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上手い下手より大切なこと。

今朝、ふと思ったことがありました

「美大受験に合格する・しないは、ただ上手いか下手かの違いだけだったんだな」と。
それが今後の人生を決定することでは全くないのです。
しかし、当時にとっては、受験というのはその後の人生が全て決まるほどのことでした。

無論、合格するに越したことはありません。近所の高校生の子も、合格して、こんなにおめでたいことはない!って心から嬉しかった。努力の結果があるわけだし、そこに向かってきた時間が何よりもその人自身の糧になるでしょう。

朝、ふと。5秒くらいの間。息子に着替えを促しているくらいの瞬間に、パッと思い出したシーンがありました。

かなり昔。あるドラマの美術協力で、主人公の描くデッサンの小道具を描くことがありました。
会場には、僕(30歳くらい)とモデルさん、そしてプロデューサーの後輩である現役美大生(20代前半)。小道具の採用の本命は、もちろん現役美大生。彼がしっかり書いてくれればOKで、僕は保険のような立場です。
デッサン時間はおよそ2時間。向かいにいるのは、僕が夢にまで見たバリバリの美大生。(僕は全ての美大に落ちましたので)、憧れと、胸を借りる思いで、まるで「思い出受験」のように気軽に描いてました。

1時間して、美大生が頭を抱えだしました。ため息混じりで、自分のデッサンが気に入らない様子。ちらっと見ると、真っ黒です。僕は(これはやばいな、僕の絵が使われるかもしれない)と、いきなり責任とプレッシャーが湧いてきて、必死にデティールを詰めていきました。
美大生は、タバコを吸いに休憩ばかりしていました。

そして2時間。
なんとか描き終わり、美大生のデッサンを見ると、消したり書いたりしてモヤがかった人物の姿が見えました。彼は浮かない顔をしてました。きっとスランプなのか、久しぶりのデッサンで勘が戻らなかったのかなと思いました。

プロデューサーが入ってきて、二枚のデッサンを見比べた後、美大生のデッサンを採用する旨を伝えました。僕を誘ってくれた友達の助監督は驚いていました。そして「ごめんね」といって社食のカレーをご馳走してくれました。

もちろん、その美大生がその後、有名な作家になっているかもしれません。それはまた置いておいて、あの時の僕は、頼まれた仕事に精一杯取り組みました。
学生時代の僕は、美大に落ちてからというもの、劣等感にまみれていきてきました。壁に打ち当たれば、「美大さえ行ければ」と恨んだこともありました。今の生活に不満だらけで、うまく交友関係を築けないこともありました。
それから独りでひたすらに「絵を描くということは、自分にとってなんなのか」。「人のために描くにはどうすればいいのか」を考え続けてきました。もう辞めてしまえばいいのに、なぜこれほどまでに描きたいと思うのか。
似顔絵を書き出したのも、自分の表現にスランプがやってきた最中です。人の喜んでるところがみたい、という、素朴な思いからでした。
そうして、大学の卒業制作では、シャッター街の商店街に活気を取り戻すために、一軒一軒お店を周ってインタビューしながら似顔絵を描いていき、その数は300人以上にもなりました。
僕は、自分の絵を通して、世界を知りたいと思いました。上手い、下手ではない、評価されない世界の中で、求められるものを描くこと。

そうやって、いろんな人に出会い、学んでいくなかで、30歳の時点では、ドラマに自分の絵が出ることは嬉しいけど、それに左右されることはないなと感じていました。名誉なことではありますが、それによって、どう貢献できるのかということの方が大事でした。
その後のテレビ出演にしてもそうです。自分を支えているものは、もっと足元にありました。

若いうちは特に、上手い下手、偏差値が高い低いで、人生の大きな分かれ道が生まれます。こと芸術においては、大切なのは作家としての生き方、姿勢のほうだと思うのです。だから僕は.絵画教室の生徒さんが「私なんて絵心ないから・・」と自分を卑下している時に、そう思わせた美術教育に憤りを感じながらも、胸を張って「大丈夫ですよ!大切なのは上手い下手じゃなくて愛情なんですから!」と言い続けるのです。
何千回も、何万回も。。

描くことに意味がある。そこに心を寄せて人生を振り返り、より豊かなものにしていくことが、芸術の力です。深く癒される行為。
芸術鑑賞も良いですが、その心、その体で、一本の線から始まるものもる。
それを体験しないことは、勿体ないと心から思うのです。

追伸
あの時の美大生は、若かりし頃の自分だったかもしれません。スランプに落ち込んで自暴自棄だったあのころ。今だったら、彼になんて声をかけるだろうか。
気をほぐしてあげて、いいところを沢山褒めてあげるかな。「大丈夫、きっとうまくいく!」って。

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