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もはやクレイジー!細かすぎる名画たち(日本画編)

「神は細部に宿る」といいますが、それは絵画も同じ。
よく見なければ分からない、でも見逃したらもったいない!!
そんな細かすぎる名画の魅力を見ていきましょう。

臨場感のウラに緻密な描写あり

まずご紹介するのは、鎌倉時代の絵巻物、平治物語絵巻です。

平治物語絵巻(六波羅行幸の巻)
源義朝によって内裏に幽閉された二条天皇が、平清盛の協力で脱出する場面が描かれています。


「平治物語」は平治の乱(平清盛が権力を掌握するきっかけとなった出来事)をテーマにした物語。「平治物語絵巻」はそれを絵巻物にしたものです。

物語を絵で伝えるためには、描写の説得力がとても重要です。では「平治物語絵巻」はどこに説得力を持たせているのか、それはずばり、人物描写です。

下の図を見てみてください。


ここに登場するのはいわゆるモブ、その他大勢の人々です。
でも、なんと全員の顔が異なっています。1人1人ちゃんと描き分けているんですね!
表情まで分かるのもすごいところ。しゃべってる人、ぼーっとしてる人、憮然としてる人、それぞれが思い思いに過ごしている様子が何だかリアルです。

顔以外にも登場人物の個性が表れています。
人々の衣装を見てみましょう。


大袖(甲冑の肩から肘の部分)や直垂(甲冑の下の衣類)、袴の色や柄が1人1人微妙に違っています。
しかも、大袖の小札(板)の線まで描かれているという細かさ。
この細かすぎる武装描写を見ているだけで、あっという間に時間が経ちそうです。

こちらの絵巻物、東京国立博物館で11/5まで展示されています。


ちなみに余談ですが、日本画って地味で退屈だな~と思う方は、ぜひ衣装に注目してみてください。
重なった着物の配色や模様の描き分けを見ているだけでも楽しいですよ!

華の都の細かすぎる生活描写

お次は、京都の風景を描いた屏風です。

洛中洛外図屛風(舟木本)左隻
左端にあるのは二条城。その他、四条河原や祇園の武者行列などが描かれます。


洛中洛外図屛風(舟木本)右隻
目立つのは右端の方広寺。周囲に清水寺や五条大橋などが描かれます。
中心に流れるのは鴨川です。


各162.7×342.4cmの巨大な屏風。この中に信じられないほど細かい情報が詰め込まれているんです。

よ~く見ると、ものすごい数の人が描かれています。その数なんと2,728人!
拡大図を見てみましょう。

左隻第1扇拡大図
①本屋、②錫器屋、③書画屋、④巫女の一行、⑤子どもを背負う親


左隻第2扇拡大図
①両替屋、②寄付を募る僧侶、③扇屋、⓸漆工、⑤山伏
扇屋で売られている扇の模様まで分かります。


人々の大きさは豆粒ほど小さいですが、服装、持ち物、履物まで描かれています。各人の身分や職業、何をしているのか判別できるほどです。
表情まで描かれているので人々が生き生きとして見えます。賑やかな話し声まで聞こえてきそうです。

それだけではありません。町の描写もとっても細かくて、商店の看板や陳列された商品まで見分けることができます。
これだけ詳しく描いてあると、当時の生活を想像しやすいですね。

今紹介したのは屏風のほんの一部。
その他にも武者行列や歌舞伎、遊郭、酔っぱらう人、物乞いをする人、路上販売をする人、遊ぶ子どもたちなど、無数の人々が登場します。いくら見ていても飽きません。

ちなみに洛中洛外図屏風には様々なバージョンがありますが、私はこの舟木本が特に好きです。
舟木本のように人の表情まで分かるほど細かいものはなかなかありません。このちょっと常軌を逸している感じ、ねちっこい感じがクセになります。

超有名画家の、ちょっと変わった作品

最後に紹介するのは、かの有名な伊藤若冲の名作です。
細かい絵といえば、やはりこの人を出さざるをえません。
若冲の展覧会には単眼鏡を持参する人がたくさん。それだけ細かい部分が魅力的ということですね。

鶏や植物の細密描写で知られる若冲ですが、今回はちょっと変わり種を紹介します。

『鳥獣花木図屏風』左隻
『鳥獣花木図屏風』右隻


輪郭線がのびのびしていて、ぱっと見は「細かい」印象はないかもしれません。
しかし拡大してみると…

そう!この絵は小さな四角の集まりで出来ているんです。
約168×374cmの屏風の全面が、約85,000個もの四角で覆われています。もちろん全部手書きです!
四角の大きさは、わずか1センチ四方しかありません。その小さな四角の中に、さらに二重、三重の四角が描かれています。
あまりに細かくて、見ているだけでちょっとしんどくなりそうです。

このように四角で画面を埋める技法は「升目描き」とよばれてるものです。この技法は若冲が独自に開発したもので、西陣織の下絵を元にしているといわれています。
江戸時代の作品ですが、当時日本でこんな描き方をした人は他に1人もいません。
もはや「絵画」の枠を超えた超絶技巧といえるでしょう。

隅から隅まで要チェック

ついつい見逃しがちな細かい描写。
でもそれに気づいたら、絵画鑑賞が面白くなること間違いなしです。
次回は西洋画編です!

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