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映画『ずうとるび前進!前進!大前進!』(1975)

 今日は日曜。日曜夕方といえば『笑点』である。
 その大喜利コーナーで座布団運びをしている「山田くん」こと山田隆夫は、もともとアイドルグループ「ずうとるび」のメンバーであり、リーダーでもあった。
 ただ厳密に言えば、メンバーはいずれも同番組のワンコーナー「ちびっ子大喜利」に出演していた若手タレントで、山田隆夫が座布団10枚獲得の商品として「レコードデビューの権利」を手に入れた。そこでちびっ子大喜利のレギュラーメンバーを集め、結成されたのが「ずうとるび」である。
 バラエティ番組から産まれた音楽ユニット、といえばポケットビスケッツ&ブラックビスケッツ、野猿、羞恥心……と色々思い浮かぶが、ずうとるびはその元祖といえるだろう。

 番組からのご褒美という形でデビューしたが、3枚目のシングル『みかん色の恋』はオリコン最高14位、続く『恋があぶない』は13位にまでになるほどの人気を獲得。本作が公開された1975年には『初恋の絵日記』でNHK紅白歌合戦にも出場と、まさに絶頂期。そんなずうとるびを追ったドキュメンタリー映画だ。

 今では笑点の大喜利メンバーから「元アイドル」としていじられている山田くんだが、映画本編ではコンサートで黄色い声援を浴びながら歌を披露し、かつ音楽ユニットの練習光景も見せてくれており、アイドルの肩書が決して伊達ではなかったのがよく分かる。一方でバラエティな面も紹介し、ライブ中にブルース・リーのマネをしたり、トレーニング中にはギャグも挟んでいる。コンサートの司会進行役である笑福亭鶴光がハリセンを持っているのも、メンバーの「何かしらのボケ」に対応するためだろうと察しが付く。こうなると、アイドルがバラエティをやっているのか、バラエティから産まれたアイドルだからこうなったのかという「鶏が先か卵が先か」状態だ。まあ誕生の経緯からすれば後者が正しいだろうが……

 そんなバラエティもこなすアイドルだった山田くんだが、結婚を機に脱退してしまう。

 人気絶頂のグループで作詞・作曲やコント作りまで務めるリーダーとして活躍したが、メンバー間で次第に意見がぶつかるように。
お笑い路線でやりたい僕と、アイドル路線でやりたいほかのメンバーとで分かれてしまったんです

上記記事より

 以前に読んだ話では、名前が「ずうとるび」だけに、他のメンバーはビートルズのような音楽系のユニットを目指していたらしい。しかし当の山田くんはビートルズの後追いとしてアメリカで誕生したユニット「ザ・モンキーズ」を意識していたとか。
 モンキーズといえば『モンキーズのテーマ』や『デイ・ドリーム・ビリーバー』といった名曲もあるが、同時に『ザ・モンキーズ・ショー』というコメディドラマに出演するなどのメディアミックス展開もしていた。このドラマは日本でもオンエアされていたので、山田くんもその影響を大いに受けたのだろう。そのうえで
「バラエティ番組から産まれたユニットなのだから、自分達はこちらに近いのでは?」
と考えていたのではなかろうか。

 脱退後には一度離婚し、タレント活動もゼロからのスタートになってしまうほどの波乱はあったものの、それらを乗り越えて今は日曜夕方の「座布団運び」として番組の顔にもなり、なおかつ「元アイドル」としていじられ続けている。その「アイドル」としての記録が本作だ。
 これからも同様にイジられるのだろうか。ただあれは山田くんのアイドル現役時代を知っているメンバーがいるからこそ成立する「イジり」でもある。いずれは……なのかもしれないが、これからもどうか元気に座布団を運んで頂きたい。

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