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WEEKLY REFEREEING ANALYSIS #1-2 「J1第31節 札幌 vs C大阪」R西村雄一さん 15分-30分

前回の振り返り

前回の初回では、明治安田生命J1リーグ第31節北海道コンサドーレ札幌VSセレッソ大阪の試合の15分までを分析した。15分のみではあったが、西村主審の丁寧なレフェリングが見えてきた。その丁寧さを基に、試合は落ち着くといわれる15分から30分の15分間を今回は分析する。

目次で重要度を星で示しているので、時間がない方は星が多いもののみ読んでくださいますと幸いです。

明治安田生命J1リーグ 第31節
北海道コンサドーレ札幌 1-3 セレッソ大阪
審判団 主審 西村 雄一 副審1 野村 修 副審2 堀越 雅弘 第4の審判員 船橋 昭次
得点者 札幌  ジェイ (65')
    C大阪 ブルーノ メンデス (40'・80') 清武 弘嗣 (54’)
警告  札幌  ジェイ (62')
シュート数    札幌  9-14 C大阪
コーナーキック数 札幌  5-1  C大阪
フリーキック数  札幌  13-12 C大阪
(J. League Data Siteより作成 https://data.j-league.or.jp/SFMS02/?match_card_id=24159)

★ 15:45 C大阪のスローインのポジション修正

C大阪16片山瑛一選手がメインスタンド側からスローインを投げようとした際に、ハーフウェーラインより自陣寄りからスローインだったものの、5mほど前進してハーフウェーラインより前から投げようとしたため、笛を使って後ろにポイントを修正。

★ 15:54 ファウル C大阪17 坂元 達裕⇒札幌5  福森 晃斗

上のスローインからの競り合いで、50:50のボールに対してC大阪17坂元達裕選手と札幌5福森晃斗選手が挑んだ。後ろから来た福森選手に対して、坂元選手が肘を用いて後方から押したとして、不用意なプッシングの反則。坂元選手は2回目の反則で、「なんもしてない」と不服な様子を軽く示すが、判定は妥当。笛に関しては、0.5~1秒程度遅れたことから不服さを示す結果となったか。パブリックな注意ではなく、1対1で少し話すマネジメントを実施。

★ 16:28 ジェスチャーでノーハンドを示す

札幌48ジェイ選手が後方からの浮き球をトラップする際に、手を広げて胸でトラップした。完全に胸ではあるが、遠くから見るとハンドの声が上がりやすい状態だったので、西村主審は自身の胸を軽く触って胸であることを示した。気遣いがすばらしい。

★ 16:30 ファウル 札幌20 キム ミンテ⇒C大阪20 ブルーノ メンデス

C大阪の前線へのロングボールに対してC大阪20ブルーノメンデス選手(位置:前)と札幌20キムミンテ選手(位置:後)が競り合い。後方からキムミンテ選手がブルーノメンデス選手をプッシングしたため反則。
フリーキックは左サイドの札幌陣内中央からで、笛を使ってのマネジメントは無しだった。しかし、札幌30金子拓郎選手が10ヤード(9.15m)の壁の距離を守っていなかったため、西村主審は金子主審に対して「下がって!」という声掛けをした。

★★17:15から18:15 札幌のビルドアップへのポジション取りとノーファウル判定

スライド4

17:15~は両チームが比較的落ち着いてビルドアップできるシーンとなった。17:15のときC大阪が札幌からボールを奪い、ゆっくりとビルドアップを開始する。西村主審は、ボランチとCBの間のゾーンにポジション取りをしている。これは、C大阪が最終的に狙いたいエリアであるアタッキングサードで余裕をもって監視することにつながる基本動作である。アタッキングサードでは、PKや近い位置でのFKなどシビアな判定が要求されるので、そのようなエリアでは心拍数の下がった、落着いた姿勢での監視が必要であるので、このようなポジションを取る必要がある。

スライド5

17:37にC大阪がロングボールを蹴ったが、札幌のDFに回収され、攻守が入れ替わると西村主審のポジションも上図のように変わる。基本は同じで、ボランチとCBの間のゾーンに入り、監視する。その結果、18:15にC大阪25 奥埜博亮選手が札幌5福森晃斗選手のショルダーチャージを受けて上図✕のエリアで転倒した際にも、10ヤード(9.15m)程度の最適な距離で、適切なノーファウル判定を下している。

