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ミッツ・マングローブ「熱視線」

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女装家・タレントのミッツ・マングローブさんが時代を駆け抜けた「アイドル」たちについてつづった書籍『熱視線』(2019年8月刊)より、珠玉のコラムを選りすぐりで紹介
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記事一覧

ビジネス・オネエの新たなる課題と抱負【ミッツ・マングローブ/熱視線】

 人気者に付いて回るものと言えば「疑惑」です。昨年も様々な疑惑とその真相、そして顛末にざわついた一年でした。不正、不倫、薬物といったお咎めの対象となり得る疑惑から、別に悪いことをしているわけではないのに何故か疑惑扱いされるカツラ、整形、同性愛まで。隠せば隠すほど疑惑を持たれ暴かれるのは人気者の証しです。私が人気者かどうかは別にして、私のように「一般的には隠しておきたいとされる事柄」も、割と詳らかにしている人種というのは、「暴き甲斐がない」と見做され、スキャンダル価値が低くなり

マニュアル男子の出家場所リリー・フランキー【ミッツ・マングローブ/熱視線】

 石原さとみさん、新垣結衣さん、北川景子さんといった美人どころが毎年しのぎを削る風物詩と言えばご存知『なりたい顔ランキング』です。『憧れの顔』や『真似したい顔』とはまた違う「努力はしたくないけど、願わくは寝て起きたらそうなっててくれないかしら」という自己中心的かつ怠慢極まりない現代人の精神が生々しく込められたランキング。かく言う私(43歳 ※編集部注:2018年5月)も、「日々の過剰な化粧やパンストの締めつけが功を奏して、気づいたら井川遥のような顔になっている日が来るかもしれ

男を食わない小島瑠璃子型キャリアウーマン【ミッツ・マングローブ/熱視線】

 凄まじいと言えば小島瑠璃子です。彼女を観ていると「活躍」よりも「重宝」という言葉が浮かびます。では「こじるり重宝」の肝とは何か? ずばり賢さと拙さの押し引きの巧さではないでしょうか。90年代に、グラビア界から司会業にまで昇り詰めた蓮舫さんと比べてみても、こじるりの振り幅は絶妙です。男社会の賜物であるテレビ業界において、こじるりが醸し出す「どうしようもない小娘感」は、まさに天賦の才と言えます。男は蓮舫には警戒しても、小娘には警戒しません。かと言って、男に媚びるだけの女には鼻の

保毛尾田保毛男を狩る、分別できない人たち【ミッツ・マングローブ/熱視線】

 ここまでくると、もはや『時代錯誤なホモやオカマ』は存在自体が差別なのでしょうか? 表面的な配慮をしてくれる世間に恩義を感じながら、当事者同士も『裏切り者』にならないよう気を遣い合う。なかなか窮屈な世の中になってきました。28年ぶりにブラウン管に帰ってきた保毛尾田保毛男ちゃん騒動を目の当たりにして、ずっと悶々としていた今週。 「ホモやオカマはNGでゲイやオネエはOK」なんて、いったい誰がいつ決めたことなのか? 「あの人“こっち”らしいよ」と手を口の横で裏返すジェスチャーや、

憧れではなくネタ。悲しき慶應の象徴力【ミッツ・マングローブ/熱視線】

 良くも悪くも『慶応ブランド』なんてものは、昭和の時代から幾度となく持て囃され、こすり続けられてきた結果、今や完全に形骸化した幻想の賜物でしかないと思っていました。野球の早慶戦しかり、政界・財界・医学界における学閥しかり、石原裕次郎に代表される慶応ボーイしかり、確たる伝統や効力はあるにせよ、甚だ時代遅れなイケイケ感満載です。そしてここへ来て、悪目立ちばかりすることが多い慶応……。『最強の切り札』として、この学歴国家で幅を利かせてきた「大学は慶応です」というフレーズが、いよいよ

秘蔵!私の蓮舫ヒストリー【ミッツ・マングローブ/熱視線】

 野党第1党の党首になられた蓮舫さん(※編集部注:2016年、民進党時代)。テレビ番組で、「必ずしもすべての女性が、働きたいとか、社長になりたいわけではないと思う」的なことを仰っていました。「(男女平等を望むなら)男性的な向上心を持とう!」などと、本末転倒な煽り方をしないところは、さすがの冷静さです。その一方で、蓮舫さん自身の「だけど私は総理になりたい」という向上心は、手に取るように剥き出しになっていてシビれました。総理になって欲しいかどうかはさておき、やはり蓮舫はこうでなく

