一番リピした日本食は「ほかほかご飯と冷たい漬物」 米国出身フードイラストレーターが描く“おいしい日本”の魅力
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大学では日本語やデザインを専攻。クリエイティブ系の学生たちの間で、長い歴史に裏付けられた日本の文化や、ネオンサインがひしめくサイバーパンクな街など「ちょっと不思議な唯一無二の文化」を持つ日本は憧れの的だった。日本にやってくるときは、クラスメートの「おめでとう」の声に送られたという。
そんなケイリーンさんがもうひとつ、描く食べ物を決めるときのポイントにしているのは、日本文化として紹介できるものかどうか。
「オムライスひとつにしても、ビジュアルが派手でユニークなものより、日本文化が見えるノスタルジックなものを選んでいることが多い。しかもそんなオムライスを出すお店がおしゃれだったら、それが一番の理想ですね。アメリカにもおいしいものがたくさんありますが、日本のように食べ物の見た目の細部までこだわる店は少ない。日本の食べ物は繊細で、ファストフードひとつでもビジュアルがきれいですよね」
繊細な日本食は世界中で人気となっているが、日本に観光しに来たり、住んだりする外国人にも、食べ物から見える日本の文化を知ってほしいと、紹介文には英語も付けた。
この本で、ケイリーンさんが実現したことはもう一つある。食べては描き、描いては食べる夢のスケッチ旅行だ。行き先は京都。スケッチブックを手に2日間、ディープな雑貨や食のスポットなどを巡った。
「コロナもあって、ここ数年はモチーフになるのは東京近郊の食べ物ばかり。ここは1番有名な観光地をちょっと足したいと京都に行きました。おしゃれな喫茶店とかカフェとかも多いし、私が好きな懐かしいものだっていっぱいある。日本中においしい物はもっとたくさんあるのに、東京だけではちょっともったいないという気持ちもありましたね」
プライベートで旅行に行くときは、「せっかく行くんだから全部見たい」派。だが今回ばかりは、あちこちのお店でゆっくりしながらスケッチをする「一度やりたかったスケッチの旅」を実現した。
「京都は懐かしさやノスタルジックさがあって、日本のレガシーを感じさせてくれる街。お寺とか神社とかも好きですが、古いお店も多くて、とくに古い感じの喫茶店やカフェが、すごくいいと思いました。私はどこへ行っても、お土産を買いにアンティークの店に行くんですね。そこの土地の人が昔使ってたものを持って帰るという思い出がすごい素敵だなと思っているから。日本らしいアンティークを売っているお店にも行きました」
京都が、外国人観光客の人気観光スポットのひとつである理由を、ケイリーンさんはこう考えている。
「古い街が残っているからじゃないですか。どこの国へ行っても、古い街がどんどんなくなっているので。まず東京で今の日本文化を感じて、経験して、つぎに京都に行って昔の部分も経験できる……ま、そういうタイムスリップしたような感じにはなることが、人気の一つだと思いますね。日本はすごく古いものと、すごく新しいものが両方あって、私も初めて日本に興味持つようになったときに思ったのもそれなんです。京都のような古い町で、この道はどんな人が通ったんだろうとか、何百年も前に思いをはせながら観光するのが、すごく楽しいですね」
『日本のいいもの おいしいもの』には、昭和の銭湯をリノベーションしたカフェ「さらさ西陣」で銭湯時代から残るタイルのモザイク模様をスケッチしたり、「アウーム西木屋町」で旬の食材を使った手織り寿し(手巻き寿司)をイラストにしたり、ケイリーンさんならではのミニ京都案内ページが含まれている。京都ページにある1948年創業の喫茶店「喫茶ソワレ」の名物メニュー「ゼリーポンチ」など、水彩画にするとますます映えるスイーツも多い。
「京都だけでなく日本には、透ける食べ物が多いですね。アメリカにもゼリーはありますが、見た目を楽しむものではない。日本のそれは透けるところの色や反射もおもしろくて、そもそも水彩画に向いているモチーフ。ゼリーをはじめ、かき氷、寒天の和菓子、飴細工など、本ではまとめて“透ける食べもの”として紹介しています」
ほかに“串に刺した食べもの”を集めたページなど、日本人が思いも寄らないようなジャンル分けも楽しい。最後にケイリーンさんに聞いてみた。日本に来て、一番リピートした食べ物は何ですか?
「漬物ですかね。私、猫舌なんで、ほかほかご飯には、冷たくてすっぱい漬物が必需品。自分でもぬか床を持っていて、オリジナルの漬物を漬けています。旅行のとき? やっぱり日本に住んでいる妹に、猫と一緒に預けてます」
モチモチ感を出すのに何度も描き直したという、ケイリーンさんのご飯のイラストを思い出して、ゴクリ。今日は、ほかほかご飯と冷たい漬物の晩ご飯を、いただきますか。
(文/福光恵)