雅楽がバロック管弦楽になる「源氏物語」
『源氏物語 A・ウェイリー版1』紫式部 (著),アーサー・ウェイリー(翻訳),毬矢 まりえ(翻訳),森山恵(翻訳)
分厚い豪華本の表紙がなによりもクリムトの絵というのがセンスがある装幀だ。そしてアーサー・ウェイリーの翻訳は『源氏物語』をも西欧の神話的愛の物語にした。橋本治『窯変 源氏物語』と同時進行で読んでいるのだが、人物像は橋本治のほうが面白いとしても、絢爛豪華な宮廷の儀式は邦楽がバロック管弦楽になったような夢心地なのである。
『紅葉賀』が「紅葉フェスティバル」になると庭で太陽の下の開放的セレモニーであるかのような。オリジナル曲(邦楽)をバロック管弦楽に編曲したような楽しさ(ヴィヴァルディのような)。祝餅がラッキーケーキになって、ん?と思うような訳もあるが、総じて英語との違いを楽しめる。
光源氏が「シャイニング・プリンス」とか、夕霧が「リトル・プリンス」とか、ファンタジーの世界なのだから、姫たちの名前もそれぞれ興味深い名前が付いている。「夕顔」が「イヴニング・フェイス」とか「末摘花」は「サフラン姫」になっていい香りがしそうだ。須磨寺の守り神が「ドラゴン・キング」とか、龍王の訳なのか、明石入道はポセイドンの末裔かと思わせる。
『源氏物語』の二次創作というようなことを解説で言っているがまさにそのように読める。そこから西欧人たちはヴィクトリア朝時代を思い浮かべ、オリエンタリズムだと思うが「千夜一夜物語」の幻想譚と成っているのである。
高橋源一郎はTV「『光の君へ』のプレ番組」で、「千夜一夜物語」との共通点を言っていた。紫式部は藤原道長を通して、天皇へ物語を献上して、続きが書けないと首にされると言っていた。それは現代の作家事情を反映しているのかと思うが、西欧人たちが「オリエンタリズム」と見たのは読んでいて理解できる。
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