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令和3年一級建築士設計製図試験|「集合住宅」本試験の講評と解答例の閲覧

1.予想を裏切っていく問題文の非定型化路線

あるはずのものがなくなった!!
平成29年、問題用紙から突然敷地図が消えたときも(敷地図兼下書用紙に図示)、受験者は戸惑いを覚えたと思います。
今回は、問題用紙の「2.建築物」から「床面積の合計」が消えています!!
旧試験最後となる平成20年は上限値のみで例外になりますが、平成になってからの「床面積の合計」は、下限値と上限値がずっと示されてきていました。

問題を読み進めながら、あるはずのものがない!……と思った瞬間、心穏やかというわけにはいかなくなったと思います。「床面積の合計」が設計与条件から外されたことで、重大な不適合に当たる要求が一つ減ったことにはなりますが、こう思える冷静さや余裕はなかったのではないでしょうか。

昨年も問題用紙のレイアウトが変更されています。これを新たな問題文の定型化へ向けた試行錯誤ではないかと考えていましたが、今回も踏まえると、あえて非定型化へ向かって試行錯誤しているのではないかと受け取れなくもありません。昨年、旧試験から復活させた「設備については、次のとおりとする。」という記載も「2.建築物」から再び消え、今年は新たに旧試験の問題の冒頭に見られた「計画に当たっては、特に、次のことが求められている。」を復活させています。こうなると、次を予想させない、つまり予想を裏切っていく問題文の非定型化路線が暫く続くことになっていくようにも思えます。

2.2階・基準階の空間構成と住戸の採光等

「4.留意事項」で、「住戸の居室については、建築基準法上の採光を確保」することが明示されています。当然順守すべきことを、こうして明示してくるということは、採光に法令への不適合があれば、ランクⅣにするとの意思表示がされたと受け取れます。

採光補正係数を計算する上で境界線からの水平距離の制約を受けることを考えると、制約の少ない道路側すなわち東側と西側に窓を設けるのが安全だと言えます。しかしながら今回の敷地では、道路斜線が厳しいので、道路境界線に安易に寄せて計画することもできません。

また、設計与条件に要求はありませんでしたが、日照に配慮するなら、南側に窓を設ける計画も考える必要があります。採光上、建築基準法に適合する水平距離を確保しても、これによって、南側からの日照が確保できるとも限りません。あえて階数を不明にしている店舗付き集合住宅によって生じる日影を考えた場合、住戸への日照を確保するために、どれだけの水平距離が必要なのかは判断のしようがありませんが、仮に建築物の高さが同じであるものとして少し考えてみます。

北緯35度における冬至日の南中時の太陽高度は約32度になります。
tan32°≒0.62ですので、本建築物と店舗付き集合住宅との離隔を10mとした場合、
10m×0.62=6.2m(2層分程度の高さ)で、冬至日の南中時には4階と5階のみ日照が得られることになります。
――こんなことも考慮した上で、通風・採光のみを求め、日照を配慮の対象から外しているのかもしれません。――

以上を踏まえると、バルコニーを「東側と西側に向ける計画とするか?」、「すべて南側に向ける計画とするか?」、「南側と東側又は西側に向ける計画とするか?」といったことを選択の土俵に乗せて、コアの位置が1階の計画を難しくしないよう検討しながら、2階・基準階の空間構成を決めていく必要があると思います。

3.学習塾とカフェと集合住宅のセキュリティ

住宅部門のエントランスホールの特記事項に「セキュリティに配慮する。」とあります。テナント部門との共用ではなく、住宅部門のエントランスホールとしてセキュリティを求めていますので、学習塾やカフェの利用者が不用意に入ってこないようにする必要もあると考えます。

当然、テナント部門にもセキュリティに対する配慮は必要になり、不特定の者を対象とするカフェと特定の者を対象とする学習塾とでは、そのガードの高さも違ってくるはずです。「気軽に入りやすい」はカフェにはしっくりきても、小学生や中学生を不審者から守る責任もある学習塾には違和感があります。住宅部門のエントランスホールと同様に、学習塾にも独立したテナントとして関係者以外が不用意に立ち入ることを抑制する必要があると考えます。

4.学習塾とカフェと集合住宅の繋がり

小学生や中学生の子どもがいる世帯の入居を想定するとしたら、住戸Aの2LDK(9世帯)が現実的ではないかと思います。また、自宅から近いという理由だけで学習塾を決めないことなどを加味したとき、入居者中、何人の小中学生が1階にある学習塾を利用するものとして、集合住宅と学習塾との繋がりを計画する必要があるのだろうかと思いました。

同じテナントであっても、学習塾とカフェとでは、集合住宅の入居者との繋がり方は違ってくるはずで、こういったことも考慮した上で動線を計画すればいいのだろうと考えました。

5.動線について求められていることは?

