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「辺境メシ」とはぐれノンフィクション軍団

11月15日に、高野秀行さんの「辺境メシ ヤバそうだから食べてみた」(文芸春秋)の刊行記念トークに出ることになった。

高野さんと私の関係といえば、はぐれノンフィクション軍団の隊長と隊員である。え、はぐれノンフィクションを知らない? 

えーと、なんだろう。はぐれノンフィクション軍団の定義はさほど明確ではない。私の知る限り、構成員は『困ってる人』の大野更紗さんと、『わが盲想』のモハメド・オマル・アブディンさんだけである。

まるで秘密結社のようだが、隊の規則とか、訓練とか、秘密のイニシエーションとかそういうものは(たぶん)ない。ただ、高野さんの手引きにより一冊の本を世に生み出した人々が軍団に入れる、そんな感じだろう。

私が構成員になったのは、「パリの国連で夢を食う。」(幻冬舎文庫)がきっかけだ。

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話は前後するが、私はずいぶんと前から高野さんの著書のファンだった(一番好きなのは『西南シルクロードは密林に消える』)。だから、いつの頃からか、ブログを読んだり、ツイッターをフォローしたりしていた。

ある日、高野さんが、「国連の内情を知りたいなあ」というようなことをツイッターで呟いているのを見かけた。そのとき私は、国連をやめて3年目くらいで、以前北尾トロさんが主宰する雑誌「季刊レポ」に国連での経験を寄稿したことがあった。そこで、意気揚々と高野さんにダイレクトメッセージを送り、「よかったら読んでください!」に国連レポのコピーを一方的に送りつけた。

 今思うとなんと迷惑な行為だろう。しかし、高野さんはすぐにメールをくれ、

「面白かった! これは一冊の本になりますよ」

しかも「必要ならば、信頼できる編集者を紹介します。私は新鮮でおいしそうな魚が無造作に転がってるのを見ると、黙ってられない料理人みたいなもんです」とも書かれていた。

 あまりの急展開である。
ひえー! どうしよう!実は私は国連のことを一冊の本にまとめる気はあまりなかった。自分には国連の経験なんてそう面白いと思えなかったし、だいたい自分の過去について広く世界に知られるなんて嫌だった。しかし、高野さんに会ってみたいという好奇心に抗えず、指定された高田馬場のシャン料理店に出向いた。

そこには本当に女性の編集者が同席していた。
高野さんは「有緒さんは、なにか苦手な食べものはある?」と聞いた。「えーと、強いていえば、納豆です」と答えると「えー!まじで、ここ納豆の店だよ」という。なんと私は唯一の嫌いなものである納豆と大好きな作家さんという矛盾に満ちた空間に放り込まれたのだ。

なにはともあれ、おおいに緊張しながらビールをがぶ飲みしている間に、それまで「国連本」に対して抱いていた感情はすぱーんと忘れ、「よし!国連本を作ろう!」「そうですね!」「やりましょう!」という展開になった。

そう決まったら、もうやるのみである。昔のブログを掘り起こし、記憶もほじくりだし、一年ほどかけて本を書き上げた。書く作業は以外と楽しく、むしろ全て描き切って、すっきりするような気持ちにすらなった。ちょうど脱稿したころ、タイトルがまるで思いつかず悩んでいると、高野さんが現れた。

「二日酔いで頭が痛い」と言いながらも、「じゃあ、パリの国連で夢を食うどう?」と一発でタイトルをつけてくれた。かくして、私ははぐれノンフィクション軍団の構成員になれたのだ。

(さらに詳しく入団の経緯をしりたい人はこの高野さんのブログをどうぞ!https://aisa.ne.jp/mbembe/archives/3837 )

あれから、高野さんとは、お互いの家を行き来するようになり、家族ぐるみで楽しいお付き合いを続けさせてもらっている。実は「辺境メシ」の中には、私や夫のイオくんも登場する。一緒に「臭いパーティ」をしたのが私たちだ。

というわけでイベントでは、高野本の読者代表として、軍団の構成員としてしっかり話を聞き出してこようと思う。ぜひみなさん来てくれたら嬉しい。

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それにしても、この「辺境メシ」は発売から一週間で重版したとの噂ではないか。(というか真実だ)

いやー!めでたい!おめでとうございます!素晴らしすぎる。「即重版」は間違いなく出版に関わる人間全員を幸せにする魔法の言葉である。

その一方で、高野さんは「はぐれもの」集団の隊長なはずなのに、いつのまにかむしろライター界のレッドカーペッドを歩いていないか?という疑問もいなめない。

このままいったら「はぐれノンフィクション軍団」に解散の危機が訪れないか、それだけが今の私の心配ごとである。


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