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サイクリング・サウジアラビア、施しの文化が根づく砂漠の民と国家の生き残り戦略

国そのものがイスラムの総本山ともいえる厳格さで知られるアラブの筆頭国、サウジアラビア。
脱石油依存の一環で2019年9月に外国人観光客への門戸を開放、しかしその後まもなくしてパンデミック到来により閉鎖。
現在は問題なく入国できるが、陸路でガッツリとこの国を旅した人はまだ少数と思われ、情報も乏しい。

ビザ代は高額(2万円弱)だが、完全オンラインのe-Visaで、いたってシンプル。
国境係員は、僕が日本人だと知ると満面の笑顔で丁重に迎え入れてくれた。

「Welcome to Saudi Arabia!」

無類の短パン愛好家の僕も、ここサウジアラビアだけは例外、長ズボンで肌の露出を控える。

お金持ちの国のはずなんだけど、街はなんだか寂れていてパッとしない。

外を歩いているのも店内にいるのも男性ばかり、女性はほとんど見かけない。
男性の同伴なしで女性が外出することは禁じられている。

紅海。

正確には紅海北東部のアカバ湾。
対岸はエジプト、シナイ半島。

2012年はエジプトからサウジアラビアを見ながら走っていた。
当時はサウジアラビアを走れる日が来るとは思ってなかったな。

しょっちゅう車が止まり、声をかけてくれたりドリンクをくれたりする。
皆、フレンドリーでスマイリーだ。

「Welcome to Saudi Arabia!」

人口3200万人のうちサウジアラビア人は約6割、4割が外国人労働者。

ほぼ英語でこなせたヨルダンとは違い、多くのサウジアラビア人は英語はあいさつ程度のベーシックで、会話は難しい。

外国人労働者はインド人、パキスタン人、バングラデシュ人など南アジア系が多く、かれらは英語を話せるが、けっこうメチャクチャな英語なのでノリでなんとか通じ合う感じ。

何であれ、どこもかしこも男男男。
女性とは接触することはおろか、見かけることすらない。

いったい1日何回車が止まるだろう。
対向車もわざわざUターンして来るし、パトカーも止まって水をくれる。
警官はしばしスマホをいじって、翻訳アプリでも見たのか、日本語で「コンニチハ!」、「ガンバレ!」と言ってくれた。

シリア人のドライバーから。

エジプト人のドライバーから。

パキスタン人のドライバーから。

「施し」の文化が強く根づいていることを感じさせられる。

でも今までだってそうだった。
過酷な土地ほど「所有」の概念が薄れ、躊躇なくシェアして助けてくれた人たち。
ただし、ここは全員男。

物価は非常に高く、特に宿代が狂ってる。
予約サイト上ではビーチリゾートっぽいのがあるが、だいたい万単位。
家族旅行が前提になっており、シングルルームなどは存在しない。
トラックドライバーや外国人労働者向けの安宿があってもいいはずなのだが。
政府が外国人旅行者の受け入れを推進しても、当然のことながら街はいたってローカル仕様のまま。

よって寝場所は橋の下。

宿代が浮く分、食事は奮発しちゃう。

毎晩、満天の星。

モスクには、礼拝前に身を浄めるための水場がある。
まあ要はトイレなのだが、毎日ここで身体を洗い、洗濯もしている。

大きめの街の中心部にあるモスクなんかはさすがに人が多いので、街はずれの小さめのモスクがねらい目。
もしおこられたりしたら謝るつもりだが、今のところ何も言われないし変な視線も感じない。
これのおかげで、野宿続きでも身体はいつもきれいスッキリ。

時折砂漠に現れるウォータータンクもありがたい。

充電はハブダイナモで。

ハブダイナモは本来ライト用なので、USB用に変換機が必要。
モバイルバッテリーに接続し、自転車こいでるだけで蓄電できる。

サウジアラビアの威信をかけた巨大プロジェクト、NEOM。

現在サウジアラビアの実質上のトップであるムハンマド皇太子によって掲げられた構想、VISION2030。
石油依存からの脱却に向け、広大な砂漠に都市を一から構築する。

外国人観光客を拒んできたこの厳格な国が今になって開放路線に転じたのも若き皇太子ならではの判断。
今僕がこうしてここで旅をできているのもこのおかげである。

NEOMのメインとなる超未来都市「THE LINE」のエリアは現在は近寄ることすらできないが、この界隈は常時無数のトラックが行き交っており、都市建設が進められている。

