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『走れメロス』の友情裏話

檀一雄『小説 太宰治』

“天才”太宰と駆けぬけた著者の青春回想録。

作家・檀一雄は太宰治の自死を分析して、「彼の文芸の抽象的な完遂の為であると思った。文芸の壮図の成就である」と冒頭から述懐している。「太宰の完遂しなければならない文芸が、太宰の身を喰うたのである」とまで踏み込んでいる。
昭和八(1933)年に太宰治と出会ったときに「天才」と直感し、それを宣言までしてしまった作家・檀一雄。天才・太宰を描きながら、同時に自らをも徹底的に描いた狂躁的青春の回想録。作家同士ならではの視線で、太宰治という天才作家の本質を赤裸々に描いた珠玉の一編である。

檀一雄と太宰治の友情青春物語。『走れメロス』は熱海の旅館に入り浸って酒や女遊びをしていた太宰を迎えに行ったが、ミイラ取りミイラになったように檀一雄も一緒に遊んで金がなくなり、太宰が檀一雄を人質として旅館に置いって行ったが帰ってこなかった実話エピソードが面白い。檀一雄のことなどほったらかしで、井伏鱒二と将棋を刺していたのだ。太宰のフィクションは懺悔と共にそう有りたいという思う自分自身なんだよな。

そんな太宰に騙されながらもどこまでも太宰についていく檀一雄も無頼派らしく、中原中也に絡まれて太宰を守るために喧嘩までしたのだ。酔っ払った中原中也から「お前、好きな花はなんだ」と絡まれ、「も・も・の・は・な」と答えた太宰に、「そんだから、おめえは駄目なんだ!」と言われた有名なエピソード。檀一雄はそんな女の子みたいな太宰を守ったのだ。熱い友情というよりホモダチみたいな感じか?

檀一雄もすごい人で、こんなの書いたら檀ふみも可愛そうだと思ってしまう無頼派体験ばかり。淋病になっても自力で治そうとして病院に行かなかった話。太宰から淋病を飼っているという先輩作家を教えてもらって、手がつけられなくなるぐらいに悪化させ入院したエピソード。

それでも太宰との行動を共にするのは青春物語のように感じる。それは太宰の文学に惚れていたからだろう。最初に「思い出」と「道化の華」を読んで天才だと思ったという。そして、『晩年』出版のために奔走する。入院している太宰と飲み歩いたり。ときどき太宰に宛てた詩はラブレターだよな。太宰も檀一雄の小説でモデルにしていたがいいことは書いていない。太宰に片思いという感じか?

『姨捨』の自殺未遂の時は、太宰を探すためにあっちこっちの探し回ったとか。そしてケロッとして酒を飲んでいる太宰を見つける。太宰の自殺は、文学を完遂させるための行為だったと。だから次は本当に死ぬだろうと思っていた。しかし、戦争で檀一雄は招集されて、そこからあまり付き合いがなくなっていく。『女生徒』を兵隊仲間から借りて読んで笑っていた飛行機乗りが墜落して、その本を持ち去ったというエピソードも。



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