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今を生きるトリックスター

トリックスターとは神話などの物語の中に登場する、自然界の法則や秩序を破り、物語を展開させる者である。善と悪、破壊と創造などの異なる二面性を持っているとされる。

以前読んだ本の中に具体例があるので、引用する。

モイヤーズ アフリカのある宗教的伝統のなかに、ある神についてのすばらしい物語がありますね。その神は片側が赤く、片側が青い帽子をかぶって道を歩いていきます。夕方、畑から村に帰る農夫たちの何人かが、「青い帽子をかぶっていた神さまを見たか」と聞くと、ほかの農夫たちは「いやいや、あの神さまは赤い帽子をかぶっていた」と言い、彼らは喧嘩を始めます。

キャンベル そう、それはナイジェリアのトリックスター神、エドゥシューです。彼はそれだけでなく、最初ある方向に歩きながら、どこかで回れ右をして、おまけに帽子を一回りさせるものだから、また赤か青かでいっそうひどい争いが起こる。二人の男がこのことで争い、裁きを仰ぐために王様のところに連れていかれると、そこにトリックスター神が現れて、「わしが悪かった。わしのせいだ。わざとやったことだ。争いを広めることがわしのなによりの喜びなのでな」と言うのです。

『神話の力』ジョーゼフ・キャンベル&ビル・モイヤーズ

ちょうど今よく目につくペットの貨物室問題のことについて考えていた時、昔に読んだこの本の記述がふと出てきたのだった。

ある人はペットを人だと言う。ある人は動物だと言う。そこに争いが生まれる。
ペットは畜生と人の二面性を持っている。科学的事実としては人ではないが、社会的認知としては人と言っていい部分がかなり多い。右半身は畜生、左半身は人間のキメラだ。これはまるでトリックスターのよう。

本では以下のように続く。

モイヤーズ そこになにか真実がある?

キャンベル もちろんあります。ヘラクレイトスは、闘争こそあらゆる偉大なものの創造主だ、と言っています。こういう象徴的なトリックスター思想には、なにかそういうものが潜んでいるようです。私たちの宗教的な伝統のなかでは、例の楽園のヘビがその役割を果たしています。せっかく事が立派に整ったという段階で、彼はリンゴを投入するのです。

『神話の力』ジョーゼフ・キャンベル&ビル・モイヤーズ

闘争こそあらゆる偉大なものの創造主。うんざりするようなSNSのネットバトルから生まれるものも何かあるだろうか。それを眺めるスマホの背中には、かじられたリンゴの実のマークがあしらわれている。楽園のヘビ。

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