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黒目にカビがはえた

ローガンの話を書いていて思い出したので書いておこう。
話は今から数年…いや、十数年前に遡る。

あの頃、ワタシは重度のストレスにより(自己診断)顔面アトピーを発症していた。顔面アトピーとは、読んで字の如く「顔面のみアトピーを発症している状態」である。正式名称は知らない。

我慢できない痒みに襲い掛かられるだけでなく、猿みたいに真っ赤な顔になり、カサカサでありつつジクジクと汁が出るという、リアルスプラッターに近い外見になってしまうという恐ろしい症状に苦しめられる顔面アトピー。
女の子なのに☆(←

まぁ、ワタシは外見をあまり気にしないので、痒みさえどっかに行ってくれれば特に何も気にしないのだけど、痒いし痛いし勘弁してください…と我慢できなくなったので、皮膚科へ行って薬を出してもらった。

ちなみにこの時が初めての発症では無かったのも、精神的な余裕があった理由のひとつだろう。何度か治ったという実績は強い。経験値ってスバラシイ。


初めてこれを発症したのは忘れもしない高校3年生の終わり頃。受験生を満喫していたワタシは、顔に出来たニキビを潰すことと、文房具を分解することに幸せを感じる女子高生だった。

そんなワタシに襲い掛かった顔面アトピーとは、大学4年間しっかりとお付き合いをしたが、就職を機に実家を離れ、一人暮らしを始めたらピタリと治まった。

学生時代めちゃくちゃな生活リズムだったのがダメだったのか、実家から通っていたことがダメだったのか、学生をしようと思ったのがダメだったのか。どれが一番の原因だったのかはいまだにわかってはいない。


と、話を戻して。

あの時、病院を変え新しく行った皮膚科の先生が「顔だからプロトピック使ってみる?」と言ってくれた。プロトピックは今まで使ったことがなかったワタシは喜んで「是非とも」と秒で飛びついた。新しいものが大好きだ(←

というのはこれまた半分嘘で、その前に違う皮膚科で貰っていたステロイド軟膏がもうイヤだったというのが大きい。どんどんと強くなっていくステロイド薬と症状が酷くなっていく顔。

「脱ステ(脱ステロイド)」なんて言葉もネットで出回り始めていた頃だったし。本音を言うと、そろそろいい加減そんなデスマーチみたいなものは卒業したかった。

そんな時に提案されたプロトピック。飛び付かないわけがない。


しかし、プロトピックを塗り始めて10日ほど経ったあの日、顔の症状は落ち着きを見せてきたものの、鏡を覗き込んだワタシは右目に違和感を感じた。


黒目の中に丸い白いものがある


なんだこれ?物理的な違和感も、見えづらさも何も感じないけど、確かに右の黒目の中に白い丸いものがいる。動かないから生き物でもなさそうだ。

2〜3日様子をみたけど、ちょっとずつ白い丸いものが大きくなっているような気がする。なんだか嫌な予感がしたワタシは眼科へと駆け込んだ。

「なんだろうね〜?これ。心当たりある?」

診察室で先生にそう聞かれたけど、よくわからない。ワタシの記憶力は自分でも驚きを隠せないほどのかなりのものだ。しかし、わからないなりに頭をフル回転させたところ、ひとつだけ思いついたことがあった。

「あ、そういえば、1週間ほど前からプロトピックを顔に塗ってますね。変わった事といえばそれくらいかな?」

腕を組み、んーっと考え込んだ先生は

「よくわからんけど、カビが生えてるんやと思う。とりあえずその薬やめて見てくれる?免疫抑制剤で免疫が働かなくなってカビが生えたんやと思うわ。後は点眼2つ出すから、また明後日来てくれるかな?」

とワタシに言った。

免疫抑えたらまぁ、色々出てくるわな。というのが素直な感想。目の中に薬が入っていたんだろう。気を付けていたけど仕方ない。

余談として、皮膚科の先生に薬を変えてもらいに行ったところ「プロトピックでそんなんならんよ!どこの眼科の誰先生?」と眼科に殴り込みに行きそうな勢いに豹変して面白かったのはここだけの話。皮膚科の先生が殴り込みには行っていないと信じたい気持ちは今でも変わらない。
それよりもすみませんが、とりあえず薬変えて下さい。


