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リチャード三世は悪の王か、それが問題だ

『シェイクスピア全集 (7) リチャード三世』松岡 和子 翻訳 (ちくま文庫)

「口先で奇麗事を言う今の世の中、どうせ二枚目は無理だとなれば、思い切って悪党になりこの世のあだな楽しみの一切を憎んでやる」。世界を憎悪するリチャードは実の兄を陥れ、殺した敵の妻を口説き、幼な子を惨殺し、利用しつくした臣下はごみのように捨て―。奸計をつくして登りつめた王座に、破滅はあっけなく訪れる。爽快なまでの「悪」を描いた傑作。

映画『ロスト・キング』を観てからの読書。以前も読んでいたのだが、『リチャード二世』と混乱しているところがあったと思ったので再読。やっぱ登場人物名は混乱する。

以前読んだときはシェイクスピアの歴史物はほぼ順序良く読んでいたのでなんとなくストーリーを掴みやすかったのだが、今回は単独での読書。最初のリチャード三世の悪の権化というセリフもそれほど心に響かなかった(いきなり芝居モードに突入できなかった)。

半分ぐらい読み勧めるとストーリーもわかってくるのだが、そこから旧転落していくリチャード三世だ。最後はわくわくしながら読めたが、リチャード三世と王女たちという感じで読んでいた。

最初にヘンリー6世の妻だったアンに求婚するのだが、最初敵対していたのだが最後は丸め込んでしまう。このへんがリチャード三世の狡猾さで武力よりも言葉が巧みなのである。そしてそのあとにアンを殺した後に姉?のエリザベスの娘を嫁にしようとするのだ。その中で母君も交えて三人で悲嘆にくれるのだが、マーガレットは母君の姉妹なのかな?このへんの系図は複雑で巻末にも出ているがそれを観てもよくわからない。つまり王家といのは出自もよくわからないのだった。

リチャード三世が悪の王とされたのも、その後のまったく別の血筋のチューダー朝が栄えたからだという。それに正当性を持たさせるための陰謀説は中野春夫の解説に詳しい。諸侯も王についても後には邪険にされたり、そのへんの操縦術だと思うのだが、リチャード三世は武力よりも智慧の人だったのはシェイクスピア劇からも伺える。だから冒頭の演説やラストの独白に悪の魅力を感じてしまうのだろう。

それと最後に亡霊に取り憑かれるのもシェイクスピアによくあるパターンで面白い。亡霊の重要性だな。

芥川賞作品の市川 沙央『ハンチバッグ』というのは『リチャード三世』の姿(傴僂)のことだったのだ。沙央もシェイクスピア(沙翁)のことなんだ。



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