見出し画像

超能力・再会

三峰山の登山を終えた、私、“安岡美月”と長篠麻也…次は私の番だ。武甲山には私の御先祖、“月姫”様が待っているはず。実は私…月姫様には会った事がない。前に来た時は麻也の御先祖様、“麻姫”様がいたからだ。

武甲山!あの山頂を目指す。

『そもそも…武甲山って山は月の領域じゃからな。私は三峰の山こそが我が領域なんじゃよ。』

あの時は入れ替わっていた訳か!

『私らは三峰と武甲の山でひたすら下界を見ていた…見ていたと言うよりも見張っていた、と言うのが正しいな…魔物は封印されたとはいえ、親玉の魔物は未だ内側から封印を破ろうとしているからな。其方らが住む大地の奥底には災いの権化が根付いておる。其方らは身を持って奴を倒さねばならん。“破邪の力”を身につけなければ…と言う訳じゃ。』

破邪の力か…初めて聞いた単語だ。しかも私達が住む場所の地下奥深くには御先祖様が命をかけて封印した災いの権化が眠っていたとは!麻姫と月姫様が背負った宿命とは今でも続いているのか…それが私達に託されようとしている。

私達は武甲山の頂上に着いた。

武甲山御嶽神社!私は帰って来た!

私達は神社の鳥居を潜った。鳥居を抜けるとやはり気の流れが全然違う。

『ほう…今回は大所帯じゃな。』

声が聞こえた。

『久しぶりじゃな、じゃじゃ馬娘!』
『ん?懐かしい悪口じゃな。その声はお転婆姫、麻じゃな。待ちくたびれて危なくまた寝てしまうところじゃったよ。』

『月姫様、私です…麻也です。実は月姫様にご用があって参りました。』
『わかっとるよ…麻也。まずは再会を喜ばせておくれ。一人余計なのがいるがな…』
『五月蝿い!誰が余計じゃ!月、私
と一戦交えても良いのじゃよ?』

麻也は二人の仲裁に入ろうとしたが、二人にギロっと睨まれて動けなかった。蛇に睨まれた蛙のようであの麻也が萎縮している。

『あの…もしもし…』

二人の耳には私の声など入りはしない。私は愕然とした。二人は私達の事等眼中になくひたすら睨み合っている!

『あのぅ!すみません!』

二人はビクっと我に返った。

『美月、すまんの…其方の事を忘れておった!月、この娘が其方の末裔じゃよ。』
『初めまして、月姫様…私は安岡美月と言う者です。』
『ほう!其方が妾の子孫か。妾の若い頃にそっくりじゃな。妾達の生まれ変わり?妾達の魂はこうしてまだあるのにな…』

月姫、御先祖様は喋り方以外は私と瓜二つ。まるで鏡に映った自分を見ているようだ。

『さて、美月に麻也…其方達が何故ここに来たか…“最後の試練”についてじゃろ?実は…妾にも良くわからんのじゃよ。だが大体の場所は掴んでおるよ。妾達は伝承として子や孫…と伝えて来たのじゃが、どうかこの謎を解いて欲しい、託す…と言う意味で代々伝えていくはずじゃった。しかし長い年月という刻は言い伝えすら風化してしまう。そこで妾はある人間を頼った。長年、妾と麻の事を育ててくれた乳母の萬屋逢羽…伝説の商人、萬屋金兵衛の妻である彼女に全てを託したのじゃよ。彼女には二人の子がいてそのうちの一人は其方らが住む街に結界を張りひたすら魔物が封印を破らぬよう今でも陣を引いて守っている訳じゃ。彼女の子孫を頼れ!逢羽の子の子孫なら最後の試練の秘密を知っているはずじゃからな。』

私達は呆然としていた。つまり大学の地下に御先祖様達が封印を施し、彼女達の母親代わりとなった金兵衛の妻、逢羽の子供の子孫が代々結界を引き今でも守っている訳だ。その子供の子孫が最後の試練について知っている。

『妾も其方らについて行こう!美月…私の末裔よ、腕を差し出せ。』

と、月姫様はいうと私がサッと突き出した腕…あの紋様の中に吸い込まれていった。麻也が言っていた通り、右腕に何かズシっという感覚が伝わる。

“断じて妾の体格が良過ぎって訳しゃないぞ!”

