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ガガガガ…ピーガー…。

なんだか不穏な音がする。
ラジオのチャンネルが合わない時の音というか、深夜にテレビから流れる砂嵐の音というか。
音が思ったよりも大きくてパパが起きてしまわないかと少し不安になったけど、窓から覗くと相変わらず寝入っているみたいだ。

それでもいつか起こしてしまうんじゃないかと考えると心配だ。
なんとか音量を下げようと思うけど、何せツマミやレバーの多い機械で、どれをどうすればいいのかよくわからない。
とりあえず一番右のツマミを左に回してみる。
何も起こらない…。
右に回してもさっきまでと変わらずザザザ、ガガガと音を鳴らしている。
その下にも二つツマミがあって右の方を適当にグリグリと回してみると音が一瞬切れまた流れたりを繰り返している。
これも音量とは違うみたいだ。
左の方を回すとザザザという雑音みたいなものが少し小さくなったりして、でも音量的にはあまり変わらない。

わからないのに色々といじくり回していると罪悪感と共に焦りみたいなものが出てきた。
このままではそのうちパパが気づいて起きてきてしまうかもしれないし、この機械を壊してしまうかもしれない。
それが自然に壊れたように見えるならいいけど、明らかに誰かが弄ったということがわかるとしたら、パパと2人っきりの中で犯人になるのは僕しかいない。
しかも明らかに弄ったように見えるのかどうか、僕にはわからない。
もうすでにたくさん弄ってしまった跡がたくさんついているのかもしれない。
少し怖くて、ものすごくドキドキしてきた。


真ん中に大きなツマミがある。
右側にある3つのツマミより2倍くらい大きいツマミだ。
焦る気持ちが手に移ってちょっと震えている。
汗もかいている。
もうすでに弄ったことがバレてしまうこと請け合いなら、いっそ勢いよく回してしまえと思った僕は、そのツマミを勢いよくグイグイと回していく。
ピィー…ガガガザザザー…キュー…。
黒い機械は色々な鳴き声をあげている。
まるでママを探して泣いている動物みたいだ。

するとあるところで僕はツマミを回す手を止めた、なんだか声が聞こえたのだ。

「…ら……うぞ。ジェイエ…こち…ジェ…どうぞ」

どうやらそれは人の声だった。
まだピーやらザザザやらと音も混じって上手く聞き取れないけど、これは間違いなく人の声だ。
もしかするとこの機械は人と連絡を取るものだったのかもしれない。

正体がわかると面白くなって、僕はどんどん真ん中の大きなツマミを回していった。
聞こえてくる人の声が何を言っているのかもわからなかったし、相変わらず雑音も入ってくるしで聞きづらかったけれど、僕はこんな山奥でパパ以外の人の声が聞こえてくるということにとてもワクワクしていた。
それに何やら機械まで自分で操作している。
まるでロボットや、宇宙ロケットのパイロットになった気分だ。
いつの間にか罪悪感や少し大きめの音量も全く気にならなくなっていた。
ツマミをどんどん回していく、操作していく、このキャンピングカーの一番後ろのカーテンで閉じられた暗い空間は僕の操縦席だ。


するとその瞬間、この機械は全く音を発さなくなった。
突然のことに僕は驚いた。
それまで止めどなく流れていた雑音も時々聞こえた人の声も全く流れなくなってしまったのだ。
夢中になるあまり変なところを触ってしまったのか、またはあまりに弄りすぎて壊してしまったのか、僕には全くわからない。
でも機械の赤いランプや数字の表示は消えていないのでスイッチが切れてしまったわけではなさそうだ。
ではなぜ音が出なくなったんだろう。
僕は怖くなってツマミから手を離す。
スイッチを切った方がいいのか、それとも正直にパパに言ってなんとかしてもらった方がいいのか。


膨れていく罪悪感と焦燥感に震えながら俯いていると涙まで溢れてきた。
わかっているんだ、パパが僕のことを思ってここに連れてきてくれたのも。
いつも何も言わない僕をどうしていいかわからなくて悩んでいることも。
なのに僕は勝手に機械を弄って、壊してしまったかもしれなくて。
どうしよう、どうしよう…。

「ピー、ガー」

突然機械が大きな音を発し始めた。
あれから何も弄ってやしないのに、しかもこれまでと比べ物にならないくらい大きな音だ。
背筋がゾクゾクっと震えた、それは今度こそ大きな音でパパにバレてしまうと思ったからなのか、あまりの音量に驚いたのか、いや別の理由かもしれない。
しかし僕はハッと気づいてスイッチに手を伸ばした。
とりあえずスイッチを切らなければ。
その指が電源スイッチに触れるゼロコンマ数秒前、機械から声が聞こえた。

「もシもし、モシもし?君はダレ?」

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