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もう働かなくてもいいんだねっ! ― エリシアの愛の暮らし


一人じゃ、ハンバーガーひとつ、靴下一足さえ作れない。

人間は“協業”しないといけない。だから、比べたり競ったりがどうしても起こる。。

ああ・・・それにしても、仕事って何でこんなに楽しくないんだろ?

(以下、理系的に長いです。ただただじぶんの趣味で書いてるので、あまりご興味引かないとおもいます)


1.わたしのずっと願ってきたこと

わたしには、ずっと疑問があったのです。どうして動物はお日様のエネルギーを直接頂けないんだろ?って。

もし葉緑素をからだに持てたら、植物のようにお日様の光を直接、化学エネルギーに変換できる。

そしたら、わざわざ食物を取らなくていい。

もう人と競ったり、人のものを奪う必要が完全になくなる。他の植物や動物を殺生しなくていい。

ああ、、食うに困らないそんな世界ってどうなんだろ?

おお、、愛の世界だ。ワンダーだ!

食べ物のためにこころすり減らしてガリガリ働かなくなるんです。(会社にも行かなくていい!!定年も年金も不要でしょう)

そんなふうな光合成できる体にできないのかな、ってずっと思って来たのです。

でも、動物にそんな種はいないし、、、そんなこと無理かと勝手に思い込んでた。

いや、光合成できるように進化すれば、すべてがハッピーになると単純に思ってた。進化は進歩じゃないってこと、代償を伴うということが分かっていなかった。

(なお、動物?のミドリムシは鞭毛でくねくねして進むだけの単細胞生物です。あまり愛の暮らしとは言えません。)



2.エリシア、参上!

わたし、知らなかったのですが、そんな“彼女”がいたんです。

ミミズのように雄雌の区別が無い方なので、女子とはいいがたいのだけれど、「エリシア・クロロティカ」という。

おお、、きみはエリシア!なんて優雅な名前なんだっ。

残念ながら、彼女はウミウシ。(ちょっとお友達にはなれない)

山奥で育って青年となったわたしが、ある時海に行ってツリをしていたら、不気味な軟体動物がハリに食いつきました。うん?

ベロンとした軟体で、ぐにゃぐにゃとしてた。デカイ。

なんじゃこれ?!!

ウミウシというんだと知りました。かなり強烈に驚いた。

友だちが言うに海辺には普通にいるんだという。

なにせ人生一度も見たことが無かった山育ち。もう二度と見たくないっ!と心底思った。

ああ、でもゲンキンなわたしを許して欲しい。愛のためだもの、もう一度キミとお近づきになりたいっ。


エリシアは、アメリカの東海岸に広く分布していて、塩沼に住んでるそうな。

緑色で半透明。少し黄色みがかった緑の部分(足?)をひらひらと優雅に動かして泳ぐ。

その彼女、なんと、植物と動物、両方の性質を併せ持っていた。



3.エリシアのじんせいが始まる

ああ、、春。

あらゆるものが眠りから目覚め動き出す季節。彼女の一生は、この暖かさの訪れとともに始まる。

春に汽水(きすい)の中に卵が産み付けられます。

1週間もすると卵はかえり、幼生が姿を現す。幼生たちは数週間、そこで泳いで過ごす。

泳いでる間、何してるかというと、彼女たちはずっとある種の藻類の緑の糸状体だけを探し求める。

あっ、あったあった!わたしの居場所っ!くっついてそこを居場所にする。

小さなウミウシへの変態もそこで完了させます。(メタモルフォーゼだ!)

で、この変態が終わると、エリシアが猛然とその藻類を食べ始める。

細胞の壁を破り細胞の中身をチューチュー吸い出すのです。おお・・。


藻類の細胞の中には葉緑体という楕円形の小さな器官が詰まっていて、

この葉緑体(クロロフィル)がお日様からエネルギーを受け取る働きをします。(なので彼女のお名前は「エリシア・クロロティカ」)

ご存じ、動物は、直接、お日様からエネルギーをもらえないから、葉緑体を持つ植物を食べてそこに蓄えられていたお日様エネルギーを使って、動く。細胞をつくる。生殖もする。。

ですが、エリシアは藻類の葉緑体を吸い出して自分の中に”機構”として取り込むのです。

わたしが葉緑体をチューチューしても、ちょっと消化されるだけでそのまま排せつされます。わたしはエネルギー変換機構は持てないまま。



4.天然の遺伝子操作

で、細胞の中身を吸い出すと、葉緑体とその他の部分を選り分け、エリシアは葉緑体だけを消化管の内側にある特殊な細胞の中にしまい込みます。

その後、この消化管は拡大し、いくつもに枝分かれし、成長を続ける彼女の全身に広がる。。。おお。。。。

こうして、貴重な葉緑体は、彼女の表皮の下の”融合層”という部分に送られ、がっちり固定化される。

ここから、意外なことが展開します。

お腹いっぱいになったウミウシはなんと、口を失い、その後は生涯、お日様のエネルギーだけで生きてゆくのです。

おお、、なんというワンダー! が、むごい。。。


もちろん、葉緑体自体も自らを維持するためのたんぱく質やらなんやらも必要だから、

そのたんぱく質を供給するための遺伝情報もエリシアに無いといけないわけです。

でも、ほんらい、その遺伝情報を持っていたのは藻類の細胞核だったのです。

藻類の細胞核から切り離された葉緑体は、エリシアが生きている間、どうやって生き続け、機能し続けるのでしょうか?

