢詩なのだ。それを日本の日常語で書き国民に広く知らしめる方法を探っていたのである。

第2章 「抜刀隊」――新体詩としての軍歌

なによりも詩は国民の感情を熱狂させるものとして軍歌に注目する。フランス国家の「ラ・マルセイエーズ」やドイツの軍歌「ラインの守り」から「抜刀隊」が作られ、小学生までに歌われた。

第3章 志の文学――漢詩の伝統

「抜刀隊」の歌詞を見ればわかるように、それは漢詩を元にしているのだ。「漢詩」の詩的な言葉は、我が身を犠牲にして国に忠臣を尽くすという中国伝統の述懐の漢詩が元である。今で言うイスラムの自爆テロとかの心情と変わらないのだ(特攻隊がカミカゼアタックという自爆テロで恐れられていた)。

第4章 共感と追随――新体詩の増殖

新体詩の変遷は七五調の湯浅半月「十二の石塚」は叙事詩であり、これも愛国的な詩であり、キリスト教聖書の焼き直しというような。

山田美妙の『新体詞選』が編集したものは、雅語や文法の誤りを正した庶民が楽しめる「新体詞」とした。詩を詞にしたのは、謡に近かったのか。ただ当時の恋の歌は花柳界のもので、詩は意識を高揚させる国民的なものだとして、恋の歌を歓迎しなかった。それが軍歌などが流行っていく時代の流れだったのだ。やがて子供時代に抜刀隊などの軍歌で育った青年が立身出世を夢見るようになり、なによりも西欧の自由という思想に憧れていく。

そして国木田独歩「独歩吟」がでるのだが、独歩が抜刀隊を詩のモデルとしてあげるのは、当時だれでも合唱が出来て歌えたことだった。昔のアニメソングに近いのかもしれない。「宇宙戦艦ヤマト」や「「残酷な天使のテーゼ」」は青年立志の軍歌とも取れるのかもしれない。私が子供の頃歌っていたウルトラセブンの主題歌もそうした部類だった。そうしたものとは外れる思われる「ゲゲゲの鬼太郎」さえ、みんなで運動会なのだ。

第5章 古典派の反撃

古典派は詩に美を求める。滞る言葉ではなくすらすら流れる韻律を。そして恋歌は俗なものだと言われ、反戦歌は禁止されていくのだ。

与謝野晶子が『みだれ髪』を短歌で詠んだいたときはいいが『君死にたまふことなかれ』はけしからんと言われる。

第6章 西洋派の一撃

西欧では自由が歌われ、シェイクスピアの戯曲も詩だという。やがて象徴主義に目覚めていく。そうした詩が日本に紹介されていくのだ。

第7章 国民的詩人――民衆歌と叙事詩

そして近代とともに国民というナショナリズムのために詩が必要だとされる。それに反する民衆歌は弾圧されていく。

第8章 近代詩の成立

島崎藤村の『若菜集』は初恋の詩で与謝野晶子『君死にたまふことなかれ』は反戦詩で禁止され、軍歌一色の世界となっていく。

第9章 忘れられた実験――自由詩と朗読

自由律はそれまでの七五調から自由な韻律で詩を書いた実験だった。そして、西欧は詩の朗読は当たり前のように行われいたが、日本ではそういうことはなく、心地よい音楽と歌だけが今日も流れる。


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