読書感想文(125)有川浩『旅猫リポート』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は久しぶりに有川浩さんの作品です。だいぶ前から手元にあったのですが、やっと読みました。

私が有川浩さんの作品にどれほど影響を受けているかということはリアルの友人ならわかると思うのですが、わかりやすい例を挙げると最近メガネを買った時に、そういえば『図書館革命』で郁が堂上教官に買ってもらったメガネケースはライムグリーンだったなぁと思って、それっぽいメガネケースを選んでしまうくらいです。他にも割とセリフ等を諳んじられるくらい『図書館戦争』シリーズは何度も読み返しています。

と、まあ『旅猫リポート』以外の話になると延々と続けてしまいそうなので、そろそろ作品の感想に移ります。

感想

読み始めてまず、「あ、猫視点なのか!」と思いました。
猫視点といえば日本人ならまず夏目漱石の『吾輩は猫である』が思いつくのではないかと思いますが、まさにその冒頭を引用するところから始まります。

この猫はプライドが高く、ちょっといけ好かないというと言い過ぎですが、まあ愛嬌のあるタイプではないと思います笑。
さすが猫様だなぁなんて思いながら読み進めますが、どことなく哀愁感が漂います。
そして「Pre Report」すなわちプロローグの最後で、この旅が別れるための旅だということが明かされます。
別れるために、別れる前に旅をする。そんな切なくも優しい愛に溢れた物語でした。

そして別れの旅の中でも、二人は新しいものを一緒に見て、新しい思い出を作っていきます。そのこともより一層切なさを増しますし、何よりも現実味があります。
この旅は初めから別れることを目的にしています。しかし出会いに別れはつきもの。私達だって、出会ったばかりの頃から、別れた後の思い出を作り続けています。一緒にいて楽しい時に別れた後のことなんて考えることは滅多にないし、そんな辛気臭いことをしたくないという人も多いと思います。でもやっぱりいつか別れは訪れます。せめてその楽しい「今」をできるだけ強く胸に刻みたい、なんて思ってしまいます。

また一方で、プライドが高く愛嬌がないのに愛らしい猫の頭の中は面白く、どことなく『キケン』を彷彿させるコミカルさを感じられるところもあります。このコミカルさも、やはり後の切なさに繋がってしまうのですが……。

また、現実と沢山リンクするのもこの作品の特徴かなと思います。
例えば京都で有名なあぶらとり紙、と出てきたので、「よーじやだ!」と私は思いました。小説ってこういう時に結構曖昧にぼかしたりしますが、今回は作中人物によって「よーじや」であることが明言されます。
また、ラジオでは俳優の児玉さんが本を紹介していたりして、『図書館戦争』シリーズの巻末に著者との対談があったなぁと思いだしたり……。
現実の固有名詞を持ってくるのは写実性を増すと共に切なさもより一層真実味が増します。しかしこの作品は猫視点であることによってフィクションであることも印象が強く、その矛盾が上手く調和しているなぁと感じました。

話が変わります。
この作品の主人公はとても大人びていて、良い人で、その人柄に憧れます。
そんな主人公を友人達は次のように見ています。

 小学生で両親を亡くしたなんて相当ヘビーな事情なのに、宮脇はいつもそんなことをころっと忘れさせるほど朗らかだ。

P105

千佳子に恥ずかしくない男になりたいとみっともなくあがいてばかりの自分に比べ、宮脇はもうとっくに千佳子に恥ずかしくない。
それも、子供の頃にあんな辛い目に遭っていながら。
両親と死に別れ、大事な猫と引き離され。ついには、大事な猫に再会するのも間に合わなかったのに、宮脇は誰も何も責めない。僻まない。
自分ならいいだけ悲劇の立場に浸る。自分の身の上をいろんな怠惰の言い訳に使う。千佳子の気を引くことにだって使うだろう。

P186

これらを読んで、ああこれは傷を持っている人だ、と私は思い、吉本ばなな『キッチン』を思い出しました。

もうたくさんだと思いながら見上げる月明かりの、心に沁みいるような美しさを、私は知っている。

吉本ばなな『キッチン』

幼い頃に辛い経験をしたのに朗らかで大人びているのではなく、幼い頃に辛い経験をしたからこそ朗らかで大人びているのです。
それが良いことなのかどうかはわかりません。ただ、そこにはそうでない人との差が確かにあります。

また、二つ目の引用(「千佳子に〜」)は杉という人物の内心ですが、この杉には割と共感しました。自信、ないんですよね。劣等感を覚えて、できるやつに嫉妬してしまう。でも杉にも良い所はあるので、胸を張って生きてほしいです。と、こんな書き方はちょっと上から目線過ぎるでしょうか……?笑

読み終えてから少し気になったのは、主人公の恋愛事情があまり書かれていなかったような気がすることです。
高校生の頃のことは少し書かれますが、その後のことは多分ほとんど書かれていませんでした。
まあ主人公の性格から察するに、一歩引いてしまう所があったりしたのかなと思います。或いは別れを初めから恐れて出会いを求めない、ということももしかするとあったのかもしれません。
読んでいる時はあまり意識していなかったので、見落していることもあると思います。次に読む時には少し気にして読んでみたいです。

おわりに

『図書館戦争』や『植物図鑑』のような「キュンキュン!」という感じの物語ではありませんでしたが、温かくて優しいのは流石というか、いいなぁと思い、『ストーリー・セラー』を思い出しました。
有川浩作品はまだ未読のものもあるので読みたいです。また、『図書館戦争』シリーズや他の作品も久しぶりに読みたいなぁと思っているので、少なくとも今年中には何かしら読むと思います。
『みとりねこ』も読みたいです。
また、夏目漱石『吾輩は猫である』やポール・ギャリコ『ジェニィ』といった猫作品も読んでみたいです。
こうやってどんどん「読みたい」が溜まっていくんですよね笑。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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