まず、過去の本試験における動線に関する要求をいくつかあげてみます。
①店舗部門と住宅部門の異なる機能を適切にゾーニングした計画とするとともに、各部門の動線に配慮した計画とする。(H13)
②公開部門と非公開部門とを適切にゾーニングし、来館者動線、職員動線及び展示品の搬入経路が交差しないような計画とする。(H22)
③レストラン及びギャラリーについては、商店街との連続性を配慮するとともに、エントランスホールからの動線を考慮した計画とする。(H27)
④分館と本館との来館者の動線を適切に計画する。(R1)

動線計画には、「交差させない動線」と「繋げる動線」とがあり、上記の①②は「交差させない動線」、③④は「繋げる動線」を求めていると言えるのではないかと思います。

今回の問題の冒頭に記載されていた「住宅部門との動線やプライバシーに配慮した計画とする。」とは、相互干渉させたくないものを並立助詞「や」で列挙していると解釈することもできます。こうした解釈をすると、「住宅部門とのプライバシーや動線に配慮した計画とする。」と、並立助詞の前後を並べかえることもでき、「交差させない動線」との意味あいが強くなるように思います。

とは言え、出題者がどう考えて「住宅部門との動線やプライバシーに配慮した計画とする。」と表現し、受験者に何を伝達しようとしていたのか推測の域を出ることはできません。今回は「異種用途区画」と問題に明示されていますので、集合住宅の部分とその他の部分とを繋げる想定もしていることは読み取れます。

学習塾とカフェと集合住宅のセキュリティや独立性を念頭におきつつ、「繋げる動線」として考えてみると、それぞれ繋がりの濃淡は違ってくるものだと思います。利便性も踏まえて、カフェと集合住宅は濃い繋がりがあってもよい、学習塾とカフェは淡い繋がりでよい、学習塾と集合住宅も淡い繋がりでよいと考え、解答例ではアプローチ動線等を検討しました。

セキュリティ面を考慮しても、それぞれ濃密な繋がりは必要ないと思われますので、屋内で直接行き来できる動線は確保せず、屋外に通路を計画し、学習塾・カフェについては、それぞれの集合住宅との繋がりの濃淡を考慮した上で、配置と動線計画を行っています。

6.最後の試練

毎年言えることですが、合格者でも難点はかかえているし、プランも一様ではありません。多くの人が同じように考えていることは、それが一般的なあり方で現実的な姿だと言えるかもしれませんが、大事なことは「なぜそうしているのか?」という理由が図面等から読み取れること、つまり考えを採点者に伝えられるかどうかだと思います。考えを伝えるためには、明確な考えをもって計画していくことが必要ですし、図面中に簡潔な文章や矢印等で補足し伝えることを可能にしています。

特定の要求室等の配置だけをみてプランは評価できるものではありませんし、他の要求室等との位置関係など……、様々な条件が絡んでいく中で全体の構成は決まっていくものです。それゆえに、各要求室については、全体つまり空間構成からみた評価と部分的にみた評価が必要であり、これらを混同してしまうと適切な評価はできないと言えます。人によって捉え方の分かれる漠然とした条件提示に対し、「ここだ」「これだ」といった決めつけから入るのではなく、可能性のあることを選択肢としてリストアップし、全体の構成を見据えながら取捨選択をしエスキースを進めていくことが大切だと考えます。両立が難しい「不可能」なことを、無理矢理可能としたように見せかけたところで、そこには「不自然」だけが残るものです。

後になれば色々な不安が出てくるでしょうが、結果は発表まで確定できるものではありませんので「待つ」ことが建築士の試験の最後の試練ではないでしょうか。

*解答例(図面・計画の要点等)については、以下をタップ又はクリックすると無料で閲覧できます。


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