見出し画像

1本のメールで無謀な転職に成功した話

新卒で入社した会社は、そう悪くない会社だった。
それなのに、飽き性の私は、入社1年でもう辞めたくなってしまった。

「会社辞めたい」
「でも、生活費はどうする?」

毎日、悩んでぐるぐるしていた。

一人暮らしで地方出身の私は、会社を辞めたらすぐに働かないと暮らしていけない。貯金は少しだから、いざとなったらアルバイトすればいいかと思うものの、なかなか踏ん切りがつかなかった。

会社を辞めるのは、やっぱり次が決まってからにしようと、ぎゅうぎゅうの満員電車の中で考えた。

そんなある日、面白そうな会社に出会った

中堅のデベロッパー(不動産会社)で、ちょっと特徴のあるマンションや戸建てを分譲している会社だ。

学生時代からアントニオ・ガウディが好きだった私。

どことなくガウディの匂いがする、その会社が作る建築物にすっかりほれ込み、終業後に毎日、建築物を見に行っては、現実逃避をしていた。

そんなことをしているうちに、その会社に入りたいという気持ちが日に日に強くなっていった。

未経験、資格なし、免許なしで転職はできるか

私が新卒で勤務していたのは、語学スクールで、私は外国語学部卒だ。不動産取引に必要な資格である「宅建」を持っていなかったし、自動車免許さえなかった。

さらに、私は去年、社会人デビューしたばかり。実績もまだない「使えない第二新卒」ってやつなのだ。

そんな自分を雇ってくれるはずがないことは、頭ではわかっていた。

だけど、どうしてもその会社で仕事をしたいという気持ちを抑えきれず、なんとか中途採用してもらえる道はないものかと、作戦を練った。

当たって砕けろ作戦を実行

インターネットで検索したけれど、あいにく中途採用はしていなかった。私はホームページを見たり、業界紙を調べたり、自分ができるあらゆる方法で情報収集をした。

社長が大学時代、どんなことをしていて、どういう想いで会社を設立したかを語ったインタビュー記事を見て、ある考えがひらめいた。

十分リサーチをした上で、私は、1通のメールを書いた。

御社で働きたいので面接してください

ド直球でそんなことを書いて、勇気を出して送信ボタンを押した。

ダメもとで聞いてみようという気持ちだった。今思うと、とんでもなく図々しい、勘違い野郎である。

よくそんなことができたものだと今なら思うが、当時はまだ若かったし、熱意がから回っていたのだろう。

驚くことに、メールを送って数日後、人事から電話がかかってきた。
なんと!来週、採用試験と面接をしてくれるという。

急に降ってわいたチャンスを逃す手はない

私は何度も職務経歴書を書き直し、ドキドキしながら試験を受け、社長面接へ向かった。

緊張していたが、一方で頭は冷静だった。あらかじめ聞かれそうなことをシミュレーションしていたので、うまく答えることができたような気がする。

面接は最高にうまくいった。
あとは、神に祈るだけだ。

しかし、結果は不採用

理由は、「あなたの熱意は評価するが、弊社は中小企業なので、宅建も免許もない人にやってもらう仕事がない」と。

(そりゃそーだ!)
全くその通りなので、ぐうの音も出なかった。

予想はしていたが、がっくりして消沈する日々。もしかして・・・と、ちょっぴり期待していただけに、なかなかあきらめきれなかった。

数日後、社長から手書きの手紙が届いた

社長の名前を、仮に矢吹社長としよう。
矢吹社長からの手紙には、こんな風に書かれていた。

「こんなにも弊社の建築物を愛してくれて、うれしかった。
残念ながら弊社では採用してあげられなかったけど、その行動力があれば、あなたならきっとなんとかなる。ご縁があるところでがんばりなさい。
いつか同じ業界で会いましょう」

矢吹社長の誠意が伝わる手紙を読んでいるうちに泣けてきた。

募集もしていないのに、ずうずうしく面接に押し掛けた私に、優しく話を聞いてくれた社長。

どうして、私は、車の免許を取っておかなかったのだろう。

なんで宅建くらいとっておかなかったのか。

せっかく面接のチャンスをもらえたのに・・・。

矢吹社長のいる、あの会社で働きたかった。あの会社の作るマンションや住宅を売りたかった。

でも、その夢は叶わない。。。

私は、採用されなかったのだ。

不採用者には「お祈りメール」で済ませる企業が多い中、手書きの手紙でエールを送ってくれた矢吹社長は、誠意のある方だと思う。

だからこそ、ショックは大きかった。

「あなたはまだ若いんだから、今の会社で働きながら勉強して、宅建に合格して、別の不動産会社に転職しなよ」と友達が言った。

それもそうだと思い、翌日から宅建の勉強を始めた。

絶対に1回で合格して、来年、転職しよう

そう思うと、ふつふつと勉強する意欲が沸き上がってきた。

捨てる神あれば、拾う神あり

しばらくして、知らない不動産会社の人から電話があった。

「今度、新宿に新しい不動産会社を作るので試験を受けに来ませんか?」というお誘いだった。

そこの社長は、矢吹社長の昔からの友達だという。新会社を設立する話を聞いて、矢吹社長が、私のことを推薦してくれたそうだ。

「なかなか面白い子がいるから、面接してみて良かったら使ってやって」と推薦状まで書いてくれたらしい。

新しい会社では、私がやりたかったプロジェクトの新メンバーを募集しているという。私は2つ返事で試験を受けることにした。

今度こそ、なんとしてでも受かりたい!

そう思って猛勉強したのが功を奏したのか、試験に合格。無事、面接も通過して、めでたく採用となった。

ついに念願の不動産会社の社員になれた!!!

採用の電話が来た時のことは、今でも鮮明に覚えている。

うれしくてうれしくて、興奮を抑えられない反面、もしかしたらあれは間違いで、採用を取り消されるんじゃないかと思ったりもした。

最初の会社を去る時は、ちょっと心が痛んだ。「新卒で雇ってくれたのに、たった1年でやめちゃって申し訳ありません」

お世話になった部長にそういうと「次の会社はすぐ辞めるなよ」と苦笑して送り出してくれた。

「たった1通のメール」が、人生を大きく変えることもある



その後、私の生活は激変し、大好きな会社で、朝から晩まで猛烈に働くハードワーカーになった。

あんなにも会社に行きたくなくて、日々、憂鬱だったのが嘘のように、毎日わくわくしながら満員電車に乗っていた。

あまりの私の変わりように、周囲もびっくりしていたくらいだ。

人生は、思いがけないことが起こるから面白い。

あの時、もしメールを送らなければ、今の自分はきっといなかった。

あんなにも夢中になれる仕事に出会えたことを、
私はきっと死ぬまで忘れない。


*これは、文章で人生を変えた私の、若かりし頃の実話です。

*青山華子はビジネスネームです。


この記事が参加している募集

仕事について話そう

転職体験記

サポートは、noteでファンを増やすための研究費(主に書籍購入や学びなど)に活用して、noteで還元します。