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WEEKLY REFEREEING ANALYSIS #1-1 「J1第31節 札幌 vs C大阪」R西村雄一さん イントロダクション+0分-15分

イントロダクション

「WEEKLY REFEREEIN ANALYSIS」初回の今回は、明治安田生命J1リーグ第31節北海道コンサドーレ札幌対セレッソ大阪の試合を分析します。審判員の中で、よく言われている、15分毎に分けてゲームを考えるという理論に基づき、本レビューでは、15分毎に分けてゲームを分析していきます。また、各試合の0-15分の分析の回においては、審判員の紹介を行っていく予定です。それでは、ご覧ください!

公式記録

明治安田生命J1リーグ 第31節
北海道コンサドーレ札幌 1-3 セレッソ大阪
審判団 主審 西村 雄一 副審1 野村 修 副審2 堀越 雅弘 第4の審判員 船橋 昭次
得点者 札幌  ジェイ (65')
    C大阪 ブルーノ メンデス (40'・80') 清武 弘嗣 (54’)
警告  札幌  ジェイ (62')
シュート数    札幌   9-14 C大阪
コーナーキック数 札幌   5-1   C大阪
フリーキック数  札幌  13-12 C大阪
(J. League Data Siteより作成 https://data.j-league.or.jp/SFMS02/?match_card_id=24159)

この試合を選んだ理由

この試合に関しては、NHK総合テレビで全国放送がされていたこと、そしてなにより、私自身目標としている西村雄一さんが主審を務めたということで、初回に選んだ。

審判団紹介

主審の西村雄一さんは、東京都出身の1級審判員で、48歳。2010年・2016年に開催されたFIFAワールドカップに選出された言わずと知れた日本を代表するレフェリーで、2009年から2017年までの9連続受賞を含め、10度Jリーグ最優秀主審賞を受賞したトップオブトップの存在だ。この日はJ1通算316試合目の担当。
副審1の野村修さんは、和歌山県出身の国際副審で、31歳。2019年に国際副審に登録され、2020年からは4人しかいない副審のプロフェッショナルレフェリー(PR)として活動している。この日は、J1通算46試合目の担当。
副審2の堀越雅弘さんは、群馬県出身の1級審判員で、41歳。この日は、J1通算76試合目の担当。
第4の審判員の船橋昭次さんは、北海道出身の1級審判員で、41歳。普段は、J3を担当していて、主審通算17試合、副審通算28試合。

0分ー15分の分析

基本的に、ファウルについては全て記していきます。見出しの頭に星の数で、重要度を示していますので、お時間がない方は星の多いもののみ見てくださいませ。動画としてクリップしているものもありますが、著作権の問題がありますので、ご興味のある方はお知らせください。

★★キックオフ(ポジショニング)

上のシーンでは、西村主審は向かって左側手前にポジションを取っている。これは、キックオフを行うセレッソ大阪の陣形が下記図のようになっていることから、(セレッソから見て)左サイドにロングボールを蹴ると予測して、落下地点の近くにあらかじめポジションを取っていると考える。

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予測はしっかり的中し、競り合いの際に正しい角度と距離で判定できている。キックオフ直後の何気ないものではあるが、この積み重ねが非常に大切であると勉強になるポジショニングだ。

★0:33 札幌オフサイド(48ジェイ)

この試合1つ目のオフサイドで、いわゆる戻りオフサイドだと思われる。副審1の野村さんのフラッグアップのタイミングは、オフサイドポジションにけったタイミングでいたジェイ選手がボールに触れた瞬間にフラッグアップされ、主審の西村さんのホイッスルのタイミングの瞬間もフラッグアップと同時で、基本的ではあるが、選手にストレスにならない。J1ではマイクを使ったコミュニケーションシステムがあるが、戻りオフサイドは、気づきにくい時もあるため、システムがない試合ではフラッグが上がったタイミングで笛をちょうど吹くことを意識したい。