ステップワークについてみてみると、ビルドアップ時には、CB保持時にはCBを背負う形のフロントステップ(最終的に狙いたいエリアを見た形)をとり、少し前のエリアにボールがあると、そのプレーとアタッキングサードを見れる形でのサイドステップを取り、アタッキングサードではプレーに正対するフロントステップという大きく分けて3種類を使い分けていると見受けられる。

★★★ 【互いのリスペクトを誘発するマネジメント】18:23 ファウル 札幌32  田中 駿汰⇒C大阪10 清武 弘嗣

札幌がC大阪陣内深くまで攻め込んでいたが、C大阪がPA付近でボール奪取し、中盤の10清武弘嗣選手にパスをする。ドリブルを開始したところに、札幌32田中駿汰選手が手を顔付近にかけるホールディングの反則をした。このシーンは大きなチャンスになっていなかったことから、ノーカードが妥当であると考えるが、カウンターを手で止められることに止められたC大阪の選手たちや清武選手は不満を持ってもおかしくない。しかし、西村主審の秀逸なマネジメントで不満は表面化しなかった。

どのような部分が秀逸だったか確認していく。


①ファウルの笛の後の「ピピピ」という3回の笛を即座に吹いて田中選手の注意を集める(フィールド全体)
②「分かった、すみません」と自分の持ち場(=DFライン)に戻ろうとする田中選手に戻るように促す
③田中選手に注意をすることより、清武選手に声掛けをしてもらう空気を作って、「互いのリスペクト」を呼び起こす

上記の3点から私は秀逸なマネジメントだったと考える。特に重要なのは③のマネジメントである。清武選手もファウルを受けるのは承知のうえであるし、田中選手も「抜かれたらまずい」のでいわゆる「プロフェッショナルファウル」としてファウルを受けることは承知している。その中で、今後の札幌・C大阪両チームの関係を悪化させないために、「互いのリスペクト」の感情を見せることは非常に重要なことである。これが90分間近であったら、C大阪側も得点の状況によっては早く始めることを要求するだろう。しかし、まだ19分という早い段階では、このようなマネジメントをするのは非常に最適であっただろう。時間・ゲーム状況に応じた最適なマネジメント。非常に勉強になるものであった。

★ 18:54 転倒へのノーファウル判定

C大阪17坂元達裕選手が札幌30金子拓郎選手に後ろから寄られたときに「オーイ」という声を出しながら倒れた。金子選手の手は前にあり、坂元選手の背中に軽微な接触があったが、ノーファウル判定は妥当だろう。西村主審のポジションも、10ヤード(9.15m)程度のところから真横で接触を監視しており、即座に「ノー」と声掛けがなされていた。そのことから坂元選手も不満を示さず、すぐにプレーに戻った。(坂元選手からすると3回目の自身に不利な判定だったため、少しストレスは溜まっていく可能性もある。)

★★ 20:34 【アドバンテージは必要か?】 ファウル C大阪3  木本 恭生⇒札幌14  駒井 善成

札幌が自陣中盤付近にいた14駒井善成選手にくさびを入れたところで、すかさずC大阪3木本恭生選手がすかさず後方からチャレンジをする。駒井選手は左サイドにいた7ルーカスフェルナンデス選手にパスを出し、その直後に駒井選手の足に木本選手のスライディングタックルが入り、反則のホイッスル。後方からのタックルであり、速さもあったため、審判によっては警告が提示される可能性もあるものであったが、15分に起こった札幌ルーカス選手の反則との基準を考えるとノーカードは妥当。(10人いれば5人警告・5人ノーカードといったところか。)

ここで問題となるのがアドバンテージを採用すべきであったかである。ルーカス選手が持った際、前方にはスペースがあり、ドリブルを自由にできる状況であった。DAZNの中継によるとルーカス選手のドリブル数はリーグ1位だそうで、攻撃のキーマンであることは確かである。しかし、中継で映っていた範囲のルーカス選手と同レベルもしくは前方の選手を見ると次の図のような割合であったといえる。

スライド6


ルーカス選手と同レベルの位置にいた選手
札幌  FW 48 ジェイ選手
C大阪 MF 25  奥埜 博亮選手

ルーカス選手より前方にいた選手
札幌  なし
C大阪 MF  2 松田 陸選手
    MF 16 片山 瑛一選手
    DF 22 マテイ ヨニッチ選手
    DF 15 瀬古 歩夢選手

このように札幌2人対C大阪5人という数的不利の状態であった。もちろん、ルーカス選手の能力と目の前の状況から「アドバンテージを取ってほしい」という気持ちは重々わかる。ただ、冷静に周囲の状況を見ると、数的不利かつ、攻撃的役割を担う札幌11アンデルソンロペス選手や反則を受けた駒井選手がいないことを考えると、CBの一人木本選手が引きずり出されたからといって、アドバンテージを適用する必要性はなかったと考える

