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私が、一人で浮かれてただけでした。

ごめんなさい。

満月デート、何もなかったです。

というか、存在していなかった。

無。



確かに、カメさんからお誘いをいただいたのですが、

彼は忘れていたというか、ご家族の事情で実家へ帰り、現在1ヶ月の休職中。

それでも、真面目で誠実な彼が、約束を破るわけないと思ったけど、

満月の数日前になっても、前日になっても何も連絡が来なかった。

友達や、行きつけのバーのマスターたちから、

「どこでデートなの?」

いや、デートっていう名前の会なのかはわからないけど、

そういえば、テラス席だけ言われて、どこか知らないや。

サプライズなのかな?

カメさんが予約するって言ってたよ。

「遅くても水曜には、蟹子さんから連絡した方がいいよ!」

とみんな口を揃えていうけど、それができなくて。

自分がすごい張り切っていることを、悟られたくなくて、

彼から連絡が来ると、信じてた。


でも、満月当日のお昼になっても連絡がなかった。


「蟹子が送らないんだったら、私が送るよ!」

「最後にLINEしたのは、いつなの?メールとか違うところへ連絡行ってるんじゃない?」

よく考えたら、最後にLINE連絡したのは、二週間前。

しかも私の方からだった。

特にたわいもない写真を送ったら、

「良い写真ですね。」

当たり障りもない、でも丁寧な一つの返信が返ってきた。

その後は、会話は続かなかった。

その時に気づくべきだった、私。


シアトル帰りで25年来の親友に、銀座で富山回転寿司ランチを食べてる時、

急かされて、半ば無理やりに送った

「Are we on for today, still?」

勇気を出して、送ってみたLINE。

1時間ほどしてからカメさんから返信があって、

「今日は満月ですね。すみません。こちらから誘っておいて、色々あって行くのは難しそうです。」


なんだ。

そっか。

バカね。

ほんと、馬鹿。


カメさん、忘れてたっていうか、もう、そんなこと時効だと思ってたと思う。

デートどころか、口だけの社交辞令されただけだった。

カメさんと、私は、全く違う方向を向いてた。

最初から何も、存在していなかった。

無だった。

VOID。



そんな、1ヶ月も前に「次の満月の夜にテラス席で飲みにきましょう。」

なんて、LINEで誘ったことも相手は覚えてなくて、

でも、私はナイーブに間に受けて、

この1ヶ月、毎日ワソワして、

嫌なことがあっても、私には満月デートがあるからと、

その夜を楽しみに、毎日頑張れた。

その日のために、

恋愛に詳しい男友達に、一般的に男ウケしそうな

上品なデート服上下を相談に乗ってもらって、10万円注ぎ込んで、

外反母趾の足に、履かないヒール靴まで買って、

痩せエステと美容エステへ同時に通い出して、

しかも満月デート当日の昼に、行きつけの東銀座の美容師で

髪の毛のブローセットを予約していた女なんで、

地球上どこ探しても私だけだった。

最近、新しく知り合ったバーテンダーにも、

「男は、忙しくても会いたい女性には、時間が無くても、
お金がかかっても会いに行きますよ!」

そうだよね。

ネットで、男は指先までチェックしてるという記事を読んで、

何時間も、バーで、

ネイルは男ウケする薄いピンクや白がいいか、

私がいつもする真っ赤のネイルがいいか、

カメさんから何も手を出されなかったら、

自分から手を繋いじゃっても良いのか、

または付き合ってもないのに、ハシタナイからやめた方が良いのか、

なんて、男からしたらくだらない私の悩みに、

朝まで相談に乗ってもらってた。


この1ヶ月、どれだけ自分が楽しみで、

自分で色んなことをシミュレーションしちゃって、

ネットで大人っぽい服を探したり、デパートやブティックを回ったり、

周囲の男友達やバーテンダー達、友達に相談に乗ってもらって、

予約も約束も何も存在しない事に

大金と時間を多く使い果たしてた。


ただの社交辞令に、

一人で浮かれて

一人で一生懸命になってた。

一人で馬鹿だった。

ほんと、馬鹿だった。


あまりにも虚しくて、

恥ずかしくて、

悲しくて、

でも、そのLINEが来た時、目の前に25年来の親友がいたから、

無理して笑い飛ばして、

「なーんだ、私の勘違いだったみたい。美容院にまで付き合わせちゃって、ごめんね。」

親友は、そんな私の空っ風に、ちゃんと気づいてて、

元々その日は、郡山まで日帰りを予定していた彼女が、

「蟹子!今から私と一緒に郡山へ行こう!
もう予定ないんでしょ?行こう!」

内心ちょっとパニクっていて、

自分の心の整理が全く追いついてなくて、

いきなり250キロも離れたところへ、

しかも、現地の知らない友達と一緒に秋祭りを見に行こうだなんて・・・。

頭の思考回路が不機能だった。

でも、

美容師日本チャンピオンにまで上り詰めた、カリスマ美容師に、

バサバサな私の髪を、デート用に大人っぽく決めてもらったのに、

このまま一人で家に帰っても、

泣き通しの夜と、

なおさら虚しい夜が待っているだけだった。

親友の波を信じて、蟹子は上野駅から郡山行きの新幹線に乗った。


が、


電子時刻表を見上げると、

新幹線の到着駅の表示を見かけてまた、

胸の奥がぎゅーーーっと絞られる思いになった。

郡山を通り過ぎてそのまま乗っていくと、

そのカメさんの実家の地名が、

浮き上がっていた。




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