労働者はやはり外国人ばかり。
もちろん全員男。

EVや自動運転やメタバースなんかも同様だが、ホントに実現可能なの?っていう不確定性が賛否両論の議論を起こし、注目を集め、そこにお金が流れ込む。
このNEOMも、他でもない石油の王者サウジが本気を出すということで、話題性としては十二分。
周囲の産油国、UAE、カタール、バーレーン、クウェートなどが産業多角化と観光化で脱石油を進めている中、サウジアラビアとしては生き残り戦略として他国にはマネできないインパクトのあることをやらざるをえないのだろう。

サウジアラビアは絶対君主制国家。
王族による専制。
厳格なのはイスラムの戒律だけではない、王族に逆らうような言動は粛清される。
ムハンマド皇太子は大変な親日家で、日本のアニメやゲームに並々ならぬ熱意を持ち、新婚旅行でも日本を訪れた。

NEOM関係の工事業者から、詰所で休んでいきなさいと声をかけられた。
シャワーを浴びさせてもらって、ごちそうもいただいた。

やはり多くが南アジア系なので、労働者の食事はカレーが定番のようだ。

この詰所のチーフが、なんと日本人。
15年サウジアラビアに住んでいるそうだ。
「自転車で来ました」と説明してもなかなか理解してもらえなかった。

日本の5.7倍の国土に、1本の川すら流れていない砂世界。
サウジアラビアは、世界最大規模の海水淡水化プラントを展開している。

サウジアラビアの至上命題は、「脱石油と水確保」。
今や人類共通のテーマだが、巨万の富を生む石油資源は世界トップクラスでありながら、生命にとって最も基本的な水資源がない、というなんとも極端な例。

海水を淡水化するには、莫大なエネルギーとコストと環境負荷がかかる。
脱石油を掲げておきながら、海水を淡水化するために毎日イギリス一国分以上の石油を燃やしているというジレンマ。
そして排出された高濃度廃塩水を海に流しており、近海の塩分濃度が高まって生態系に深刻なダメージを与える。
それでも生き抜くにはやるしかない。

日本は石油はなくとも水には恵まれていると思いがちだが、人口比で換算すると1人あたりに供給可能な水量は世界平均を下回っている。
こういう国のリスクヘッジを見て、他人事だとは思わない方がいい。

ちなみに日本の原油輸入先の最大の国がサウジアラビア。
両国の関係は非常に良好、車は圧倒的にトヨタが人気のようだ。

なんかおかしい。
・・・尾けられている。

パトカーが、僕の数十m後をついてきている。
ずっと同じパトカーではなく、時々交代している。
何度か止められ、写真を撮られる。
これは別に友好的に撮影しているわけではなく、業務上の証拠写真なのだろう。
なんでこんなことをするのか聞いてみたいが、あいにく警官は生粋のサウジアラビア人で、英語が通じない。

おそらく、convoy(護送)。
エジプトやパキスタンでも似たようなことがあり、半強制的に車に乗せられたりした。
ここでは乗せられるわけではなく、黙々とただついてくるだけ。

護衛と監視を兼ねているのかもしれないが、こっちは落ち着かん。
やっぱふつうじゃないな、この国。

若干荒っぽく高圧的な警官もいるが、水とパンをくれた警官もいた。

猛スピードの車が急ブレーキで止まり、僕にカレー弁当を渡して、力強く握手して、無言で去って行く人。

尋常じゃない量のドーナツを渡してきたエジプト人ドライバー。

ランチに招いてくれたヨルダン人ドライバー。

いかにも肉体労働者のアニキといった感じで、ガンガン食べさせてもらった。
英語はまったく通じないが、こういう人とは言葉の壁なんて関係ない。
半ば強引に僕のバッグに水とフルーツを詰めこみ、ニッコリと笑う。

人が人をリスペクトしている。
僕も最高レベルの敬意を払う。
争いが起きそうな予感なんてかけらもない。

青い紅海。

色で方角を表現した時代があったそうで、北にある海は黒海と呼ばれ、南にあるこの海は紅海と呼ばれるようになった。
他にも諸説あるようだが、何にしても赤い海なんて違和感しかないから改名した方がいいんじゃないかな。

今月19日、イエメンのフーシが紅海上の日本郵船を拿捕した。
船の所有者はイギリス企業だが、そのトップがイスラエル人の海運王ラミ・ウンガー。
イスラエルに向けて巡航ミサイルを撃っても米軍に迎撃されるので、シージャックに切り替えたか。

紅海のチョークポイントといえばスエズ運河だが、その逆サイドのバブ・エル・マンデブ海峡もチョークポイント。
もともと海賊が出没する上に、イエメンに面しているということで特に現在海運の脅威となっている。

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