そして、またもや奇跡が起こります。


実は、進化の途中で、重要な遺伝子が藻類の細胞核からエリシアの細胞核に受け渡されたことが現在、わかってる。

それを進めたのが、ウミウシの細胞核に寄生していた”レトロウィルス”だということもわかってる。


このウィルスは、「逆転写酵素」という特殊な化学物質を持っていました。

ふつう、細胞内の細胞核にDNAが置かれ、そこに書かれている設計図をRNAというメッセンジャー(m-RNA)が読みに来る。

RNAは設計図を読み取ると、細胞内にあるたんぱく質合成工場にそれを持っていって、いろんなたんぱく質を生産させる。(工場で肩や目の素材なんかを作ったら、それをクロネコヤマトが当該住所に送る・・)

設計図にはどんな時期に、体のどこに運ぶのかも書かれている。(これ自体が究極のワンダーですが)

こんなふうに、DNA→RNA→たんぱく質という流れだけがあると考えられてきたのでした。

いいや、そうじゃなかった。


RNA型のレトロウィルスは、自身の遺伝子情報を細胞核の中のDNAに書き込み、DNAから全身に新しい指令をださせるんです。

おお、、ワンダーっ!

つまり、体に入ったレトロウィルスが全身を乗っ取るのです。

有名なのはAIDSのHIVウィルスで、新しい指令をださせ、全身の免疫機能をシャットダウンさせます。

だから、ふつうは罹らないようなちょっとした病気(カリニ肺炎)にも罹って人は死ぬ。3000万人以上が死んでます。

ウィルスが侵入すれば、たいがい宿主は劇的な変化を被るのです。(重症になるか、たぶん死んじゃう)

でも、運よく生き延びた個体は、ウィルスと共存しており、もう種としては別な種になる場合があるのです。

こうして、水中の魚が陸に上がり、羽が生えて空を飛ぶなんてことも起こった。

おお、、もう何度目のワンダーか分からない!



5.進化はダーウィンの言うのとは違う

細胞核の中のDNAに起こった突然変異というエラーが進化を進めたと考えられてきたのだけれど、

実は、種全体の中の、たった1つの個体に羽が生えるぐらいじゃ、種全体は変わらないわけです。

あなたが毎日行ってる会社の隣の席の同僚にある日、真っ白な羽が生えた。

だとしても、約70億人の人間種の内のたった一人では、新たな種まで行けない。

彼が結婚しお嫁さんが二人子を産んで、内一人に羽が遺伝しても、やっとこれで二人目でしかない。

同時並行して、羽の無い現生種の70億人が子孫を作り続けてる。

ということで、あなたの同僚はいつまでも日陰の存在のままです。


種としては、おおよそ1000個体以上いないと、偶然の事故や病気で新しい遺伝子も保てないのです。

その同僚の子孫はいじめに会いながら、1000個体になるまでじっと耐えるしかないわけです。

(単純にいうと、子ども二人を産み、内一人が羽くんだったとして、1000世代かかる計算になります。

1世代30年間として、3万年待つの?

1000個体いない不安定状態がその間、ずっと続くのです。

新たな種となる前に津波やパンデミックで滅んじゃう?

ということで、わたしたち人類種自体も初期には1000個体に成るまで持つという試練があったはずです。人類が耐えれたのは奇跡?)

ほんとに進化って、そんな地味なやり方で進むのか?


ダーウィンを悩ませた進化の原因とは何だったのか。

体に入ったレトロウィルスが全身を乗っ取るというメカニズムが判明し、一挙にブレークしました。

レトロウィルスは多くの個体間で感染するとともに、生殖細胞に移動します。つまり、子孫に遺伝子を反映させてゆくことができるのです。

同僚だけでなく、あなたの生殖細胞も、お隣さんも、そのまたお隣さんも感染したらあっという間に、”羽生え種”を持つ親鳥になってしまう。

(ほら、コロナウィルスがあっという間に世界伝播したように。しかも、感染すると卵子や精子にもチェンジを起こす場合です)

こうしてたった1世代でぐるりまったく異なる種が広範に生まれる。3万年も待たない。

おお、わたしたちの進化にはウィルスは必須だったでしょう。

ウィルスは”怖い”とみんな思ってるけれど、わたしたちはウィルス無しにはここまで進化できなかったのです。(くどいけど、素敵なワンダーだ!)