政治家をこなす。小泉進次郎の模範的人気【ミッツ・マングローブ/熱視線】

 参院選から早2週間。よくよく考えると何のドラマも意外性もない、単に「数字(得票数と議席数)」を報告していくだけという、恒例の選挙特番祭りが、今回も全チャンネルで催されました。人間なんて所詮「数字」と「勝敗」にしか興味がないのかもしれません。別に誰も開票結果を逐一知る必要などないはずなのに、毎回あの『手に汗握る感』は何なのか。と言いつつ私も各局ザッピングしながら観ていたひとりです。  ただ延々と「当落」を垂れ流すだけでは、2時間以上の番組は成り立ちません。各局とも様々な布陣

マツコさんに見る現代日本の男社会事情【ミッツ・マングローブ/熱視線】

 マツコさん。いったい全体何がどうしてこんなことになってしまったのか。お互いそんな話をしても酒が不味くなるだけなのでしませんが、せっかくの機会なので、この不毛な理詰めに挑戦してみようと思います。  あくまで世間の『飛び道具』として存在していたはずのオカマが、今や「当たり前になった」などと、あたかも携帯電話の普及みたいな形容をされるようになり久しいわけですが、とりわけマツコさんに注がれる世の視線を目の当たりにするたび、「みんな、物珍しさで覗いていたはずの裏道を、いつの間にか表

14歳の安室奈美恵が歌った沖縄の戦後『ミスターU.S.A.』【ミッツ・マングローブ/熱視線】

案の定『アムロス』大流行。引退までまだ1年あるのに気の早い人たちです。そもそも『◯◯ロス』って、終わりや別れの後に陥るものだったはずですが。それにしてもこの語呂の良さ! もはやペットでもタモリさんでもなく、『ロス』は安室ちゃんのために用意された言葉なのかも。  さて先週も書いた通り、彼女(正確にはスーパー・モンキーズ)のデビュー曲『ミスターU.S.A.』は、私にとって25年間ずっとヘビロテ状態が続いている大好きな曲であると同時に、数多のアイドルポップスが存在する中、こんなに

やっぱり『昭和ガマ』を置き去りにしなかった安室奈美恵【ミッツ・マングローブ/熱視線】

 突然の引退宣言により、各紙で『安室奈美恵論』旋風が巻き起こっている様子。中年女装だらけの楽屋で第一報を聞き、皆「40歳を節目に引退されちゃったら、私らの立つ瀬ないじゃない!」と叫んでいました。  安室ちゃんは、聖子・明菜・ユーミン世代の『昭和ガマ』と、あゆ・宇多田・Perfumeらがアイコンの『平成ガマ』を繋ぐ数少ない日本の歌姫です。彼女には古き良き芸能界・歌謡界特有のスター風情(光と影)があります。言うならば安室奈美恵は、私を含め『昭和ガマ』が信用できる最後のアイドル

今こそ日本人の勇気を。「やっぱり工藤静香が好き!」【ミッツ・マングローブ/熱視線】

 今から30年前、1987年。バブル景気とは裏腹に、日本のレコード売り上げは不調でした。ちょうどアナログからCDへのソフト移行の真っ只中でもあり、華々しい歌番組に若干の陰りが見え始めたのもこの頃です。  80年代のアイドル史と言えば、『80年組(田原俊彦・松田聖子・岩崎良美・河合奈保子・柏原よしえ)』『82年組(シブがき隊・小泉今日子・中森明菜・早見優・堀ちえみ)』『85年組(中山美穂・本田美奈子・南野陽子・浅香唯・斉藤由貴・おニャン子クラブ・少年隊)』が3大豊作年として

究極の顔勝ち男・星野源【ミッツ・マングローブ/熱視線】

 この連載を始めてから、毎週誰かの似顔絵を描いています。手本やモデルなしに「鳥を描け」と言われたら、脚を4本付けてしまう自信があるぐらい、絵心は皆無の私ですが、どうやら絵画と似顔絵は似て非なるものらしく、人の顔の「強調したい」と思うパーツや表情を絵にする行為は、物真似やデフォルメ・メイクをしているような感覚です。そもそも女装も、自分の顔を使って、なりたい顔の似顔絵を描いているようなものですし。  スタイルやキャラも大事ですが、やはり顔面以上に情報が詰まっている場所はありませ

男には理解る? 羽生結弦のウマ味【ミッツ・マングローブ/熱視線】

『アイドル』という概念がいささか理屈っぽくなった感のある昨今、久しぶりに現れた逸材、羽生結弦。手の付けられない強さはもちろんのこと、手に負えないほどの縦横無尽さ。そしてそれを許容し、ありがたがり「もっと! もっと!」と貪る世の中。まさにアイドル文脈の理想型と言えるでしょう。  羽生クンのスゴさは、例えば『転倒したシーン』を、瞬時に『立ち上がるシーン』に変換させてしまう『ヒロイン力』です。「お黙りなさい! 転んだのではありません! これから立ち上がるところなのです!」と声高