話を戻して。
目薬は抗菌剤と抗生剤だったかな?もう覚えてないけど。

そして向かった2日後。症状は変わっておらず、点眼がもう1種類追加されることになる。

「また2日後来てくれる?」


2日後、診察室ではまたしても先生が悩んでいた。
「なんやろこれ…。変わってへんなぁ…でも、多分カビやと思うねん。薬続けて、また2日後来てくれる?」

さらに2日後、診察室では(以下同文


さらに2日後、診察室では先生が満面の笑みを浮かべていた。
「いやー!よかった!白いのちっちゃくなったわ!やっぱりカビっぽいな。もし今日も変わってなかったら、(車で1時間半くらいかかる)〇〇病院に行ってもらおうかと思っててん。ほんまよかったわー!」

と、今にも握手を求めてきそうな勢いで喜んでくれた。ありがとう。先生。まだ子も小さいから、そんなところまで行けって言われたらちょっと困ってしまうところでしたよ…。


そしてその1週間後、ワタシの黒目の中の白い丸は綺麗になくなった。

治療が終わって待ち合いに出て精算を待っていたところ、診察室から大慌てで看護師さんが飛び出してきた。

「急患でも来るんかな?」なんてノンキな顔をしながら「ワタシ関係ありませんよ」とぼんやりと受付のおねーさんを見ていたら、看護師さんがワタシの前でピタリと止まった。

「〇〇さん、先生がお呼びです。診察室に戻っていただけますか?」

え?ワタシ?

治療も終わり、もうしばらく眼科に来ることもないなぁなんて思っていたのに、まだ何かヤバイ症状でも見つかったんだろうか…⁈ドキドキしながら診察室へ戻ると、先生に椅子に腰掛けるように勧められた。

何言われるんやろう…

不安MAXなワタシに向かい、先生はワタシの目の写真を写しながら楽しそうにこう言った。

「軽い白内障があるわー。それ言い忘れてて」

え?白内障?

「光が眩しかったり、白くボヤけたりしてへん?」

「あぁ、確かに光はかなり眩しく感じます」

「やろ?それが我慢できないようになったり、白くなって見えにくくなったらまた来て。手術するわ」

あまりに軽い言い方にワタシは驚いた。
身体には何度かメスを入れたけど、目ん玉となると話が違う。だんだんと視界に近付いてくる注射針とかメスとか怖すぎる。嫌すぎる。全身麻酔でお願いしたいけど、多分100%断られるだろう。局所麻酔一択。小心者のワタシに目の手術は厳しすぎる。

「進行抑えるのにいい方法とかありませんか?これしといたらええよ、とか、これはやめといたほうがええよ、とか」

そんなビビりにビビっているワタシは先生に救いの手を求めた。
すると先生は、そんなワタシに向かってにっこりと笑ってこう答えた。

「ないわ」

絶望。

「え?ないんですか?何も?」

「ないない。それにな、大丈夫大丈夫。手術は日帰りやし、15分くらいで終わるから」


時間の問題じゃない


そう口からそう出そうなのを必死に抑えたワタシの口から出た言葉は感情がこれっぽっちもこもっていない

「ないんですかー」

「『あと何年』とかわかります?」

というよくわからないものだった。白内障がどれくらいで進行するかなんて、誰にも予想は不可能だとあの時のワタシに教えてあげたい。

そして先生。

その後

「いつ生活に不便が出るとかはわからんなー。まぁ、日帰りやし。15分くらいやし。気楽にきてよー」

と返してくれたけど。

いくら日帰りでも、気楽には来れません。
目は怖いんです。
見えるの嫌なんです。


ありがたいことに、あれから十数年。光が眩しいのはほんの少しだけひどくなっているような気がしなくもないけど、視界が白濁しているとはまだ感じない。

普段はすっかりと忘れているけれど、たまに目が霞んだりすると「日帰り手術。お気軽に」というワードが頭をよぎる。


しかし十数年経った今でも、ワタシの心はお気軽に白内障手術に行けるほどには育っていないようである。

ガンバレワタシ……


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