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現代古都怪奇録(1)

 鴨川に沿ってどこまでも続く河川敷には本日も等間隔に座るカップルが数えきれないほどおりました。
 私はどんぐり橋の欄干からその人たちを2人1組に数えておりました。最近は冬が近づいてきて寒いです。私は大がつくほどの寒がりなので、そろそろインナーもうんと分厚いものに変えなければなりません。
 恋人たちは今日も鴨川のせせらぎに包まれて幸せそうな表情をしております。どんぐり橋を西へ渡って、そのまま北に進み、四条大橋の西端に出ると人の多さに驚きます。最近はまた観光に訪れる方が増えたみたいです。なんでしたか、インバウンドとか何とか。無教養はご勘弁ください。とにかく、京都は観光都市ですから、それはそれは素晴らしいことだと思います。
 2022年の春に、私は京都のとある大学へやって参りました。キャンパスへ詰めかけた一年生は皆、ピカピカのランドセルを背負った小学生さながら、みな頬を桃色に染めておりました。私自身もお恥ずかしながら恥ずかしさと期待とが混ざったちょっぴり甘酸っぱい炭酸飲料のように心を踊らせておりました。
 小学校の修学旅行ぶりに訪れる京都は、やはり日本の魅力をいっぱいに詰め込んだ歴史の図鑑のようでした。私はその図鑑を開き、溶け出すように甘い昼下がりの時間をうとうとと過ごしているような気分になります。
 私は京都市は上京区にあります、上七軒という地域に下宿しております。家を出て5分ほど歩けば北野天満宮に参拝できるという、なんとも素晴らしい所に身を置いております。時折、美しい舞妓さんも見かけることのできるオプション付きです。向こう4年間、この場所を拠点に、深遠な京都の街をゆっくりと探訪できると思うと、胸がぽうぽうと熱くなるのを感じます。
 とまぁ、ここまでお恥ずかしながら私自身の紹介をさせていただきましたが、話を現在の四条河原町の喧騒の中へ戻したいと思います。
 知らない方のために説明しますと、京都は四条河原町、ここは京都の街の中心であります。煌びやかな装飾に古都の風情を融合させた繁華街には老若男女様々な人々が行き交います。
 東西を貫く四条通りの東の果てには香立つ祇園の街と紅く火を灯す八坂神社、四条大橋を越えて河原町通と交わり、更に大人通りの木屋町、新京極と寺町通りの長い長い商店街が北へ伸びます。休日には人の頭が奥までずうっと伸びております。
 本日も私はこの京都の街を首をあっちに振りこっちに振りタンタンと三味線の音にリズムを合わせて歩いております。私がそうして街に溶け出すように歩いていると、木屋町通の隣、鴨川のすぐ脇を通る先斗町の方から何やら楽しげな音が聞こえてきます。
 人々の歓声を日本楽器の音々が囃し立ててそれはもう思わず足を向けてしまうほどです。
 私は夜の先斗町へ踏み入りました。提灯の光がずらっと先まで私を案内してくださいます。
「こんばんは」
と私が言うと、提灯たちは応えるようにぽうっと紅い光を強めます。
 こうしていよいよ私の物語は始まりを迎えます。長い物語になりますが、どうぞお時間のある時に聴いてくださると幸い至極の極みであります。


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