見出し画像

「有楽町アートアーバニズム(YAU)」でやらない5つのこと。“アーティストと街が交流するプログラム”とは?

こんにちは。「有楽町アートアーバニズム」、略して「YAU(ヤウ)」編集室です。

2022年2月1日にYAUがスタートして、1年が過ぎました。YAUのテーマは「アーティストと街の創造的な交流」。そのためにアートスタジオ開設や、相談窓口の開催、イベントや公演などさまざまなことをやってきた……のですが、正直なところ「(気になるけど)わかりにくい!」「(紹介したいのに)説明しにくい!」という声もちらほら

YAUは、NPO法人大丸有エリアマネジメント協会と一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会、三菱地所株式会社で実行委員会を構成する、「アーティストがいる街」にすることから新しい出来事を起こす実験的な事業です(そこに込めた想いはこちらをご覧ください)。

YAU STUDIOとして使われる前の有楽町ビル10階。東京屈指のビジネス街・有楽町の一角で、アーティストと街が交流する実験的な試みが動いています。

どうしたらアーティストが有楽町というビジネス街に集い、自身の活動・創作の場としてくれるか。街を行き交うビジネスパーソンとアーティストは、本当に交流できるのか?

ビジネス街とアーティスト、アートと都市の結びつき。聞こえはいいですが、性質の異なる存在同士に交流してもらう場づくりは、なかなか難しく、とにかくやってみないことには始まりません。そうこうするうちにYAUの実験的企画はどんどん増えていき、やればやるほどわかりにくくなっていきます……。

そこで今回は、「やっていること」ではなく「やらないこと」から説明してみるのはどうかなと考えて、「YAUでやらないと決めている5つのこと」をご紹介します。

1. リノベーションしない(もとの空間をそのまま使う)

YAUはこの1年間、有楽町エリアにあるさまざまな空きスペースでプログラムを展開してきました。ポイントは、改装やリノベーションはせず、空間をそのまま使うこと。居酒屋、店舗、オフィスなど、もともとの設備そのまま。不動産用語でいうところの「居抜き」です。手を加えないからこそ、柔軟に使えるともいえます。

2023年2月現在は、JR有楽町駅のすぐ目の前「有楽町ビル」10階をYAUの拠点にしています。約1,200㎡の広大なフロアは、企業が入居していた跡そのまま。いかにも「オフィス」といった感じのカーペットや天井、設備が揃っています。有楽町ビルは2023年10月に閉館を発表しているので、それまでの残された時間を有効活用する試みでもあります。

有楽町ビル10階、元企業オフィスをそのまま使っているYAU STUDIO。

天井板を抜いたり、空間を仕切ったり、照明設備をつけたり……リノベーションすればもっと“アート”らしい場所になるかもしれません。でも、今ある場所や素材をそのまま使い、有楽町らしいといえる空間を遊び倒すほうが、この街らしい表現や出会いに恵まれるのではないかと考えています。

アートにまつわるさまざまな相談事を受け付けたYAUのプログラム「SOUDAN」では、国際ビル地下の元居酒屋をそのまま活用。


2. 完成させない(いつも“何か”が生まれ、起きている場所)

「都市にアートの場をつくる」と聞いて、どんな場所を想像しますか? 絵画や彫刻、インスタレーション作品が並ぶギャラリーのような空間? 演劇やダンスを上演する舞台?

いずれにしろ「作品」と呼べるものがひしめく場所をイメージすることが多いのではないでしょうか。

ところが、YAUを訪れても「作品」はなかなか見つかりません。展覧会や公演を開催していることもありますが、YAUが最も大事にしているのは「完成させない」こと完成した「作品」よりも、作品や活動を「創造」するプロセスのための場所として存在しているからです。

アーティストが何かをつくるというと、絵の具を持ってキャンバスに向かう……という光景が思い浮かぶかもしれません。もちろんそういう人もいますし、チームで打ち合わせをする人もいます。リサーチの拠点にしたり、映像編集をしたり、音の実験をしたり、演劇作品のための事務作業をしている場合もあります。一見「何しているの?」と思うような活動も含めて、創作のための大事なプロセスなのです。

アーティストのアトリエとして使われているYAU STUDIOの一角。

実際、2023年2月現在は、広い空間にランダムにテーブルが並ぶYAUスタジオで、パソコンに向かったり打ち合わせしたりする人の姿をよく見かけます。それもそのはず、2023年1月〜3月まで期間限定でコワーキング利用を推進しているからです。アーティストのみならずアートやまちづくりに関する展覧会、プロジェクト、イベントに関わった経験があることを条件に募集し、約30名の方が日中の仕事場として利用しています。

できあがった作品があるのではなく、今まさに“何か”をつくろうとしているアーティストや創作に携わる人々がいる場所。YAUが「スタジオ」を名乗る所以です。

3. 区分けしない(いろいろな領域が混ざってほしい)

こういった場をつくるうえで意外と大事なのが「区分け」しないことです。

YAUを開始してから、よく聞かれるのは「アーティストといっても、色々なタイプがいるでしょう。どういうジャンルのアートを指しているんですか?」ということ。そのときの答えは「決めていません」です。

