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あの頃は映画を作っていた

なぜ日大芸術学部放送学科に入学したのかとよく聞かれる。ふふふ、実は映画が作りたかったからだ。

小学校から高校の頃まで、十年ほど映画を作ることに夢中だった。そもそも私は、小学生の頃からよく友達と映画館で映画を見ていた。「E.T」「インディージョーンズ」、「スタンド・バイ・ミー」「フラッシュダンス」「風の谷のナウシカ」。ちょっと変わったところでは、「ストレンジャーザンパラダイス」も劇場で見た。ああ、映画ってこんなに面白いんだから、映画を作るってもっと楽しそう、と思い始めるのに時間はいらなかった。

その準備段階として、小学生の私は自分の劇団を結成することにした。名前はいま公表するのも恥ずかしいが、「チビチビリトル小劇団」。劇団のメンバーは妹や近所の子どもたち7、8人。当時はまだ自分で脚本はかけなかったので、「うる星やつら」の好きなエピソードを演じることにした。あまり発表の場はない劇団だったが、練習は熱心だったと思う。唯一発表の場として覚えているのは、「アニメージュ」というアニメ雑誌のスタッフ新年会だった。近所の映画プロデューサー・Sさん、(まあ、いまさらながらですが、ジブリの鈴木さんです)の計らいである。子供たちが演じる演劇が物珍しかったのか、アニメージュのみなさんは、とても温かな目で見てくれた。

初めて本格的に映画を作ったのは、13歳の時だった。近所のラーメン屋のお姉さん、よっちゃんが、どこからかビデオカメラを借りてきてくれたのだ。映画少女だった私の興奮はすごいものだった。これで自分の映画が撮れる!

思いついたのは、「グーニーズ」のような子どもが主役のSF映画である。動員したのは、かつての「チビチビリトル小劇団」のメンバー。そして、中学校で同じクラスの同級生のサガラである。

サガラも映画が好きで、自らカメラを志願してくれた。私はスピルバーグばりに脚本と監督。タイトルは「次元スクランブル」。
物語は、子供達がトランプをやっていると、その中の数人がふっと消えてしまうことから始まる。あわてて調べて見ると、彼らは「四次元の商人」と契約してたことが発覚。残った子供達が次元を”スクランブル”させ、その子たちの過去に遡り、商人との契約を阻止しながら、最後はその悪徳商人と戦う、というものだ。

よっちゃんが住んでいたマンションが主な撮影現場で、他には広尾の有栖川公園でのロケもあり、なかなか本格的な映画だった。しかし、映画の最後の戦いの場面で、「四次元の商人」の役が足りなくなり、カメラをまわすサガラ自らが、声だけで出演、というアクロバティックなキャスティング&演出になった。全ての撮影を終えると、家のビデオデッキとよっちゃんの家のビデオデッキを繋げて、ダビングを駆使して編集した。

その後も私はサガラと映画を作り続けた。高校生になると、それぞれの学校で知り合った演劇少女たちをリクルート。いくつもの高校にまたがる映画サークルを作った。音楽が好きな子やファッションが好きな子もリクルートし、衣装選ぶや選曲といった自分が不得意な役割を頼んだ。

映画サークルは、十五人くらいのメンバーがいたように思う。夏休みになると、「青年の家」などを借り切り、何日もかけて映画を撮った。相変わらず脚本も演出もキャスティングも自分、というスピルバーグ的映画だ。ダサい青春映画だったと思う。しかし私は絶対に映画監督になる、という強い意志で日芸に入学。映画学科は受からなかったので、放送学科に入った。そして、 サガラも日芸の演劇学科に入学した。

しかし、どういうことだろう。大学に入ると同時に、私の映画作りの熱は急速にしぼんでいった。たぶん、日芸には面白い人がたくさんいて、周りの人の熱に圧倒されたのかもしれないし、広い世界に興味を持つようになっていたのかもしれない。卒業後私はアメリカに渡り、サガラは劇団に演出家として就職。今は連絡が取れないけれど、もしかしたらサガラだけは映画や演劇に関わっているのかもしれない。

その後の人生は、『パリの国連で夢を食う。』という本に書いたとおりだ。(しかも、最後の場面はやはり映画じゃないか!)

先日、茂木健一郎さんにラジオ「ドリームハート」の収録で、「夢はなにか?」と聞かれた。頭に浮かんだのは、「映画を作りたい」ということで、自分でもびっくりした。え、そうだったの? そうかそうか、久しぶりに自分の夢を思い出せてよかった。いつか映画を作りたいと思う。

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