★3:15 札幌コーナーキック時のGKと味方競技者の接触へのマネジメント

札幌のコーナーキック時に、C大阪のゴールキーパー21キムジンヒョン選手に対して、C大阪の選手が接触している。味方同士の接触のため、もちろん反則ではないが、西村主審は手を軽く振るジェスチャーでノーファウルであることを示している。この試合においても今後出てくるが、西村主審が使うノーファウルを示すジェスチャーの中では、軽いジェスチャーである。これは、GKが接触を受けた瞬間には、敵味方誰からの接触か分からないということへの気遣いが込められており、猿真似ではなくしっかりと把握したうえで習得したいものである。

★3:30 1stファウル C大阪20 ブルーノ メンデス⇒札幌20 キムミンテ

CKからの流れでこの試合の最初のファウルが起こる。C大阪20ブルーノ・メンデス選手が札幌20キム・ミンテ選手に対して、プッシングの反則を不用意に行う。すかさず西村主審は、笛を吹き、札幌のFK。西村主審の笛の特徴として、軽微な反則があった際の最も短い笛であっても、他の審判員と比べると、ハッキリと吹く特徴がある。その後の再開もちょうどいいタイミングでの笛は選手へのストレスにならないということが分かるスムーズな再開だった。

★4:25 ファウル C大阪22 マテイ ヨニッチ⇒札幌48 ジェイ

C大阪自陣内中央付近でのファウル。札幌48ジェイ選手へのくさびのパスが入り、はたいた直後にC大阪22マテイヨニッチ選手の膝が札幌48ジェイ選手の太ももに入る、いわゆる「モモカン」の状態に。不用意なタックルもしくはキッキングで正しい判定。

★★★【お手本だらけの15秒間】7:14~7:30 理想的な対角線式審判法からのノーハンド判定とマネジメント

スライド2

札幌1菅野孝憲選手が札幌5福森晃斗選手に対して中距離のフィードをし、トラップした瞬間にプレスをC大阪はかけたが外され、福森選手からのパスを受けた札幌7ルーカスフェルナンデス選手が左サイドでドリブルを介した瞬間に、西村主審は左側に大きく開いた(上図でカーブを描いた矢印で記した動き。)。この動きによって、西村主審が一番外側から、ルーカス選手の背中側に入り、審判員の動きとして基本の対角線式審判法において、理想とされる「R-B-A」(Referee(主審)-Ball(ボール)-Assistant Referee(副審))の位置取りを取ることに成功する。(監視したい角度①を作ることが目的)

ルーカス選手は、3mほどカットインし、逆の右サイドで開いていた札幌30金子拓郎選手に対してパスを出す。その瞬間、西村主審は内側に前向きに走って、ポジションを修正する(上図で直線の矢印で記した動き。)この動きによって、金子選手からクロスが上がった際に、ペナルティーエリア内で起こる反則を見るためのポジションを取った。(監視したい角度②を作ることが目的)

金子選手の一度目のクロスはDFに跳ね返されるが、跳ね返りを上げたクロスに対し、ペナルティーマーク付近でヘディングする。そのヘッドがC大阪22マテイヨニッチ選手の腕の近く(映像で確認したところ振り向いた背中に当たっていると思われる)に当たった。(×で示した地点での出来事)

このとき西村主審は体に当たった瞬間に「ノー」と声を上げて、ノーハンドであることを示した。実際、当たった部位は背中と思われ、仮に腕に当たっていたとしても、マテイヨニッチ選手の腕は不自然に広げられておらず、距離も近かったため、ノーハンドとするのが妥当であると考える。

この15秒間にはお手本となるレフェリングがギュッと詰まっていると考える。

①予測に基づく、幅を持ったポジショニングでの「R-B-A」の創出
②逆サイドへの展開によるポジション修正
③的確な判定と判定後の声掛け

この3つの基本に忠実かつ、素晴らしいレフェリングは何度見ても参考になるものだ。

★★7:40 攻守が入れ替わった瞬間の切り替え

サッカーの魅力のひとつ素早い攻守の切り替え。レフェリーにとっては、スプリントが要求されるある種「見せ場」のような部分でもある。札幌31高嶺朋樹選手がペナルティーエリア外の中央にパスをしたが、C大阪5藤田直之選手のいるところに出すミスパスになってしまった。こうなるとカウンターが発動する。西村主審の動きを見ると、パスが藤田選手の足に届く前に体の向きを変え、カウンターに対するスプリントを開始している。これは、幅広い状況の認識のたまものであり、ポジショニングを取る上での大切な準備である、様々な状態の予測が優れていることの証左であろう。

