見出し画像

水の町江戸川区は、江戸切子の都☆若手切子職人の気鋭で、30代前半に堀口切子を設立した三代秀石・堀口徹さんを訪ねました。未来に開かれる江戸切子の美学からスタートして、水の町で遭遇するミラクルな体験へ!

一之江境川親水公園 (6)

ひと際高くそびえるタワーホール船堀の展望台から一望するとわかる通り、江戸川区は多数の河川と共存する水の町。隣接する江東区と共に、ガラス工場が多く見られるのは、早くから運河が開けて水運の便を利用して石炭や原材料を運搬するのに便利だったためです。

展望台

展望台から (2)

ガラスを原材料とする伝統工芸・江戸切子職人の約6割が江東区で腕を競い合っているのはそのためです。また、江戸川区は、荒川を超えて都心から離れるために土地が少し安くなるとのこと。

一之江境川親水公園 (2)

今回は、若手切子職人の気鋭で、30代前半に堀口切子を設立した三代秀石・堀口徹さんを訪ねました。未来に開かれる江戸切子の美学からスタートして、水の町で遭遇するミラクルな体験にご案内します。

画像5

【無限に広がるガラスの万華様】
 都営新宿線の船堀駅から「船堀グリーンロード」を気持ち良く歩いて10分ほどすると堀口切子の工房に到着。

船堀グリーンロード

パリッとした紺色のロングコートを着た堀口徹さんが迎えてくれました。工房で働く若手職人の1人がさっと出してくれたお茶が入ったグラスを手に持つと、シャキッと切れ味の良い感触。揺れる細い竹のような縦縞が何本も入っています。聞くと、先代からの堀口ブランドオリジナルの柄で「よろけ縞」とのこと。

画像7

優しくもシャープなこの感触には何か秘訣があるに違いないと思い、「堀口切子さんでしかできないことは何ですか?」と聞いてみました。すると「誰にでもできることを、誰にもできないという所まで気を配ることです。」との答え。例えば、飲み口の部分。淵の角がそのままだと欠けやすくて唇の当たりも強いけど、何カットか入れて均すと欠けにくくて痛くない。また、常に「誰のために、何のために」と考えているとのこと。「個人の普段使いなのか、飲食店で使うのか、アート作品なのかで気を配るポイントを変えます。」アート作品として表現を優先させる場合は、シャープさを出したいために敢えて、面取り(切り口のとがった部分を切り落として、かたちを整える加工)を施さなかったりするそうです。

画像8

 1つ絶対に聞きたかったことがありました。「以前ラジオで、堀口さんの作品が、飲み物を入れて初めて完成するとおっしゃっていましたが、どういうことですか?」。すると文様が底に入った、黒が基調のぐい呑みを持ってきました。水を注ぐと、側面の長細い楕円の8つの窓全てに映り込んだ底の文様が水位とともに上に伸びてきて窓一杯の文様となりました!奇跡のような変容。水が満ち、「飲み物を入れて初めて完成する」という意味がわかりました。これこそが、堀口さんが発明した「万華様」。無限に広がる江戸切子の可能性を感じました。

画像9

画像10

【非日常にトリップできる親水公園】
  堀口さんおすすめのお蕎麦やさん『木香』で十割蕎麦をいただいた後は、水の町江戸川区散策へ。

画像11

画像12

日本で初めて景観地区となった『一之江境川親水公園』沿いに歩いてみる事にしました。新緑鮮やかな川沿いに足を踏み入れると、ゆったりと時間が流れる異空間。紫と黄色の菖蒲が水辺に咲き乱れ、赤いツツジも綺麗。人にも出会わないので、グリム童話の森に迷い込んだ感覚。ふと見ると、4~5羽の鴨がぐっすりと寝ていて、触れるほど近づいても起きません。なんて平和なんでしょう!

一之江境川親水公園 鴨

少し歩くと、石の上に亀のツガイが仲良く並んでいました。2匹して彫像のようにキマッたポーズ。

一之江境川親水公園 かめ (2)

更に進むと突然、頭上上方目の前に長細い浴衣地が何本もたなびいています。不思議の国に来てしまったかのようなこの光景は、歴史ある『村井染工場』。1936年創業で、目の前の一之江境川で洗いを行っていたのだそうです。伝統的な手染めの技は、今も変わらず、季節柄、鯉のぼりの現代アートのようでした。

村井染工場 (2)

 更に歩を進めると、大きな木が印象的で門構えも魅力的な屋敷が出現。一之江抹香亭(いちのえまっこうてい)と書いてある門をくぐると、大きな木は、樹齢七百五十年以上のタブノキだと判明。

一之江抹香亭 (9)

抹香屋田澤家は、江戸時代からの旧家。タブノキの葉を乾燥させて石臼で挽き、その粉末に白檀などの香りを加えて抹香にしていたとのことです。かつて屋敷の住人達が、ゆっくりと石臼を挽きながら香りの粉末を作っていたなんて、優雅ですね。

一之江抹香亭 (3)

一之江抹香亭 (6)

一之江抹香亭 (8)

【アートのエレメント(要素)】
  抹香亭を出て東に向かうと、パーッと開けて見えたのが、穏やかに流れる新中川。瞬間的に、4年前プラハで見たモルダウ川の光景が美しくオーバーラップしてきました。西欧も東洋も関係ない、何か共通するシンプルな水辺の空気が漂っていたのです。

新中川 (3)

同時に、午前中の堀口さんとの会話も蘇ってきました。「菊花文」など昔から残っている14個の切子の文様を見せてもらった時、「このような定番の文様は日本独自で、西欧にはないのでしょうか?」と聞くと、「あります」との答え。「簡単に切れるのに美しい。そして、側面や底など、どこにカットしてもサマになるという汎用性があります。そのような文様は普遍的なので国に関係なく生まれて今に受け継がれています。」

画像21

新中川にたどり着いた時に浮かび出てきた美しさのエレメントが、江戸切子の中に脈々と流れるアートのエレメントとつながった気がしました。日常の中に実は潜んでいるアートのエレメントを、出来るだけたくさん発見していきたいものですね。

画像22

画像23


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?