見出し画像

EU新世紀というような映画

『ヨーロッパ新世紀』(2022年製作/127分/G/ルーマニア・フランス・ベルギー合作)監督:クリスティアン・ムンジウ 出演マリン・グリゴーレ、エディット・スターテ、マクリーナ・バルラデアヌ


「4ヶ月、3週と2日」などで世界的に高く評価されるルーマニアの名匠クリスティアン・ムンジウが、トランシルバニア地方の小さな村で起こった些細な対立が深刻な紛争へと発展していく様子を通し、多くの火種を抱えた現代ヨーロッパの危うい状況をあぶり出した社会派サスペンス。

出稼ぎ先のドイツで暴力事件を起こし、トランシルバニアの村に帰って来たマティアス。しかし妻との関係は冷えきっており、森で起きた事件をきっかけに口がきけなくなった息子や衰弱した父との関係も上手くいかない。元恋人シーラに心の安らぎを求めるマティアスだったが、シーラが責任者を務める地元の工場がアジアからの外国人労働者を雇ったことをきっかけに、よそ者を異端視する村人との間に不穏な空気が流れはじめる。

「ヨーロッパ新世紀」というタイトルから『ドイツ零年』を連想したが、ネオリアリズモ系譜を引く映画かなとも思う。今起きている状況をリアルタイムに映画化した社会派映画。EUという共同幻想が崩れてナショナリズムに走る住民たち。

パン工場の移民労働者を巡っての地域住民との軋轢。いまどこの国にも起きている社会現象だろう。それがルーマニアというEUの中でも小国のトランシルバニア(ドラキュラで有名)という地方で起きた争いだった。

安いパンを提供するために安い労働力を求めて外国人労働者を求める。そしてその世話役をする女性とドイツで外国人労働者として迫害を受けた出戻り男(ハンガリー人かな?)を巡る住民差別の問題。

住民感情という多数決によって少数派が追い詰められていく現実。その中で住民会議が行われるのだが、村人総参加というような。政治的に関心がある住民で喜ばしいことなのに、そこでの討論はナショナリズムむき出しになっていく。それが現実なのかもしれない。ならばファシズムはもう隣り合わせと言っていいかもしれない。

外国人労働者を追い出すためにアパートに火を付けられたり、少数民族の父親が自死したりする世界。EUの関係者(フランス人)やNGOのリベラルな交流グループはあるのだが、そういう方向には行かない。日本でも起こりつつあることだと思う。そうして拡大していくのがロシアのウクライナ侵攻だったりイスラエルのパレスチナに対する排除攻撃だろう。世界がそういう流れになっている。それを解決する文化交流という絆も断ち切られていくのだった。ただ恋愛にその可能性はあるのだろうか?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?