私の中の月姫様が語りかける。わかってますってば。私達は難なく下山に成功した。

『下界に降りてきたのは何百年ぶりじゃ…随分と雰囲気が変わったもんよの。』
『そうじゃの…妾達が生きていた頃は田んぼや畑ばっかりじゃったし。』

『只今、戻りました。』
『麻也ちゃん、美月ちゃん…お帰りなさい。で、どうだった?成果はあった?』
『うーん…あったって言えばあったんですが、無かったって言えば無かったような感じですね。』
『うーん…そうなの?なんか微妙な感じだね、でも楽しかったのならそれでヨシ!かな。』

私達は温泉に入った…確かここは源泉掛け流しで温泉の匂いがほのかにする。

天然石の湯船、源泉の温泉…旅館がアピールしているスポットだ。

住み込みをしていたあの時は本当に真夜中しか入れなかったので昼間に入れたのは本当疲れがドッと流れていく気がした。

部屋に戻った私達…コンコン、とノックがして女将さんが入って来た。

『美月ちゃん、麻也ちゃん…夕食はまだだけど、ティータイムにしましょうか。』

女将さんは紅茶と瓶に詰められた青いジャムとクッキーをテーブルにコトン、と置いた。

『このジャムは青いけどブルーローズのジャムでトーストに乗せて食べてもいいけど、意外とクッキーに乗せても美味しいのよ。』

なんでもお姉さんがいた頃は変わったお客さんが多く、エルフだったり、ちょっと身なりが独特な人が来てお香?を炊いて空を真っ暗にしたドジな人とか宿泊したり…兎に角変わったお客さんがいたのだそうだ。お姉さんが客室担当をして女将に話したのだとか。

『あの人が旅に出た時と入れ替わりになんでも光が苦手で夜に旅をしている…というお客さんが来館して宿泊したのよ。お客さんはあの人を探していたんだけど結局会えなかったのね。夜遅くにチェックアウトしていったのよ。その時にお客さんの祖母が作った「青い薔薇ジャム」をお金と一緒に置いていったの…なんでもこの薔薇ジャムは奇跡を起こすジャムらしくてね。“1口食べると小さな奇跡が起こり、食べれば食べた分だけ奇跡は大きくなります。でも、一度に食べる量は3口までにした方がいいでしょう。大きすぎる奇跡は受け止められないかもしれませんから。”って言ってたのよね…』

わらしべ長者のもう一人のファイナリスト・さち様の作品です。寄稿有難う御座いました!

『ところで…美月ちゃん、麻也ちゃん。そちらの方々は?貴女達に似てるけど雰囲気は…おばさん?っぽいけど。』

しまった!女将さんには姫様達が見えている…私達は思わず紅茶を吹き出してしまった。麻也は驚きで熱い紅茶をゴクンと飲んでしまい、床でバタバタと悶えている。

『そこの女中!私の事を老けていると言ったな!』

麻姫様は何処から引っ張り出したのかわからないが、女将さんに向けて薙刀を突きつけた。

『確かに妾達はもう“おばさん”に近いかも知れぬがな…言ってはならぬ事を言ってしまったようじゃな…』

月姫は冷静に淡々と話してはいるが顔は怒っているのがわかる。

『これはこれは…姫様方…大変失礼を致しました。申し訳ありません、決して姫様方の悪口を言ったつもりは御座いません…どうかその刃をお納めください…』

女将さんは手をつき姫様方にひたすら謝っている。私も麻也も必死になって姫様方を宥めた。

『ならん!そこの女中!許さんぞ!』

姫様方は刃を振り下ろした。女将さんは咄嗟に赤い櫛を突きつけた。
薙刀の刃は櫛で弾き返される…

『そ、その櫛…あかがねの櫛…?何処でそれを…』

麻姫は狼狽える…

『ま、まさか…其方は…』

月姫さえ、怖気づいている…女将さんはスクッと立ち上がり、

『本当に貴女達は昔から変わっておりませんね。麻、月…忘れたとは言わせませんよ?』

二人は真っ青になり…ガタガタと震えている。

『本当に貴女達は本当にお淑やかさがない…私は女らしくしなさいと口を酸っぱくして何回も!言ったはずですよ。私の躾方が間違っていたようですね。貴女方のお父上が見ていたらさぞかしお嘆きになられたかと思いますよ?恥を知りなさい!麻、月…そこに座りなさい!』

