見出し画像

極貧詩 326             旅立ち⑪

この坂を下るのもこれが最後になる
胸に去来するよしなしごと
その中には浮かんできて胸をチクリと刺すことも多い

幼少時、小学生時代、そして中学生時代
俺、シゲちゃん、ヤッちゃんの変わることのなかった共通項
影に日向に尻尾のようについて回って来た貧困

3人でお互いに精神的に支え合って乗り越えてきた
これが俺一人だけだったらどうだっただろうか
考えただけでも身がすくむ思いがする

自我が芽生えてからの小学校高学年時代
ボロの重ね着が周囲から浮き上がり貧乏を際立たせていた
月末の貧乏お披露目儀式、3人には手渡されない給食費袋配布
「貧乏人は勉強もできない」という陰口はいわれ過ぎて慣れっこ
「給食を食べるだけに学校へ来てる」は本当だったので気にならず

思春期真っ只中の中学生時代
貧困度を少しだけ隠してくれる「黒い詰襟制服」に感謝
スキー教室ではきらびやかなスキーウエアの中の粗末な普段着
運動会では真っ白な体操服の中の黄ばんだ糸のほつれた体操着
山登り体験ではがっしりした登山靴の中の履いたきり雀の穴の開いた運動靴

「最後の坂道」をいとしむようにゆっくり歩く俺、シゲちゃん、ヤッちゃん
小学校、中学校と「一貫して」貧乏道を歩んできたが根性は鍛え上げてきた
陰口、さげすむような目つき、わざとらしい態度、無視できるようになった

時が進み、中学最終学年後半に3人とも大きな飛躍を遂げた
俺、貧乏脱出の第一段階、鬼の一念で自己流だが勉強してきた
何と町の人気公立高校に一番で入学という奇跡的な成果を出す
「まぐれ」の一番入学に甘んずることなく励むことを決意

シゲちゃん、東京の工場に就職、社長さんの激励の言葉に発奮
夜間高校に通うことを決意、人が変わったように人生設計を画す
授業態度、日常生活も来たる工場勤務のために自ら変える
工場でも人一倍励み「将来社長のようになる」との決意を固める

ヤッちゃん、親孝行の姿勢を貫き家に残り家族を助けることを決意
シゲちゃんに刺激されて、物を真剣に学ぶことの大切さに気づく
勉強の「べ」の字もなかったが新聞を読み、辞書を座右に置き始める
親兄弟を助けながら、村一番の農家になろうと決意し実践を始める

坂道を言葉少なに下る3人の胸の内には同じ思いが去来していただろう
時々お互いの横顔を盗み見るように首を少し左右に回すのがわかる
目が合うといつものように優しそうなほほ笑みに出会う

もう少しで坂道が終わる
中学最後の別れの瞬間が近づいている
胸の奥にまた熱い塊が込み上げてきた



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?