たかと

music, literature, filmなど ゆるく文芸を語る人です。 日々の気…

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music, literature, filmなど ゆるく文芸を語る人です。 日々の気付きを記事にします。

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  • 東の空に、沈む僕たち

最近の記事

京都タワー

 「どう思う?」  ほっそりと長い指で、小さな銀色のイヤリングを摘んで見せる黒髪の男。アンニュイな楕円形のイヤリングは中途半端で、いかにも男がプレゼントに選びそうなものだと思った。 価格を見ると、税込で2640円。妥当だなと思った。  「その先輩とは会ってどれくらいなの?」  「えぇと、2週間くらいかな。実際会って話したのは、4回くらいしかないけど」  この男はたった数回しか会った事のない年上の女に、見事に「やられてしまった」らしい。  「バイト初日に会ってさ、色々と仕事を教

    • 東の空に、沈む僕たち(5)

      5  僕は優しい橙色の光の中に1人座って、物思いに耽っている。あの頃のことを思い出す度に、遠くに見える夕焼けと、平穏に動き続ける街並みが脳裏によぎる。あれは僕にとっての青春そのものだった。グラスに半分残ったウイスキーは、記憶の中の夕焼けに染まったような色をしている。まだまだ夜は深まっていく。深い夜は僕たちを孤独へ誘う。記憶の中の自分への羨望と諦観が夜の中に溶けていく。僕はもう一度深く座り直して、一口ウイスキーを飲んだ。いつまで経ってもこの味は、素敵だけれど好きにはなれない。

      • 「やれ」と言われてもやりたくないことと、「やるな」と言われてもやりたいこと。

        みなさんお久しぶりです。たかとです。 お元気でしょうか? 題名の言葉、これ何のセリフでしたっけ? ちょっと思い出せないんですけど、言葉自体が簡潔で素敵ですよね。 やりたいことをやれ こんなにシンプルで実現が難しい言葉他にないなぁと思います。 凡人である僕たちは、まず自分がやりたいこととは何なのかを見つけなければなりません。 それは簡単に見つかる場合もあれば、死ぬまで見つからないこともあります。 あるとき、突然頭に浮かんだり、何かの拍子に顔を出すこともあります。 や

        • 世界でもっとも野蛮な生き物

          みなさん、お元気ですか?たかとです。 先日、『サピエンス全史』という本の「上」を読みました。 まだ上巻だけですが、ちょっと書きたくなったので書いちゃいます。 この本、ものすごく売れている本で、いつか読みたいと思っていたのですが、今日までだらだらと遅れてしまいました。 今回は、『サピエンス全史(上)』だけを読んで、感じたことを書きたいと思います。 サピエンス全史ってどんな本?この本は、題名の通り、「サピエンス」という種族についての歴史を書いている本です。サピエンスとは、我

        京都タワー

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        • 東の空に、沈む僕たち
          5本

        記事

          理想の僕であるために、僕は僕に勝ち続けなければならない。

          こんばんは。たかとです。 本日も僕が感じたことを書きたいと思います。 突然ですが、皆さんの近くには 「皆さんが大好きなこと」をありのまま話すことのできる存在がいますか? 僕にはいません。 僕には自分のやりたいこと、成し遂げたいことを話すことのできる存在がいないと最近になって気がついてしまいました。 そして、それはなぜかを考えました。 1番の理由はたぶん、 僕が僕自身に正直でいられないからです。 僕は「自分がやりたいと思うこと」を他人に言うのは恥ずかしいことだと思

          理想の僕であるために、僕は僕に勝ち続けなければならない。

          コンテンツに溢れたこの時代に、僕はわざわざ本を読む。

          お元気ですか?たかとです。 僕は中学生くらいのときから本を読むようになり、今も習慣的に読書をしています。 大学は文学部を卒業しました。 文学部にいるとき、よく考えていたことがあります。 「アマプラとかNetflixで映画観れるし、YouTubeで色々な動画も見れる。気になったことはいつでも調べて即座に答えを知ることができる。そんな便利な時代に、なぜ僕は本を読むのだろう。本を読むことに意味はあるのか」 最近になって、少しずつその答え(のようなもの)がぼんやりとですがわ

          コンテンツに溢れたこの時代に、僕はわざわざ本を読む。

          見上げれば、僕たちは、

          「いらない」 まただ。また言ってしまった。分かっているのに、気持ちとは反対の言葉を投げてしまう。投げると言うより、落っことしてしまうと言った方が適切かもしれない。 「わかった」 彼はなんとも言えない歪んだ表情を浮かべて立ち上がり、私に背を向けて玄関へと向かって行く。その表情が、背中が私を泣かせようとつつく。辛い。それなのに、私は自分に嘘をつく。自分を傷つけるだけの、意味のない嘘をつく。 今朝、変えたばかりのシーリングライトが部屋を照らしている。 1人だけの部屋には、明るすぎる

          見上げれば、僕たちは、

          現代古都怪奇録(1)

           鴨川に沿ってどこまでも続く河川敷には本日も等間隔に座るカップルが数えきれないほどおりました。  私はどんぐり橋の欄干からその人たちを2人1組に数えておりました。最近は冬が近づいてきて寒いです。私は大がつくほどの寒がりなので、そろそろインナーもうんと分厚いものに変えなければなりません。  恋人たちは今日も鴨川のせせらぎに包まれて幸せそうな表情をしております。どんぐり橋を西へ渡って、そのまま北に進み、四条大橋の西端に出ると人の多さに驚きます。最近はまた観光に訪れる方が増えたみた