『は、はいっ…!』

ビクッとした姫様達…部屋の隅で正座をしている。

『大体貴女達は一応“防人(さきもり)の巫女”でしょ!本当に情けない…』

女将さんの説教は一時間くらい続いた。

『麻、月…』
『お許し下さい…母上…麻は猛省しております…お許し下さい…』
『母上…妾も…反省しております、どうか御慈悲を…“アレ”だけは…』

『ならん!』

女将さんはそう言うと麻姫の装束を強引に剥ぎ、麻姫のオシリに…パンッ!

『ぎゃっ!』

パンッ!パンッ!麻姫はわんわん泣いて叫んでいる、何回叩かれただろう、麻姫のお尻は真っ赤になっていた。

『さて、次は…月…』

月姫様は女将さんの圧に動けなくなっている。女将さんはニヤっとして…月姫様にジリジリと近づく。

パンッ!

『ぎゃー!』

パンッ!パンッ!月姫は、

『母上…母上…ごめんなさい、ごめんなさい…!』

と喚いている。

『美月ちゃん、麻也ちゃん…本当に娘達がごめんなさいね…全く、女としての振る舞いはできてないし、それ以前に親である私の顔を忘れるなんてね…。騙すつもりは無かったんだけど…実はね、私は最初から知ってたの。貴女達が私のところに来ることもね。そう…私が、逢羽…萬屋逢羽…あの子達の育ての親な訳。』

姫様達はまだぐったりしている。

『私の夫、金兵衛は行商をしながら日本全国を行脚し、神様が集う場所を突き止めた。ただそこに入るにはある物がいる。それを持つのは貴女達が通っている大学の中にあるの。それを持って不死の山に行きなさい!それが神様達が住む場所の入り口になるのよ。そこに住む神様に会い最後の試練を受ける事ができるのよ。』

女将さん…逢羽さんは続けた。

『麻と月の母達は短命でね、二人を産んですぐに亡くなってしまい、たまたま峯岡台の国に入った彼と私は彼女達の父上からの命を受け、彼は“神々の住まう霊峰”の情報を探しに、私は幼い二人を育てる乳母として残ったのよ。私は彼女達を立派に育て学問や武術などを教えた。この子達は異形なる者、つまり魔物を封じる者…“防人の巫女”として生きていかねばならない宿命の子達…私は心を鬼にして育てたつもりだったのに…麻、月!親より先に逝くとはどういうこと?親不孝にも程がある…それは冗談だけど…』

『そ、それは予期せぬ事が起きてしまったし、彼奴が徳川と石田の軍勢を使ってくるとは思わなかったんです…』
『麻のいう通りです、母上。妾達も必死になって戦いましたし、結界を敷くのがやっとだったんです…』

『魔物もだいぶ狡猾な手を使うようになったのね。美月ちゃん、麻也ちゃん…私のバカ娘達を宜しくね。あ、そうだ…これをあげる。』

逢羽さんは先程の櫛を私に差し出した。

『これはね、入り口の鍵をあげる宝物の一つで、“銅(あかがね)の櫛”って言うの。よくこの櫛で私がこの子達の髪をよく結いてあげたのよね…この子達の髪って綺麗でしょ?絹糸みたいにサラサラで。女にとって髪は命の次に大事なもの。この櫛はこの子達の髪をとかすのによく使っていたからこのバカ娘達の力を制御する事ができるから馬鹿をやった時は櫛を使ってみてね。』

『母上…いくらなんでも馬鹿馬鹿、連呼するのは酷くはないかと…』
『妾を愚弄する事は例え母上であっても許せる事ではないぞ…』

逢羽さんはそんな事を気にせず…

『そんなだから貴女達は馬鹿だって言うのよ…』

姫様達はスチャ…と薙刀を逢羽さんに振り下ろしたのだが櫛が無意識のうちに私の手元を離れ、バチっと姫様達の念を受け流した。

『本当…貴女達って少しも学習しないんだから…』

“パーン!”“ぎゃーっ!”

不思議な音と悲鳴が秩父の夜更けの中に木魂した…


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?