見出し画像

【11月26日まで】田川市美術館『増田常徳展 黒い抗脈』と、この国日本の「希望」と「絶望」

こんにちは、アーツトンネルのタカキです。先日、田川市美術館で開催中の展覧会『増田常徳展〜黒い抗脈〜』を観に行ってきました。素晴らしい展示でしたので、今回は、この展覧会を写真とともに紹介していきます。

過酷で悲惨な現場にあるもの

写真は明るいですが、室内は普段より暗い

増田常徳さんは、キリシタン迫害の歴史を経た長崎県五島列島出身の画家です。トンネル工事現場などで働きながら独学で絵を勉強し、「現代の裸婦展」で準大賞、「昭和会展」で林武賞を受賞。2005年には文化庁在外研修員としてドイツミュンスター芸術大学に在籍するなど精力的な活動を続けています。

画材も展示されていました

今回の展覧会は、筑豊地域の炭鉱の歴史と関連した「黒い抗脈」というテーマのもと、薄暗い展示室の中に、黒が際立つ作品が数多く展示されていました。

様々な素材を使い立体的に表現されています

会場内には増田さん自身が寄せたテキストも展示。さらに、田川市美術館の学芸員さんが制作したリーフレットには、増田さんの略歴だけでなく、表現してきたテーマや、その表現の根幹に迫るエピソードが掲載されていて、作品を様々な視点で鑑賞するためのヒントを与えてくれます。

展覧会に寄せた増田さんのテキスト

筑豊に生きた炭鉱労働者が真っ暗な坑内で働く姿と、作品で描かれる迫害された人々の姿が重なります。僕が作品を観て感じたのは「希望のなさ」つまり「絶望」でした。

労働者が描かれている

希望のない日本で「絶望」を観る

日本でのキリシタン迫害や六甲山のトンネル工事でのご自身の体験など、増田さんの絵は、絶望的な環境の中で生きていく、または死んでいく人々が描かれています。

足についたタグが印象的でした

黒は鑑賞者に「死」を連想させるとともに「希望のなさ」つまり「絶望」の象徴のように迫ってきます。僕は、作品の中にある「希望」を必死に探していました。

希望はあるのか?

鑑賞後、学芸員の方とお会いできたので、そのことを伝えると、増田さんの絵は、希望の「手前」を表現しているということを、学芸員さんは話してくれました。

希望はある、しかし、その手前は絶望。

言葉にすると簡単ですが、増田さんが表現する迫害や過酷な労働現場は、僕らの想像を絶する、言葉にできないものだと思います。

禍々しい雰囲気

増田さんの作品は、それらの現場を濃縮したような構図を用いて、黒を使い、様々な素材を使った立体的な技法によって描かれています。

僕たちが生きる2023年の日本。僕が知る限り、今を生きる若者たちが「希望」を持てる社会ではないなと感じています。その現状もまた絵にリアリティを与えているなと感じました。

背中、、、

一方で、アーツトンネルで開催中の『絵描きのホームレス エノビさんの個展』におけるエノビさんの絵には「希望」があると感じました。

エノビさんの「希望」とは

東京で30年以上ホームレスをしているエノビさんの絵は、石やブロックのような背景の前に「円」が描かれています。

エノビさんの絵

その「円」は立体的に見えるものもあるし、光り輝いているように見えるものもあります。鑑賞してくれた方とお話をする中で、よく『この「円」が何を表現しているのか』という話になります。

この「円」はエノビさんの「希望」を象徴するものなのではないか。僕はそう考えています。

100点以上を展示しています

長い間ホームレスを続けるエノビさんにとって、石やブロックのイメージは、エノビさんが生活し、眠り、絵を描く土台となる地面から来ているのではないかと思うのです。

それを描くことはエノビさんにとってのリアルを描くことなのではないか、そして、それを背景にして描かれる「円」は、エノビさんが追い求める「希望」なのではないかと、僕は考えます。

田川で感じる増田さんの「絶望」とエノビさんの「希望」

増田さんとエノビさんは、お二人とも絵を独学で勉強されたという共通点があるのも、おもしろいです。

100点以上を展示

また、精神的にも肉体的にも過酷な労働を経て画家となった増田さんに対して、エノビさんは労働を避けて生きてきてホームレスとなった経緯があります。

増田常徳展は入場料500円(大人)、エノビさんの個展は無料です

共通点やまったく対象的な要素がある画家の展覧会が、同時期に田川市内で開催されていますので、是非、お出かけください。会期は11月26日まで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?