見出し画像

個展「怪物退治」

19日より個展が開催されています。
各SNSでは告知済みですが、こちらでも(遅いッ!)

久保俊太郎展 -怪物退治- 美の起原10th Anniversary 10×10 Vol.7

会場:銀座画廊 美の起原(最寄りJR新橋)
会期:2022年8月19日(金)〜8月25日(木) 日曜休廊
時間:12:00~18:30(最終日16:00)
作家在廊:19,22,24,25(13:00~16:00) 20(13:00~17:00) 

20日からはVRとWEB展示も始まっています。
仮想空間の取り組みにはそれほどポジティブな気持ちを抱いていなかったのですが、クォータービューのSRPGみたいな箱庭的俯瞰図にかなりグッと来ました。是非一度ご覧ください!

このnoteは作品鑑賞の一助となればという気持ちもあって始めたところがあるので、今回はただの告知よりも作品解説を中心に書きます。

既にお越しいただいた方にも、これからご覧いただく方にも、より深く楽しんでいただけるきっかけとなれば幸いです。


テーマ「怪物退治」

今回の個展は「動物病院」を題材にした怪物を描いた100号の大作を中心に据えることがまずありました。
TwitterとInstagramでモデル募集をして集まった(集められた)56体のペットの兵士たちが登場し、動物病院の化身である巨大な怪物と戦わされます。

じゃあ他の作品をどうしていこうかと思ったときに、この動物病院の化身がボスモンスターなら、ペットが病院に連れていかれるまでのケージ(じゃない動物もいますが)の中の時間を、ボスが待ち構える暗く狭い洞窟にしようと。
ダンジョン探索とボス戦のような関係で1つのストーリーを作り、展覧会を「怪物退治」というひとつのテーマにまとめることにしました。


物語のギミック

テーマに則った絵は全部で8枚。
前座となる洞窟が6枚、怪物との戦闘が1枚、戦闘後が1枚。

1 入れられる(入口) 
2 射し込む光(ケージの隙間) 
3 洞窟内を涼しく保つ魔法の石(保冷剤)
4 道中のおやつ(宝箱)
5 出たくても出られない行き止まり(無力感)
6 出たくないのに出される(到着)
7 怪物との遭遇(戦闘)
8 全滅、敗北(ハッピーエンド)

 1~6が道中の様子を表す洞窟の絵になっています。

全体のイメージ

1.突然吹いた強風に背中を押されて、腰が引けたペットの兵士たちが洞窟に押し込まれてしまいます。抵抗虚しくケージに押し込まれる最初のステップ。

『洞窟の入口』

2.わずかに入る外の光と匂いはケージやカートの隙間。戻ることは出来ません。

『一本道』

3.洞窟内は謎の冷たい石で快適な温度に保たれていました。
これは保冷剤です。ちゃんと白いヴェール(タオル)で巻いてありますよ。保冷材は溶けるとゲル状になりますが、その辺りも意識しています。ペットたちにとっては何だかよく分からない未知の物体です。ダンゴムシやビー玉はおまけでなんとなく。

『冷たい石』

4.ダンジョンに宝箱があると嬉しいけど、いったい誰が置いたの?って思います。これはご機嫌取りのおやつです。普段なら飛びつくはずのに警戒して食べない子もいます。

『宝箱のある部屋』

5.出られそうな道が見えても、塞がれていて行けない。無力感。

『行き止まり』

6.見慣れぬ眩い外界の光。最初は入りたくなかったはずなのに今は出たくない。しかし留まることは許されません。最後は引っ張り出されます。

『洞窟の出口』

7.動物病院の化身ヒュギエイタスと対峙します。ギリシア神話の医神ヒュギエイアと英語の亀を組み合わせた名前を持つ、中国神話の玄武と千手観音の造形をベースにした怪物です。(亀だと気づいてもらえないことが割と多い)
保定、聴診、触診、レントゲン、注射、点滴、肛門腺絞り、レーザー、無影灯、様々な技を繰り出す怪物の慈悲ある鉄槌にペットたちは為す術なく… 

『怪物退治 ヒュギエイタス』

8.全滅します。この全滅は様々なケアを受け終えたハッピーエンドでもあります。ペットたちがこの苦しみとその後に訪れる安楽との因果関係を理解出来ているかどうかは謎。

『全滅 ハッピーエンド』

そしてこの8の後、1の絵に戻ります。(背景の虹が繋がる)

絵のストーリーは循環していて、繰り返される通院を表すという構成になっています。無間地獄。可哀想。

戦闘でつけられたはずのリボンなどが道中の絵の段階で既についているという様子も見られます。 今回、何名かの方に2回目のモデルのお願いをさせていただいたのは、こういうちょっとしたギミックを作りたかったという目的もありました。

他にもいくつかあるので、探してみるのも面白いかな?と思います。
(全員にあるわけではないです)


英雄の伝説、英雄になれないペットたち

強大な存在に挑む「怪物退治」の神話は普遍的なテーマとして古来より世界各地に存在します。
これは自分を庇護する存在や社会的規範との決別、象徴的な親殺しの物語でもあり、怪物を見事倒した者はエンディングを迎え、新しい世界を手に入れて英雄となります。
倒せなかった者はゲームオーバー。母なる大地から自らを切り離すことが出来ずに呑み込まれ、コンティニューを延々と繰り返す運命の深みに嵌りこんでいきます。

子どものように守られ続けて生涯を終える力無きペットたちは英雄になることが出来ません。可哀想。だけど可愛い。可哀想だから可愛い。ペットたちの戦いは続く(続けさせられる)。

いわゆる「ループ物」のストーリーでも、最終的にはループを撃ち破り自由な世界を獲得するというところにゴールが設定されます。
しかしペットたちは飼い主も獣医もいなくなったら生きていけません。
だからこの物語はループを打破出来ない、或いはしようとしない(それは死を意味する)。幸せな生活と生命の安全の保証が、どうしようもない無力感と共にあります。


ネタバレはどこまで?

「作品解説」でどこまで明け透けにネタバレをするべきかは未だ手探りです。 語彙力・表現力が貧弱であるが故にただの散文的な説明になってしまって却って水を差すような結果になったら嫌だなと。
でも会場で話してみると膝を打つようなリアクションを貰えることも多いので、自分で思っているよりは大丈夫なんだろうとも思います。
そんなこんなで解説のキャプションは展示が始まってからも何度か差し替えています。
なぜループの物語になったのかなど語るともっと色々出てくるのですが、収集がつかなくなるので今回はここまで。いつか別の記事で書きたいと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。
展示もご覧いただけましたら幸いです!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?