ちょっと無責任に聞こえるかもしれませんが、「YAUの考えるアート/アーティストとは、◎◎◎である」と決めてしまうことは、せっかく新しく始めた場の可能性を狭めてしまうことにつながりかねません。

また、アートの場をつくるのはアーティストだけではありません。キュレーターやアートマネージャー、広報、プランナー、デザイナー、インストーラーなど、アートに関わるさまざまな職種の人にひらくことで、思わぬ出会いや創作の種が生まれることを期待しています。

もともと、アーティストが集まるだけでなく、有楽町で働くビジネスパーソンなど、異なる領域の人が混ざってほしい、交流してほしいとの考えからはじまったプロジェクト。もちろん、「ビジネス」領域だっていろいろありますが、YAUでは区分けをしていません。

区分けをしないからこそ、ふらっと訪れた人と人、活動と活動に予想もつかない展開が生まれたり、発見があるのではないかなと考えています。

何が心地いいか、どんな人と出会いたいかも含めて使う人自身が決めることが最も創造的な機会を生むはず。その仕掛けとして、さまざまな領域の人が意見交換するサロンや相談所も開設しています。

YAU TALK SESSION「リガーレベースフラッグプロジェクト~エリアマネジメントとアーティストのコラボレーション~」(2022年5月20日開催)。YAUではまちづくり、ビジネス、テクノロジーなど、多様な領域とコラボレーションしたトーク企画や交流が生まれています。

4. 個々の価値観にこだわりすぎない(人の縁を信頼して、じわじわコミュニティを広げてみる)

さて、ここまで解説してきて「まちづくり」や「場づくり」に関わる方は気づくはずです。

機能を固定せず、ジャンルを区分けせず、何がアートで、誰がアーティストであるかも定義しない場は……うまくいかないんじゃないか? と。

そうなんです。ご名答です。ここがとても難しいところです。やはり何かしらの「感覚」や「目的」を共有できる人達がいて、共に心地よくいようと思うからこそ、安心して創作したり、アイデアを出したり、人と関わったりできるのです。

そのためにYAUで大事にしているのは(今までの話に矛盾するところも若干あるのですが)無理に開かないということ。冒頭で「わかりにくい」と言われてしまう悩みを書きましたが、「わかりやすくて行きやすい」場所ではないこともまた、同時に大事にしています。

そして、個々の価値観にこだわりすぎず、紹介や案内など「人の縁」を信頼し、訪れてくれた人や物事は一旦受け入れることにしています

「選ぶことの専任者」を決めてしまうと、そこには一定の区分けができてしまいます。場づくりにおいてキュレーションやディレクションが大切ということは理解したうえで、それでも「選ばずに集う」方法を実験したいと考えました。(YAUのなかで展開するプロジェクトや創作活動のなかには、個別にディレクターやキュレーターがいることもありますが、プロジェクト全体としてはいません)

この記事を読んでいるあなたもきっと、誰かの紹介やSNS上の投稿を見て、YAUの情報にたどり着いたのではないでしょうか?

こうしてYAU的な感覚を共有できる人と、縁つなぎでじわじわコミュニティを広げることによって、「場の感じ」をなんとなく共有する作戦をとっています。実験と呼ぶからこそ、そして公共事業ではない民間のプロジェクトだからこそ、できることだと思います。

YAUでは”ふらっとたどり着く”ような縁を大事にしています。

5. 単体でやらない(大変だけど、みんなでやる!)

いよいよ最後の「やらない」ですが、ひとつの組織など「単体」で運営しないということも大事にしています。

YAUの運営主体は、NPO法人大丸有エリアマネジメント協会、一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会と、三菱地所株式会社による実行委員会です。

その時点で3者が参加していますが、運営スタッフはさらに多様で、フリーランスのアートコーディネーターやプロデューサー、広報、舞台制作、編集者など約20名が参加し、それぞれの特技や経験を活かして運営しています。TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCHや一般社団法人ベンチなど、創作の場としてYAUを使っている団体も運営や企画に関わっています。

「YAUって、三菱地所の大きなプロジェクトでしょ?」と捉えられることもあるのですが、「アーティストと街が交流するプログラム」において大事なのは、ひとつの大きな組織体ではなく、独自のつながりや知見を持つ小さな個人が自発的に関わること。異なる人達同士で進めるのは大変なこともありますが、この形だからできることがあります。

「YAU TEN」打ち上げの様子。関係者が多いのは大変。でも楽しい。

あなたもYAUに参加してみませんか?

以上、YAUの「やらないこと」を、あえてご紹介してみました。

YAUについてイメージがついたでしょうか? それともますますわからなくなったでしょうか? わからないままでも関心を持っていただけたら嬉しいです。そして実際に足を運んで、活動いただけたらなお嬉しいです。

この記事にたどりついた方にはきっとご縁があるはず。YAUで、お待ちしています。

YAUに関わりたい! と思ったら

  • まずは公式ウェブサイトをチェック。スタジオ利用やコワーキング、イベントなどの情報が載っています。

  • 2023年3月9日〜12日は「YAU OPEN STUDIO」も開催します。ぜひお越しください!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?