          現代古都怪奇録(1)

          ゆうひとヴェール

          ゆうひが照らす ゆうひが照らす 電車に揺られ、俯く僕を ゆうひが照らす ゆうひが照らす あれは何よりも暖かく あれは何よりも残酷に ゆうひが照らす ゆうひが照らす 見上げた僕の乾いた瞳 あれは世界にぽっかりと 小さく小さく空いた穴 向こうとこちらを繋ぐ道 眩いばかりの 輝きばかりの 白光の世界 空はその光から 僕らを隠すためのヴェール 光ばかりの世界から 喜びや悲しみや 苛立ちや苦しみや 恋や愛や 信仰や裏切りや 夢や明日やらを 作り出す揺らぎ ゆうひは沈む 明日へと

          ゆうひとヴェール

          今、あなたのいるその場所で、できることを全てやる。

           みなさまお疲れ様です。たかとです。  先月大学を卒業して、今月から社会人として働き始めています。  1週間が終わり、どんな感じかと言うと、まぁ一言で言えば「これじゃない」感ですね笑  予想していたよりも全然魅力を感じないお仕事です。(ここに関しては自分の調べが足りなかったと思います)  何よりもまず、大学生のうちに何もできなかったから、就職するしか道がなかった。というのが一番の問題なんですが。  ただ、私は就職しましたが、まだ何も諦めていないし諦めるつもりもありません。 幕

          今、あなたのいるその場所で、できることを全てやる。

          東の空に、沈む僕たち(4)

          4  誰かと心の内を語り合った日の夜は、自分のもつ可能性というものが、月よりも大きく輝かしいもののように思える。そして星空を眺めて未来の姿を夢想などして、居ても立ってもいられない衝動に襲われる。  僕が学生時代に住んでいた部屋は、京都市の西の方、太秦にある小さな丘の麓にあった。小さく古いアパートだったけれど、4階の部屋の窓からは蝋燭のような京都タワーが見える。夕方、裸電球の光の下で遠くに輝くタワーを見るのが好きだった。  その日も僕はそんな風にしっぽりと安物のウイスキーをロ

          東の空に、沈む僕たち(4)

          恋と花

           恋しいあの子に花を手向けよう  道端に咲く花を  その強さを  その脆さを  愛しいあなたに花を授けよう  月に向かい咲く花を  その健気さを  その儚さを  動かぬ石にささやかな清流を  巡らすように  そっと優しく

          東の空に、沈む僕たち(3)

          3  「ほら!さっき言った天皇のお墓、ここだよ」  「へぇ、小高い丘になってるんだね」  「この前ここでキツネ見たんよ」  彼女は両腕をいっぱいに開いて見せた。子供みたいで可愛いと思った。大人なフリをする子供が1番愛おしいと思う。  「大きすぎない?」  僕が笑って言うと、彼女もつられて笑いながら否定した。  「みんなそう言うんやけど、本当にこれくらいやったんよ。目も合ったんだから。すっごいビックリした顔して跳んで逃げていったの」  身振り手振りで説明する彼女の柔らかい雰囲

          東の空に、沈む僕たち(3)

          東の空に、沈む僕たち(2)

          2  宵闇に真っ直ぐ伸びる飛行機雲が、月に照らされていた。空に向かって息を吐くと、月明かりが白い靄を透かしていて、それはもう、どうしようもなく冬だった。  僕はちょうど大学の図書館から外に出たばかりだった。  図書館ってのはどこも、どうしてあんなに暖房が効いているんだろうね。寒暖差で一等体が凍えたよ。力を抜くと、歯がガタガタいうくらいだよ。  だから、早歩きで南に向かってたんだ。すると、ふと、あまりにも自分が身軽だということに気がついた。しまった。机の下に午前中印刷した政治

          東の空に、沈む僕たち(2)

          小さな心臓

           小さな体に宿る命。  それは目に映るすべてのもの。  手を伸ばせば触れられるもの。  小さな体に愛情を少しずつ注いでいき、命はかけがえのない炎になる。  しかし、どんな炎もいつかは消える。  たとえ雨風をしのぎ、消え入りそうにさみしい夜を超えても  いつかは消えゆく運命がある。  そして、その時はいつも突然やってくる。  死は音もたてずにやってきて、のど元に鋭いナイフを突きつける。  気づいた時にはもう遅いのだ。  命とは、思うより儚くもろいもの。  小さなウイルスや、一瞬

          小さな心臓

          溶け合って、あの空の色になる

          私は外の匂いが好きだ。 秋の肌寒さの中を通り抜けて、私の元へ届く香り。 私は自分の存在が世界と一体となっていることを実感する。 届く匂いは私の胸に幾つもの刹那的な感情を呼び起こす。 それは未来のことだったり過去のことだったり、友人や恋人のことだったり、途方もない空想のことであったりもした。 歩道の脇の階段を降りて河川敷に降りると、先ほどまでの街の音が川の流れに飲み込まれ、橋の上ではただ人と車と建物とが無音のまま動き続けていた。 川面には街の明かりがぼんやりと映り込

          溶け合って、あの空の色になる