見出し画像

臨床心理士の私が喜びを感じる瞬間:対人援助者に喜びを大切にして欲しい理由

こんにちは。臨床心理士のarisanです。
この記事では、困難なことも少なくない臨床心理士の仕事の中で、私が喜びを感じる瞬間について、また対人援助職の方にとって自分の仕事で喜びを感じることの大切さについて書きたいと思います。

なぜ臨床心理士になりたいのか?

「あなたはなぜ臨床心理士になりたいんですか?」

大学院入試の面接で(ほぼ)必ず聞かれる質問です。

「困っている人の傷を癒したいから」
「家族が心を病んで、その力になりたいから」
「自分も傷ついた経験があるので困っている人の気持ちがよくわかるから」

回答によっては、面接官から

「自分の面倒も見られないやつが戯言をいっている」「誰かを助けたいのではなく、本当はあなたが助けて欲しい人なんじゃないの?」

と言わんばかりの冷ややかな視線と疑念を抱かれることがあります。

(あくまで個人の感想です)

訓練のはじまりに繰り返し問われるこの質問は、人の人生に関わる仕事をするプロとしては当然なものだとも思います。

今想えば、それは正解のない質問だった

でも、今想えば、それは臨床心理学の入り口に立ったばかりの人間には十分な答えを用意するのは難しい質問だったと思います。

この質問を投げかけた教員も、別に学生に意地悪をしたいとか、貶めるために問いかけたわけではなく「あなたはこの問にどう向き合いますか?」その姿勢を問うていたのだと思います。

そして私は思いました。
「訓練のスーパーバイザーやトレーナーの先生方、あなたはなぜセラピストになろうと思ったのですか?」と。

再びセラピストになるのか?出産を経ての決断

臨床心理士として経験を積み、出産で仕事からきっぱり離れたとき、
私はその質問を、もう一度真剣に自分自身に問いかけました。

「本当に再びセラピストになる道を選ぶの?」

コロナ禍、多胎児育児に奮闘しながらも、自分をどこかに置いてきてしまったようなモヤモヤした気持ちでいた私は、自分の在り方やこれからのキャリアについて、ある方(世界で活躍するセラピスト!)に壁打ちをしてもらう機会を得ました。

セッションが進み「自分はどのように働いて社会と繋がりを持ちたいのか」という疑問にぶつかりました。

臨床心理士の仕事そのものにも違和感を感じていた頃だったので、前職にこだわらずに新たな道を模索することさえ考えました。

そのとき、その方が投げかけた質問が、私の眠っていた何かを呼び起こしました。

「じゃあ、(セラピストの)仕事をしてたときに何が一番嬉しかったですか?」

私:…自分のセンサーを相手のために使って言葉にして、相手の方がそれを使って変わっていくことが楽しかったです。

コーチ:それじゃあ、自分の知識と感性をめっちゃ研ぎ澄ませて真剣勝負をしたものがヒットしたとき!なんだね

私:それです!「自分は変われないと思っていた人が自分の変化を喜ぶ瞬間」が嬉しかったんです。

現場も離れていたので、正直その時の答えに心底納得はできませんでしたが、私の中の何かが再起動しました。

そして、その答えを確かめるためにも心理士として現場に戻る決断をしました。

今、現場に戻って心理士として喜びを感じる瞬間

学生相談の仕事では、学生の俄には信じがたい辛い状況を聞いて文字通り手も足も出ない感覚になることがあります。

それでもまた、次のセッションのドアをノックし、開け続けていきます。

それは、その中にも喜びがあるからだと思っています。

最近、私が心理士の仕事をしているときに飛び上がるほどの喜びを感じたのはこんなときです。
(ご本人が特定できないように少々脚色しています)

・相手の期待に答えることを優先して自分の気持ちがわからなくなった優秀な学生がカウンセリングの終わりに「先生は響くかわからない言葉をかけてくれる。それが響くからすごい」と言ってくれたとき。

・死にたくなるほどの辛い経験を共有してきた学生が、新しい経験をしたときに「先生、人生って面白いね」と呟いたとき。

・誰にも心のうちを明かさずに一人で踏ん張ってきた学生が人に弱みを見せられるようになって「先生は私を変えてくれた人」と言ってくれたとき。

心理士としてクライエントが自分の変化を喜び、味わう瞬間に立ち会える喜び

そんな体験を経て、私が、心理士として喜びを感じている瞬間はこんな時だと思います。

・クライエントが自分と仲直りし、自分を許す瞬間に立ち会うとき
・クライエントが自分に対する愛情を取り戻し、変化していくとき
・固まっていたクライエントの心が再び動き、静かに感動しているのが伝わってくるとき

そして、これが実現できる対話の空間をクライエントと私で作り上げたことに喜びと誇り、感謝を感じます。

そんなとき、私はこの仕事をやっていて本当に良かったなと思うのです。

対人援助職の人が仕事で自分の喜びを自覚することの大切さ

私はつい最近、気づいたことがあります。
対人援助職の人は、現場で喜びを感じることを抑えがちだということを。

ものすごく喜ばしい変化があったクライエントの隣の面接室では、今まさに死にたいと、もがいている人が居るかもしれない。

とびきり嬉しい変化があっても、翌週には昔の姿に戻っているかもしれない。

多くの対人援助職の方は、自分の仕事にベストを尽くしながら、同時にそこに居る全ての人の気持ちを汲み取りながら仕事をしています。

そして、変化することがそんなに簡単ではないことも身を持って体験しています。

だからこそ、気づかぬうちに仕事で感じる喜びやウキウキした気持ちに無意識に蓋をしてしまうこともあるかもしれないと思うのです。

でも、もったいない。

むしろ、逆だと思います。

喜ばしいことをちゃんと喜ぶことで、自分の仕事に誇りを持てるようになる。

何が自分の仕事の喜びになっているかを自覚することで、仕事はもっと面白くなる。

ストレスも多い対人援助職の方こそ、ご自分の仕事で感じる喜びを大切にすることで、もっと面白く、もっと長く仕事を続けられるのではないかと思います。

明日も面接室の扉を開け続けるみなさん!
enjoy !


#対人援助職
#私の仕事
#臨床心理士
#業界あるある




この記事が参加している募集

業界あるある

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?