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SFの世界がすぐそこまで来ていた

『ゲノム編集の光と闇』青野百合(ちくま新書)

「ゲノム編集」という最先端の生命科学技術を基礎から解きほぐして紹介しながら、それが拠って立つ生命科学の歴史と系譜をも辿ることで、私たちが手にする利益と問題点のせめぎ合いを追う一冊である。

2020年のノーベル化学賞を受賞した「ゲノム編集」の新たな手法「クリスパー・キャス9」の解説と二人の科学者の足取りなども含め、科学オンチの私には最初の「クリスパー・キャス9」を理解するのが精一杯のところでした。遺伝子DNAをカニバサミのようなRNAというウィルスみたいなもので悪性DNA切断して排除また繋ぐ、そこに良性DNAを組み込む。今年(2021n年)のノーベル医学賞はコロナ・ウィルスを死滅させるmRNAワクチンでもその研究の流れにあるようだ。

科学の進歩は、我々一般人が想像も出来ない世界まで進んでいるようで、先日放送されたNHKBS1「ゲノムテクノロジー光と影」を観てSFの世界がすぐそこまで来ているのかと恐怖感を持ったのが、この本を読むきっかけだったのだが、もしかしてこの著者の青野由利さんは番組に関わったのではないかと思うほどだった。

一番気になるところは、すでに科学の進歩は止めようがないのかもしれない。優生主義が悪いと知りながらも世の中は優生主義で動いているわけだし。経済優先ってほとんどそれでしょう。

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』のようなデザイナーベイビーがイギリスで誕生していたという話。病気の兄の遺伝子を組み込んだデザイナーベイビーの弟を産んで健康な臓器を移植したという。そうなるよな。もう我々はナチュラル世代なんで、デザイナー優良ベイビーには敵わない。

様々な問題、例えばそうした遺伝子組み換えが専門施設だけで行われるのではなく、ある程度科学知識を持っていれば自宅で再生できるのだ。そういうキットが売り出されている。これは管理システムがないところでウィルスが培養されたとしたら、コンピュータ・ウィルスの騒ぎどころじゃないということだ。

バイオテクノロジー分野でも遺伝子組み換え植物や食物がすでに生産されている。そうした研究機関は企業と結びついているのだ。彼らは経済市場主義。儲け先があれば倫理よりも優先するのはかつての公害問題を見ても明らかだろう。

そうした中で政府による規制があるのだが、アメリカや中国のように軍事目的の研究機関である部分を民間利用できるからと出資する場合がある。日本でも日本学術会議で軍事利用が出来るようにと法改正が進んでいる。日本学術会議の任命問題で切り落とされた人は、この軍事利用を良しとしない人だ。今までは軍事利用が禁じられていたからだ。

例えば細菌兵器とか実際に作らないにしても防衛という目的で研究することは必要だと言われたらそうかなと思ってしまう。現に中国では作られて、今度のコロナ・ウィルスだって実験室から漏れたという話じゃないか?その可能性はなきにしもあらず、中国と言わずどこでも漏れる可能性はあるのだ。特に管理体制が杜撰な国なんか危ないと思うのだが。

様々な問題がある中で倫理観をどう築いていくかということ。世界的な問題としてそうした国際的な倫理組織が必要なのだが、悲しいことに日本はあまりそういうことは積極的ではないらしい。科学者が流出するぐらいの国だから。



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