★★7:40~8:20 横の移動と理想のポジション、そして選手のプレーエリア

スライド3

西村主審は基本的にビルドアップが安定している際には、相手チームのDFとMFの間のエリア(赤で示した帯のエリア)に入ろうとしていることが7:30以降の動きで見受けられた。
そのポジションに入るために、中盤(黄色のエリア)では横の動き(水色の動き)をメインにポジション修正を行っている。その最中にはもちろん状況把握を行うために、適宜首を振って、確認を行っている。
基本的にはゆっくり目のサイドステップやフロントステップ、時折バックステップでプレーエリアに対して正対しているが、9:25頃の動きを見ると、西村主審自身の周囲にボールが来た際には細かなサイドステップと細かな首振りを多用して、ポジション修正を図っていることが読み取れる。

ただ、8:20ごろには札幌5福森晃斗選手からセンターサークル内の札幌48ジェイ選手にボールが渡り、その落としに対して札幌14駒井善成選手がプレーしようとした際に、駒井選手のプレーエリアと西村主審のポジショニングが重なり、プレーに支障が生じてしまった。おそらく、背後にいて、視野外にいたことから起こる出来事である。事前のボールの動きから推察すると、左CBの福森選手から右サイドにいた札幌CB20キムミンテ選手にボールが出たため、札幌の右サイドに展開されると予測して、左サイドにいた西村主審は右サイドに移動しようとしたのだと考えられる。その予測がうまくはまらず、キムミンテ選手からすぐ福森選手にボールが戻り、すぐロングフィードを行ったため、このような重なりが生じてしまったと考える。ビルドアップ時のポジションの予測は非常に難しいことを感じさせるシーンになった。

★8:45 札幌の1stファウル 札幌48ジェイ⇒C大阪25 奥埜 博亮

この時間になって札幌の1stファウル。センターサークル付近で、プレスをかけた札幌48ジェイ選手がC大阪25奥埜博亮選手に対し、パスを出した後に遅れて踏みつける形で不用意にキッキング。西村主審はアドバンテージを適応すべきか声を出さずに様子を見たが、パスがカットされたためファウルを採用。採用後、奥埜選手に西村主審は声掛けでマネジメント。

★10:10 ファウル C大阪17 坂元 達裕⇒札幌31  高嶺 朋樹

C大阪17坂元達裕選手がカウンターの攻撃において、ドリブルでスピードに乗ろうとしたが、札幌31高嶺朋樹選手が何とか体を入れたところで、坂元選手が高嶺選手をおさえてしまい、ホールディングの反則。

★12:50~ 攻守の切り替えへの対応と「R-B-A」

ハーフウェーライン付近での札幌ボールに対して、C大阪がボールを奪い、カウンターが発動する。C大阪20ブルーノメンデス選手が比較的長い距離をドリブルし、シュートまで持っていくが、このシーンで西村主審は最終的に、「R-B-A」の形でペナルティーエリア内の監視を行っている。このスプリント力とポジショニング力の高さは圧巻である。

★★14:41 ファウル 札幌7 ルーカス フェルナンデス⇒C大阪2 松田 陸

C大阪2松田陸選手がドリブルで札幌7ルーカスフェルナンデス選手を抜きかけたところで、ルーカス選手がスライディングタックルし、ルーカス選手の右足が松田選手の左足首から脛付近にヒット。警告レベルではなかったが、激しいプレーで松田選手も傷んでいたため、ルーカス選手に注意。時間的余裕を作って、ルーカス選手から松田選手に謝るタイミングを作る落ち着いたマネジメント。

0-15分の15分間のまとめ

試合の入りは大切だと往々にして語られるが、判定に関してはミスが一つもなく、ポジショニング・マネジメントに関してもさすがの一言だった。たった15分間ではあるが、非常に勉強になる15分間であったといえるだろう。

次回は15分から30分の15分間で、試合が落ちつくといわれている時間である。おそらく、今回よりは短くなるはず。。。

この試合を分析したシリーズ




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