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「ゴジラ-1.0」を見て 良い所はある...のに

当然のごとく、山崎貴が撮ると聞いて身構えること数年

戦中~戦後間もなくが舞台ということで

「永遠のゼロ」や「アルキメデスの大戦」からの印象で

山崎貴の中でもまだ見れる水準かな…?と

ある程度ハードルを下げつつ、ダメで元々感覚で初日に見に行ったのですが

可もなく不可もなく…は言い過ぎですが

いつもの人間ドラマにおける演技演出の変わらない垢抜けなさというか、抑えた演技をさせていることは伝わるけど抑えきれてないわざとらしさは直視し辛い。

ため息や頭を抱えることに変わりはないものの、しかしそれは最初から覚悟というか諦めていたので、見なかったこととして

良かった点


これは非常に大きく、主人公が何故ゴジラと対峙しなくてはいけないのか。というのをゴジラ登場と同時に冒頭から提示してくれているため

物語全体がどうなっていくか?という導線が引かれているため退屈はさせない構造にしているのは上手い。

そしてゴジラへの対処法を海上で終始させつつ、しっかりと軸である主人公の動機と原因によってとどめを刺す。

これもとても、とても良かった。

今回のゴジラは戦争の象徴というより、主人公が逃げた”死”や”逃避”のほうが強調されていて、そこが初代ゴジラの芹沢博士とは似つつも全く違うメタファーになっていて

ゴジラというものが本来持っていたドラマ性をある程度復活させていて、ここは山崎貴あっぱれ!


と、ここだけで十分見て損はなかった!!….と言いたいんですが、これらを帳消しにする同じ部分での酷い点が…

大きな2つの問題点

特攻から逃げ、ゴジラから逃げ、生き延び、しかし逃げてきた死が追ってきた結果ヒロインが死に、初めて自ら死を選び、最終的にはヒロインも主人公も生きてました!!ハッピーエンド!まではとても良く

「あなたの戦争は終わりましたか?」という問いで綺麗に収まっているのに

ラストカットでゴジラは死んでませでしたァ~~~のカットを入れてしまうことによって、結局主人公の独り相撲的の様相が強まってしまい、茶番に着地してしまっているのが酷い。

初代のように別個体がいるかもしれない…とするだけで全て綺麗に収まるのに…


もう1点は、ワダツミ作戦の中盤以降の演出的グダグダ

深海から引き上げ!クレーンが耐えられない!と壊れた後に、複数の増援で引っ張る!って

え、いや根本のクレーン壊れたんじゃ…と思ってもそこにお得意の説明台詞やくどい演出もなく、壊れて倒れてるけどなんかそのまま引っ張り上げられました。というのが雑というか、劇的な展開だからこそ状況や過程は整理されていないとノれなくなっていく。というのはまだ邦画大作には難しいようで…

そこからゴジラが背ビレを最後まで展開して、あと0.5秒後には発射!万事休す!というところまで進めておいて

出ました!
スローでこれまでの登場人物の顔を映す、クソ映画演出!

いやあのさぁ…

ゴジラの熱線がもう出かかってるのに、そっから体感1分ぐらいスローで半分以上が良く知らない人達のの半端な茫然とした顔見せられても…

で、あとはもう主人公が特攻するのが誰にだって分かってるんだから、大事な大クライマックス寸前で異常に間延びされると冷めちゃうのよ!!

だったらまだ、ゴジラの背ビレが1つ展開するのと絶望の顔を交互に映して、次第に震天のエンジン音が強まって~って

画の進行速度と物語の進行速度を同じにしてくれないとライド感が大きく減じてしまっていて台無し!!!

からの、震天の安全装置の説明のあとに何か言ってる時点でも脱出装置の話してるんだろうな。というのだってバカにも分かるぐらいフェードアウト的な撮り方してるんだから

脱出装置で生きてました!生を選んだ!という感動的な部分にも関わらず、一々回想で説明をされると萎えるって…これは映画に限らずアニメ漫画でもそうだけど

どんなバカにも伝わるように全て言葉で説明したりするマーケティング側の”見下し”によるものなのか、それとも山崎貴が進んで良いことだと思ってやってるのかは怪しいところですが….

どちらにせよ一つの作品としては良い部分があるのに、それを同時にダメにする演出展開が付随するために

結局全体のシルエットを見ると結構面白い!とはなるも、シルエットに光を当てて各部分を見ると表面が爛れていて醜い部分が目立つ…というのが最終的な感想でした。


また銀座のシーンも、あえてなのか判断がつきづらいですが、異様なほどのミニチュアセット感

これは古き良きゴジラの演出なのか、とはいえ冒頭や海上でのゴジラと周辺のCG感からの落差が強すぎて、本来なら市井の人々の危機!という悲壮的なシーンにも関わらず、銀座の街並みでかなり気が削がれてしまい、ここでも集中が切れるようになっていて勿体ない。

その後の熱線、きのこ雲、慟哭(演技はちょっと見てられなかったけど)、黒い雨

この1セットはとても良かったです。



総括

軽く話すときには「面白かった」
ちゃんと話すときには「酷い」

とグラデーションで感想が変わるタイプの映画でした。

当然邦画の欠点を封じた「シン・ゴジラ」のほうが面白かったですが

山崎貴、いつもの邦画演技。という2点を加味するとかなり良かった部分ですし

ゴジラシリーズの中ではテーマがテーマなだけに、レジェンダリー版より全然好きぐらいで、初代>シン>マイナスワンぐらいには良いのではないかと思います


結果的に結構好印象で自分でもびっくり!


追記

とはいえ日本政府批判の台詞の薄っぺらさや

作戦前夜の「つれてってください~」からの「未来は若者に任せた」的なことを佐々木蔵之介と吉岡秀隆が歩きながら言うシーンの広告代理店的な臭さは酷いものだったし

冒頭の安藤サクラの恨み節演技も、役者の実力やポテンシャルというのは監督の演出一つでこうも迫力が失せてしまうものだなぁ…と悲しくなったり

ダメ邦画的な代表例として良くやり玉に挙げられる「叫び」

これの実態は叫ぶことそのものより感情の発露にあるので、ヒロイン死後の慟哭も声はとても良かったけど、表情の撮り方はやはり安っぽくて少し目を逸らしてしまった。

加えて邦画のキツイところは

(「さかなのこ」の中盤ヤンキー達のくだりも地獄のような寒さだったが)

観客の緊張感を緩めるために入れるギャグやくすぐりが基本的にすべて滑っているというか、試写で笑った人がいたのだろうか…

と本文でも言った通り、良い部分は自らが後々台無しにするため

最終的な感想は

山崎貴映画の中ではまだマシな方

映画作品としては決して良いものではない。

というのが着地点でした。

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