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9.黒川あかねのプロファイリングと心理的アセスメント

黒川あかね(以下、あかね)のプロファイリング。アニメ7話(原作28話)では、非常に印象的な場面の一つです(その他、あかねがアイを演じた瞬間が、特に印象的な場面であることは多くの人が感じたことですが)。

プロファイリングとは?

プロファイリングについては、記事の後半で説明していますが、このようなひとの分析は、精神医学や心理学的に行うのでしょうか?

「愛情の抱き方に何かしらのバイアス有り」「視力は良い」「秘密主義と暴露欲求」「破天荒な行動に反し完璧主義者」「無頓着さと過度な執着」「ファッションはやや無頓着」「金銭感覚が節制傾向」「発達障害の傾向」「思春期の段階で性交渉があった子特有のバランスの悪さ」「歩き方が大股」「箸の持ち方が少しいびつ」「教育レベルは低め」「15歳あたりから破滅的行動に改善が見られる。良い出会いがあったのかな?」「聴覚と嗅覚が過敏」

推しの子28話より

診断と心理査定(心理アセスメント)

よく精神科医と臨床心理士は混同されがちですが、精神科医はあくまで医師(内科医、外科医、耳鼻科医、皮膚科医などのひとつ)で、医学という学問に基づいて診断(疾患名を定める)やお薬の処方などを行なうことができます。つまり診断書が書けるのもお薬を出せるのもドクター(医師)です。

その一方で、臨床心理士は心理系の資格(民間資格)のうち、2023年現在で最も有名なものです。(臨床)心理学という学問に基づいて、心理査定(心理アセスメント)を行った上でカウンセリング(あるいは心理療法)や心理教育(心理学に基づいた知見を一般の方々へ伝えること)などを行います。(2019年からは、臨床心理士に加えて「公認心理師」という国家資格も生まれました。現在は公認心理師・臨床心理士が2強と言えるでしょう)

医師で、保険診療を行っていることが多く(保険証で患者自己負担額が3割などに減額される)、その保険診療で定められている縛りや、多くの患者さんと会う必要があるなどから、どうしても診察時間は短くなりがちです。
臨床心理士は、一般的には一人ひとりに時間をかけて心理アセスメントをしたり、お話を聴いたりします。診断のように疾患名などを断定することはできませんし行いませんが、お悩みなどについて丁寧に聴いていきます。

心理アセスメントとは?

心理アセスメント(心理査定)では、心理テスト(心理検査)を行うだけではありません。カウンセリング(または心理療法)を行う前に、その患者さん(クライエント)がどんな方かを言葉や、言葉以外(雰囲気、生育歴など)から情報を得て、カウンセリングや場合によっては診察・診断の補助として役立てることをします。

プロファイリングとは?

さて、話を戻して、あかねのプロファイリングについて考えてみましょう。プロファイリングとは、犯罪心理学において使われる言葉で、臨床心理学の言葉ではありません。犯罪心理学は、犯罪にかかわる応用心理学の一つとして研究が日々進められています。
※ちなみに、臨床心理学も臨床に役立てるための応用心理学の一つ。

プロファイリング
異常犯罪の犯人像の分析技法。現場に残された状況をもとに、統計的な経験と犯罪データ・心理学両面から犯人像を推理し、人種年齢生活態度などを特定していくもの。米国連邦捜査局FBI)が取り入れている。
ある人物の個人情報や過去の行動を分析し、今後の行動などを推測すること。例えば、顧客の年齢と購買履歴から、新製品の購買予測を行うなど。

デジタル大辞泉より

無診察診療の禁止

あかねの行っていることは、いわゆる「心理アセスメント」というよりは、「プロファイリング」に近いといえるでしょう。ちなみに医師法の第20条には、「無診察診療の禁止」というものがあり、医師であっても診察なしでの治療や診断、処方薬の処方はしてはならないように定められており、たとえば有名人を診察したことがない状態で、マスコミなどで診断名を言うことは厳に慎むべき行為とされています。

医師法20条「無診察診療の禁止」
医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。(後略)

医師法より

目隠し分析(ブラインドアナリシス)

これらが禁じられているのは、部分的な情報のみでラベリングをすることの危険性があり、それは往々にして誤った理解から導き出されたものであるといえるからです。心理アセスメントにおいても、実際に患者さん(クライエント)に会うことなしに、心理テスト(心理検査)で性格などを分析することを厳に慎むべき行為とされており、そのことは目隠し分析(ブラインドアナリシス)と呼ばれます。

あかねのプロファイリング

あかねのプロファイリングは、医学的な診断でも心理学的なアセスメントでもなく、犯罪心理学におけるプロファイリングに近いとはいえ、そのものではありません。

とはいえ、他者(ここではアイ)を理解するために、ここまで努力して論理的に推測する力は非常に優れているといえるでしょう。普通、(一応)プロファイリングの本を読んだりしているだけでは、ここまで推測は難しいでしょう。(原作の赤坂アカ先生も相当勉強して考えられたんだなと思われます)

アクア「アイの思考パターンってどれ位分かるんだ?」あかね「どういう生き方をして来て、どういう男が好きか…まで、多分だいたい分かると思うケド?(推しの子原作30話)」は言い過ぎだとしても、原作に描かれていない部分からあくまで「推測」という範疇であればできるのかもしれません。もっとも心理師は「わかる」と断言することは避けますが、あかねは心理師ではなく、漫画/アニメのキャラクターなので、それくらいはご愛嬌でしょう。

TVアニメ推しの子7話より

「愛情の抱き方に何かしらのバイアス有り」「視力は良い」「秘密主義と暴露欲求」「破天荒な行動に反し完璧主義者」「無頓着さと過度な執着」「ファッションはやや無頓着」「金銭感覚が節制傾向」「発達障害の傾向」「思春期の段階で性交渉があった子特有のバランスの悪さ」「歩き方が大股」「箸の持ち方が少しいびつ」「教育レベルは低め」「15歳あたりから破滅的行動に改善が見られる。良い出会いがあったのかな?」「聴覚と嗅覚が過敏」

推しの子28話より

ひとつひとつのあかねのコメントに対して、コメント(あるいは称賛・批判)をすることはここでは避けておきますが、目のつけどころは面白いなと感じました。「発達障害の傾向」の部分については、別の記事「2.星野アイは発達障害なの?」で考察を書いていますので、よろしければそちらもご覧ください。


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