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東京アダージョ:豆まきの頃

東京アダージョ:豆まきの頃

 どうあぐねても、不幸を背負った時間の動きは止まらない。

小学校の脇の水道工事のためか、直径40cm位の長いコンクリート製の水道の円管が積んであった。
自分は、友だちのけんちゃんと途中まで、入っていって、
今、どの辺にいるのか、がわからなく。
後にも、先にも行けなく、疲れきってしまった。
息ができない。
もうすぐ、豆まきの日なのに、もう、これで、死んでしまうのか・・・と言う思いが過ぎった。
その節分の日は、毎年、何人かと、たくさん神社やお寺を廻った・・
ただ、今年は、るみちゃんに誘われていた。

それから、しばらくして、コンクリート管の中で後ろにいた、
けんちゃんが、「ちいちゃん、ねえ、ちいちゃん」
「なに、なんだよ」
「おいらにも、とうちゃんがいるんだ、ほんとだよ」と言い出した。
「ああ、そうだよね」
・・・
近所のけんちゃんの本家は、茅葺きの屋根にトタンが張ってある元々は、都内でも、当時、貴重な農家であった。以前は、その奥の麦藁が積んである部屋の藁を小屋にどけて、かあちゃんと、幼い妹と3人で住んでいたのだが、 最近、駅の裏のひなびた映画館の、その裏のアパートに引っ越した。

昭和の木造2階建ての1Fの部屋に、今日は、とうちゃんが来ていると言う。
さそわれて、けんちゃんのとうちゃんを、見に行くことになった、肩車をして、そっと、窓の隙間から、中を見ると・・・

けんちゃんの、おかあちゃんが・・・・・
なんと殴られていた。 その鼻から、血が出ている・・・
畳には、赤い鼻血が、その赤が異様な次元の世界だった。

自分は、肩ぐるまをしてるけんちゃんに、なんて言っていいものか、
考えてあぐねて、しまっていたら・・・

「ねっ」とけんちゃんが、言って、肩ぐるまの交代を促すが・・
どうしたものか。
仕方なく、そうすると、けんちゃんは、気まずかったのだろうか・・・・・
話題を変えた。

その頃、けんちゃんは、映画館のガラスのショーケースに入っていたブロマイド写真を交換の時をいつまでも待って映画館の人に、顔見知りになって、いつも、もらっていた。
そのアニメのブロマイド写真をあげるから、と言って、 自分を映画館の方にさそった。
「けんちゃん、それはいらいよ」
「ちいちゃん、なんでさ。」
「あっ、やっぱ、おいらは、それじゃないだよ。」
「こんど、ぜったい、いろいろ、もらっとくから。そしたら、持って行くよ・・」
「それより、おいらとさぁ、しみつ警察つくろうよ、みんなに内緒にするんだよ」
「ほんと・・」
「うん、正義のしみつ警察だよ、今日のことも、しみつだよ・・」
けんちゃんの顔に笑顔が戻ったので 少しホッとした。

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「で・・・ちいちゃん、豆まき、るみ子ちゃんと行くんだよね・・」
「うん、あっ、・・・そうなんだけど、、一緒に行こうよ」
「おいらとも・・」
「うん」
「おいら・・るみ子ちゃんを話したこともないよ、だから、その後、行くのでいいよ」
「うん、断ると、また、るみちゃん、怒るだろうな、じゃぁ、その後に行こうか・・気を使うよな」
「ちいちゃんが、こないだ言っていたけれど、るみ子ちゃん、おいらには、文句が多いけど、ほんとは、いい子なんだよね、ね」
「うん、人はみんなそうさ」

・・・

そして、当日、結局、るみちゃんと、幾つもの神社やお寺を廻ることになり、そのうち、真っ暗になり、けんちゃんには申し訳ないことをしてしまった。

その小学生時代の、けんちゃんは、なんだか、いつも1人ぼっちで、さびしそうだった。その後、お父さんと会うこともなかったようだ。ただ、家で内職をする、お母さんと、それから、小さい妹がいるのだ。

中卒での就職は、金の卵と言われた時代、 リーゼントに決めた、けんちゃんは、遠くの電気用品関連の工場に勤めた。
それから、、少しして、
カワサキ650-W1Specialに、乗って仕事に出かける姿は頼もしく思えた。


昭和のその頃は、16歳で、かんたんに二輪免許が取れた最後の頃の時代だった、その少し前は、ヘルメットさえも必要なかった。
けんちゃんは、マフラーは直管で、ヘルメット、革ジャケットできめていた・・・
そして、リーゼントだ、彼女でもできたのだろう、ならいいが・・・
この寒さを抜けたら、もう、すぐ春だ。

#短編小説 #2022年冬の創作


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