2001年にヒトゲノムの全情報が解明されたとき、タンパク質を作る遺伝子はごくわずかで、大量の無駄?な遺伝子がDNAを埋め尽くしていました。

さらにしらべると、それらは進化とともに取り込まれてきたであろうウィルス様の遺伝子がいっぱい残存していたのです。

(2,3割しか役割が分かっていません。あとの7割はウィルスの残骸のようなのです。でも、ゴミかどうかが分からない。富士山のように休暇中なだけかもしれません。みやみやたらに、いろんなウィルスが生殖細胞まで侵入してきた歴史が刻まれていた)


エリシアをある時襲ったウィルスは何だったのか?

それは、レトロウィルスの中でも古い系統に属するものらしいのです。

その襲撃で、ほとんどのウミウシは死に絶えたでしょう。そして、一部が取り込みに成功し生き延びた。偶然にね。

今も、この取り込まれたウィルスは時々、ウミウシの細胞核の中に集まるけど、そこからまた、取り込んだ葉緑体を含め、内部の器官、組織のいろんな場所に向けて移動する。

その間、まったく無害に見える。。



4.春が終わる

レトロウィルスが深く細胞核に侵入しているエリシア・クロロティカに再び春が来る。

エリシアたちは卵を産み付ける。

そして、この産卵が終わると、なんと、大人のウミウシは一斉に全滅する。

おお、、無残なワンダー!!

ウィルスが体内で急速に増え、あらゆる器官、組織に充満し、ウミウシは病気になるのです。

ウミウシの中にいて生きてゆくのに欠かせない遺伝子操作をしたと思われるレトロウィルスが、この時には残忍な攻撃を仕掛けてくる。

藻類から葉緑体に必要な遺伝子を転写(コピー)し光合成ができるようにしてくれたウィルス。。

それが突如、敵にかわり、一挙に全滅させる。

卵を産めばもう用無し??

おお、、なんて進化とはむごいものなんでしょう!


現在、新型コロナウイルス感染症に対するワクチン開発が、猛烈なスピードで進んでいます。

ワクチンの目的は、ウィルスにさらされたときにすぐにウィルスを排除してくれるように、自身の体に対ウィルス機構(免疫)がある状態をあらかじめ作っておくということです。

たとえば症状が起きにくいような弱めたウィルス自体に事前にさらしておく。そうすると、ウィルス全体の色々な部品に対する排除機構が体内に生じるようになります(抗体が体にできる!)。

またウィルス全体ではなくて一部分だけでも先に体内に入れておくと、全体に対する抗体がなくても体から排除できる可能性がある。

今回の新型コロナウィルスに対するmRNAワクチンは、ウィルスの一部に対する免疫を作るワクチンです。このメッセンジャー型のRNAを自分の細胞核に入れて対応するということです。


怖いっ!とあなたは思ったでしょうが、いいえ、わたしたちの種は数億年の間、ずっとウィルスに暴露され続けて来たんです。(今更怖がってもねぇ・・)

エリシア族が緑にかわってからすいぶん時が経ち、わたしたちはその機構を逆利用するまでになった。

ということで、望めば、やがてわたしたちも緑になれる日も来るかもしれない。

おお、、職場が愛に満たされる。(いや、たいはんの職場はもう要りません)

でも、種が分岐するということは、きっと多大な痛みと犠牲を伴うでしょう。(新種へのいじめ程度では済まなくなります。社会が大混乱します)

そのリスクをおかしてまでも緑になりたいのか?

緑になったら、ひょっとしてあるタイミングで口が消滅したり、足が退化したり、交尾もしなくなるかもしれません。(ええーっ!そんなの聞いてないよー)

いや、二十歳前には逝かないといけなくなるかもしれない。

ああ、そんな悲しいワンダーしてまでも、わたしはやっぱり働きたく無いんでしょうか??

会社で働くことに文句いっぱいあるんだけれど、ひょっとして、その代償としてわたしたちは話し、支援し合い、恋をし、子どもあやせるのかもしれないのです。

あるとき、カフェの席について顔を見合わせながら「美味しいね」って言い合えるのかもしれない。


進化のワンダーは、ただいな犠牲を強いるとすれば、むむむ・・。

いや、そもそも光合成人生って当分実現は難しい、かな。

いえいえ、神の領域に手を出そうとした傲慢なわたしなのです。

今ある”喜び”に目が行かないわたしを許してくださいませ。


長きのお目通し、ありがとうございました。ぺこっ。


P.S.

動物と植物の間のようなこの生物は、免疫学や遺伝子治療などをはじめ、いろんな分野の科学者たちから注目を浴びていました。

が、エリシア・クロロティカの生息数がいまどんどん減少しているそうです。

数少ない専門家たちも、ほとんどが手を引いたり、異なる分野に移ったりしている。。。

光合成は、動物であれば許容できないはずの大量の活性酸素をつくりだすのですが、どうして彼女は平気なんだろうか。なぜ葉緑体は彼女の消化器官で分解されないのか。

エリシア! きみはまだ、分からないことだらけなのに。。

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