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「実物ならでは」の名画の魅力を、液晶画面で紹介してみる


ネットで歴代の名画を見たり、デジタルで絵を描いたりできる時代ですが
やはり実物の絵でしか味わえない表現があります。

その一つが、マチエールです。

マチエールとは、フランス語で素材や材質を意味する言葉。
絵画では絵肌の質感という意味合いで使われます。
ざらざら、ツルツル、でこぼこといった、絵の表面の質感と考えると分かりやすいでしょう。

作品の印象を大きく左右するマチエール。
その魅力を、名画とともに紹介します。
(つまり、絵筆ならではの表現を、文字とJPEG画像で紹介するという無茶な企画です笑。)


名画の中のマチエール


最初にマチエールを効果的に取り入れたのは、おそらくレンブラントでしょう。

レンブラント・ファン・レイン(1606~1669)

17世紀オランダの画家。「光の魔術師」と称されることが多い。
肖像画家として名声を得たが、晩年は貧困にあえいだ。


『63歳の自画像』
彼が亡くなる直前に描かれました。
物憂げなのに穏やかな表情は、迫りくる死を受け入れているかのようです。


地味で暗いおじいさんですが、こちらを見つめる眼差しは私たちを捉えて離しません。
人物が目の前にいるかのような臨場感です。

鑑賞者を強く惹きつけるレンブラントの作品。その特徴の一つは、暗い空間の一部に強い光を当てていることです。

『ユダヤの花嫁』
旧約聖書の登場人物とも言われていますが、定かではありません。
2人の愛情が伝わってきて温かい気持ちになります。


暗闇の中で光が浮かび上がり、まるで舞台にスポットライトが当たっているかのよう!
この明暗の対比をマチエールが強調しています。

ご覧のように、光が当たる部分には絵の具が厚く塗られています。
文字どおり光が浮き上がっているかのようです。

『ユダヤの花嫁』一部拡大図
男性の右腕。絵の中で光が最も強く当たっている箇所です。
絵の具が厚塗りされているのが分かります。


一方、暗い部分は薄塗りで、影が画面に溶け込んでいます。

『ユダヤの花嫁』一部拡大図
こちらは絵の右下端。作品の中で最も暗い箇所です。
(全体像で見たときよりもさらに暗く感じられます。)
光の描写にあるような目立った凹凸はありません。


発光しているかのような輝き、そして吸い込まれそうな深い闇。
マチエールにより光と闇の対比が際立ち、作品がドラマティックに仕上がっています


マチエールは二次元の対象に生々しい物質感を与えます。
そのことがよく分かるのが、ゴッホの作品です。

フィンセント・ファン・ゴッホ(1853~1890)

オランダに生まれ、フランスで多くの作品を残した。当初は牧師を目指していたが挫折し、画家となった。
精神は不安定でしばしば発作を起こし、最後は自殺した。

ゴッホといえば、やはりこれ!

『ひまわり』
鮮やかな黄色が目に飛び込んできます。
主役は「花」というより「色」そのものです。


絵の表面は、よく見るとかなりデコボコしています。
筆のタッチは激しく、色を塗るというより、絵の具をそのまま乗せたかのよう。
絵の具の盛り上がりが色の鮮やかさを強調し、ひまわりにどっしりとした存在感を与えています。

『星月夜』
精神病院に入院中に描かれました。
画面を占める糸杉、空に渦巻く雲がこちらに迫ってくるよう。
特に渦巻きの部分が厚く塗られています。


『カラスのいる麦畑』
ゴッホが自殺する直前に描かれました。
麦畑は激しくうねり、目に見えない風の存在が確かに伝わってきます。
画家の穏やかならぬ心情と、荒々しい風景がリンクしているかのようです。


ゴッホの絵には、遠近感や奥行きがほとんどありません。
それなのにペラペラな印象にならないのがすごいところ。
厚塗りの絵の具による荒々しいマチエールが、対象に存在感、重量感を与えているのです
これが滑らかな画面だったら、作品の印象は全く違っていたことでしょう。


そして、誰にも負けない(?)強烈なマチエールを生み出したのがルオーです。

ジョルジュ・ルオー(1871~1958)

フランスの画家。10代の頃はステンドグラス職人のもとで修業をしていた。敬虔なキリスト教徒で、宗教的主題の作品も多い。


『秋の夜景』
前方の人物はキリストです。親子に何か話かけています。
「夜」とはいえ、画面は輝くような明るい光に満ちています。


スマホの画面越しでも分かるこのゴツゴツ感!
絵の具の厚みは圧倒的で、作品によっては数センチにもなるそう。
「物質感」という次元を超え、もはや3D画面のような迫力です。

ぶ厚いだけではありません。
ルオーのマチエールは色の重ね方が素晴らしいんです!
よく見ると、青の上に黄色があったり、赤の上に黄色があったり、異なる色が何層にも重ねられています。

『秋の夜景』一部


この複雑な色合いにより、絵の具が光り輝いているように見えるのです。

ルオーは自身の芸術について、『かたち、色、ハーモニー』という言葉をたびたび口にしたといいます。
ルオーの分厚いマチエールは、対象の形体を強調すると同時に、色彩の鮮やかさ・深さを惹き立たせ、作品全体に調和を与えています。
マチエールが、理想の芸術の実現に大きく貢献しているのです。

ちなみに、現在パナソニック美術館でルオー展が開かれています。
マチエールを直に拝めるチャンス!
素晴らしい作品ばかりだったので、ぜひ足を運んでみてください!



マチエールは個性の固まり


ご覧いただいたように、マチエールには画家の個性が如実に表れます。
その筆の跡をたどっていくと、彼らが絵を描いている姿まで見えてくるようです。

実物の絵画だからこそ味わえる、マチエールの魅力。
美術館に行かれたときは、ぜひ注目してください!

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