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読書log#2 無力感 /医者、用水路を拓く


中村哲医師がアフガニスタンで用水路づくりを進めた記録。

しかし、この用水路建設事業によって、自然と人間、人間と人間の関係について、より深く気付くものがあったと感じている。それをどこまで正確に伝え得るかは心もとないが、平和とは決して人間同士だけの問題でなく、自然との関り方に深く依拠していることは確かである。

医者、用水路を拓く 2pより


戦争

この本を読む前と読んだ後では、戦争、環境問題に対する見方が大きく変わった。

小学校の頃から今まで何度も何度も繰り返された平和学習で、ただ戦争は繰り返してはならないこと、という認識だけがあった。平和学習で聞く戦争の話は、こう言うと不謹慎かもしれないけれど、フィクションの世界の話のようで、現実世界の話のように思えなかった。
今も武力を伴う争いは起きているということも新聞やニュースの情報から知っている。

しかし、この本にある戦争は、もっと切実な感じがした。日本の状況と同時並行で語られていて、しかもかなり最近の話だから、昔の戦争体験について聞くよりも、もっと具体的で身近なこととして戦争を考えた。
一方で、私はどうすればいいの?という感覚が、読んでいる間ずっとついて回った。こんなに大変な状況に置かれた人たちがいるのに、私は何をしているんだろう?という罪悪感というような。
知らないままだったらこんな気持ちにならなかったのに。
でも紛争地域で仕事をするような度胸はないし、私は私の好きなことを仕事にして生きたい。
中村さんはすばらしい人だ。
中村さんやその周りで人のために働いた人もすばらしい人間だと思う。
そんな人間がたくさんいれば、世界平和の実現とまでは行かなくとも、多くの人が救われるはず。でも私は中村さんのように生きることはできない。
それなら、アフガニスタンの窮状を知ることに意味はあったのか?戦争とか環境問題とか、何も行動に移すつもりがないなら知識に意味はないのかな?
環境問題に関しては暮らしの中でできることをしようと思うけれど、戦争は、飢餓は、どうしたらいいのか?

別にこの本の中で行動を起こせとは一言も書いてなかったので、これはただ私が悩んでしまったことなのだけれど。

メディアについて


本の中で、中村さんは日本やアメリカのメディア報道に大きな不信感を持っていた。
先に書いたように、日本の状況と並行してアフガニスタンの状況が書かれていたけれど、私が持っていたイメージ、タリバン政権のもとで抑圧される人々ーーーとは全然違う姿だったから驚いた。
アメリカの誤爆や中途半端な援助。アフガニスタンの人々の反米感情も仕方ないと思った。

今まで、ネットの情報はバイアスがかかっていたり、フェイクがあったりするから気をつけようということを散々言われてきたので、新聞やテレビのニュースを信用していた。少なくとも本物の映像を扱っているのだから、真実に近いだろうと思っていた。
でも、考えて見れば、あの狭い紙面で、短い放送時間で伝えられることは限られているから、伝える情報は選別されているはずで、内容がある一点に沿って偏ってしまうこともあるか。
発信する側に悪意がなくても。
戦時中の日本の情報統制とまでは行かなくとも、メディアが偏った発信をしていれば、国内全体の物事の見方も偏ってしまうんだな。
そして国民全体で同じような知識や倫理観を共有することで、そこから外れた意見は叩かれて、どんどん社会はひとつの方向へ進んでいってしまう。

でも、それならどこの情報を信じたらいいの?

援助について


誰かの役に立ちたいと思った時、特に自分と境遇の違う人の役に立ちたいと思った時、自分と相手は違うということを前提に、一から相手のことを知らなければならないなと思った。
中村さんは、終始アフガニスタンの側に立って、そこで暮らす人のためにできることを考えていると感じた。
人のために動くことは大切だけど、押し付けになったり、無責任にならないようにしなければ。

海外で働くこと


この本の本筋とはずれるかもしれないけれど、個人的に好きだと思った文を引用する。

異文化の中で暮らすってこういうことなのかな、と思った。

もちろん、どんな人でも個性や癖があるので、常に和気線というわけではない。アフガニスタンもパキスタンも文化事情が日本とずいぶん異なり、これまた現地でしか体験できぬ人間関係の確執に巻き込まれる。初めは物珍しさも手伝って、「日本にはない良さ」を賞賛するが、ある時期を過ぎると嫌気がさしてくることが多い。それも過ぎると、実は美点も矢点も表裏一体で、その人や土地柄をそのものとして受け容れることが出来るようになる。そうして日本では得がたい人間のあり方、自然とのつき合い方を知り、帰っていった者も少なくない。

医者、用水路を拓く 180p

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