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BLMの背景を理解するドキュメンタリー

『13th 憲法修正第13条』(2016年製作/100分/アメリカ)監督エバ・デュバーネイ

解説
「グローリー 明日への行進」で高く評価された女性監督エバ・デュバーネイが、現在も根強く残るアメリカの人種差別問題と歪んだ刑務所制度の関係性に鋭く切り込んだ社会派ドキュメンタリー。1865年に制定された奴隷制を禁止する修正法「合衆国憲法修正第13条」はすべての人に自由を認めるはずのものだったが、「犯罪者は例外」という言葉が抜け穴となり、黒人が犯罪者として逮捕されやすい現状を招くこととなった。長年に渡って「大量投獄システム」の標的にされ続けてきたアフリカ系アメリカ人たちの苦難の歴史を、政治家や活動家、学者、元受刑者たちへのインタビューを交えながら明らかにしていく。

監督のエバ・デュバーネイは、『グローリー 明日への行進』でアカデミー賞候補にもなったが、このドキュメンタリー映画も凄かった。アメリカの「産獄複合体」(軍産複合体の監獄ヴァージョン)の実態を暴くと共に黒人を犯罪者と見る歴史を辿りながら、刑務所と黒人の関連性をたどっていく。

奴隷制が廃止された後に南部の黒人を刑務所に入れて奴隷状態にさせて公共事業をさせていたという、そうやって南部は経済危機を逃れた。グリフィス『国民の創生』で黒人が犯罪者というイメージ付けた。それによって黒人を刑務所に繋いでいた。そして、黒人=犯罪者という図式がこの頃に生まれ監獄は新たな奴隷制度となって行く。

「アメリカ合衆国憲法修正第13条」は奴隷制廃止条項だが、犯罪者には適用されない。また黒人を二流市民とするジム・クロウ法も生まれた。それに対する公民権運動が巻き起こるが、多くは政治犯として逮捕される。しかし黒人の間に逮捕=英雄的行為として広まり、恐れなくなっていくと共に黒人解放運動のリーダーの暗殺が続いた。

公民権運動の成果でジム・クロウ法が廃止されると、今度は麻薬戦争を持ち出して政府は黒人を刑務所に繋いだ。コカインの廉価版クラックの流行により、黒人の間で麻薬が流行っていくが麻薬所持で多くの黒人が逮捕される。刑期もコカインよりクラックのほうが重く、また裁判制度もパンク状態になるので司法取引で刑期を軽減する代わりに裁判なしで刑務所に入れる。その中には無実なのにも関わらず罪を認めてしまう者が多かった。裁判を起こすとさらに重罪になるのだ。アメリカの司法制度と刑務所の闇。

また囚人が多くなると刑務所が民間委託になり、「産獄複合体」が出来てくる。米国立法交流評議会(ALEC)は、ロビー活動を通じて議員に立法化させてさらに黒人を刑務所に入れる。その労働力により利益を得る。彼らはますます肥大化していくのが、それと共に黒人犯罪者が増えていくという仕組みだ。黒人の三人に一人が犯罪者となり、それは白人の割合に比べて極めて高い。白人は金さえだせば釈放されるのだ。そうした司法の暗部も「産獄複合体」と繋がり、さらにライフル協会なども共和党支持によってニクソンからレーガン時代に刑務所が拡大し続けた。

民主党政権下でもクリントン時代のスリーストライク法(3回逮捕されるとアウト)や警察官の重装備化によって、ますます黒人の不当逮捕が増えていく。黒人は全米で5%の人口にも関わらず黒人の受刑者は40%にもなるのだ。黒人=犯罪者の構図が奴隷制の時代からイメージされてきた。それは共和党政権にも引き継がれて警察官の暴力事件が明るみに出てくるとBLM(ブラック・ライブズ・マター)運動が盛んになってくる。

黒人たちは公民権運動ではメディアを通して黒人の扱いの酷さを訴え、政府がメディア対策をするとネットなどで黒人に対する警察の暴力は広まっていく。また黒人文化による告発も彼らに力を与えているのだ。ラストのコモン「レター・トゥ・ザ・フリー」が泣ける。

参考映画



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