また、西村主審がこの反則をノーカードで処理したうえで、木本選手に声掛けを行うためには、試合を止めて注意をした方が有効であるとも考える。西村主審は反則を取った直後に木本選手を呼び止め、注意を与えている。

ファウルを受けた駒井選手は、カードが出ないことに不満を訴え、札幌のキャプテン10 宮澤裕樹選手もカードとアドバンテージについて不満を西村主審に示している。西村主審は宮澤選手と1対1で話し、考えを説明している。しっかりと、ガス抜きを行うために、21:24の再開まで50秒という時間の間を作ったことは試合を円滑に進めるうえで必要な時間だったといえるだろう。(駒井選手の口が切れている様子がうかがえるので、水で口をゆすぐようにしたということもあるかもしれない。)

★★ 【なんでそこにいるの?】22:00 コーナーフラッグポスト付近でのスローイン判定

スライド7

22:00にC大阪陣内左コーナーフラッグポスト付近で札幌7ルーカスフェルナンデス選手と札幌5福森晃斗選手がC大阪17坂元達裕選手のボール保持に対して、プレッシャーをかけた。(試合終了目前の勝利チームのキープへの攻防のような形)この位置は、副審2の堀越雅弘さんからは非常に遠く微妙な判定を要求された場合に主審からも見えずに、間違った判定になることが多い「魔のエリア」である。図のように、西村主審はなんと大外からこの判定を行い、札幌ボールのスローインを示す。シグナルのみではなく、「スローイン」と声掛けを行うことでさらに説得力を増すこととなった。

このようなシーンでは選手から不満の声がたとえ判定があっていようと上がることが多いし、タッチジャッジに関しては些細なことに見えるが、タッチジャッジをきっかけに審判団への信頼感が下がることは非常によくある。そんな中で、3m以内で、しかも普通審判がいないようなところで見られていると感じると、当事者の坂元選手はもちろん、近くにいた2松田陸選手からも全く不満な様子は見られなかった。このような信頼の積み重ねが西村主審の真骨頂であると私は思う。

24:50~26:28 飲水タイム

22分から飲水タイムまではボールが一回もアウトせず、西村主審も1回目・2回目で見たような「CBとMFの間のスペース」へのポジショニングを基本に、落ち着いた時間だった。ボールがアウトし、C大阪陣内深めのC大阪ボールのスローインというところで飲水タイム。アマチュアだとピンチになりかねないので注意は必要だが、ここで取らないとプレーが途切れなさそうなので、このタイミングは無難だと思われる。

その後は下の反則まで2分ほどに、再開直後の札幌11アンデルソンロペス選手の顔に相手の手が軽く当たるシーン、C大阪17坂元達裕選手が相手のボールへのチャレンジ後に軽微な接触があって倒れるシーン、札幌20キムミンテ選手が相手に引っかかってしまい倒れるシーンなどがあったが、どれもノーファウル判定で、全員が受け入れられる妥当な判断だった。

★ 28:11 ファウル C大阪15 瀬古 歩夢⇒ 札幌11 アンデルソン ロペス

札幌11アンデルソンロペス選手が自陣中盤まで下がってボールを受けに行ったところに、マーカーであるC大阪15瀬古歩夢選手が後方から背中にチャージする形になり、反則。不用意な反則で、短めの笛ですぐに再開。倒れたアンデルソンロペス選手にC大阪10清武弘嗣選手が近づいて謝る、リスペクトにあふれるすばらしい行為もあった。西村主審はアンデルソンロペス選手に軽く声掛け。

15分~30分の15分間のまとめ

この15分間のうち、特に21分のC大阪3木本恭生選手のファウル以降の後半10分間はゲームも落ち着き出した印象があった。木本選手のファウル時のマネジメントが素晴らしかったことも影響していると考える。

ポジショニング面では、22分のシーンにみられるように、機を見て大外から監視することで、「R-B-A」を作ることを行いつつ、基本は「CBとMFの間のスペース」を取るポジショニングを継続して行っていた。審判員は反省会で「幅を取れ」とよく言われるが、その幅はなぜとる必要があるのかということをしっかり教えてくれる教科書のようなシーンが22分のシーンだと思う。そして、センターサークル付近での横の動きがこの「幅」を可能にしているので、取り入れたい動きだと感じた。

アドバンテージのシーンに関しては、様々な意見があると思うので、コメントお待ちしています!


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