見出し画像

多様なるニュージーランド :NZ北島編

ポリネシア、ミクロネシア、メラネシア。

しっかり把握している人はあまりいないだろうし把握してなくても困ることはないだろうが、無数に散在する太平洋の島々の区分けで、ニュージーランドはポリネシアに属する。

ポリネシアは「多くの島々」を意味し、ニュージーランド、ハワイ、イースター島の三点を結ぶ巨大なトライアングル。
ミクロネシアは「小さな島々」で、グアムやサイパンなど。
メラネシアは「黒い島々」で、ニューギニアやニューカレドニアなど。
これにオーストラリアを加え、全部ひっくるめてオセアニアと呼ばれる。

ポリネシア最大の街、オークランド。

アメリカ、カナダ、オーストラリアと同様、ここもイギリスの主導で開拓されたアングロサクソンベースの文化、そして労働力として移民を寄せ集めて形成された多民族国家。
オークランドは40%が海外出身者だという。

街を歩けば、圧倒的なアジア人(日中韓)の多さが際立つ。
まず空港に着いた時点で、英語と漢字の二言語表記だった。
旅行者ではなく、ほとんどが留学生や在住者。

アジア系レストランが軒を連ねる。

100mおきぐらいに「Sushi」という文字を見かける。

日中韓の店が最も多いが、他にもインド、タイ、トルコ、など実に多様。
コンビニやスーパーもアジア系が幅をきかせている。

日系スーパー。

中に入ると、驚くほど広い。
今まで旅した国で見たどの日系スーパーとも比べ物にならない。
あらゆる食品から調味料から何から何まで、くまなく取りそろえている。
百均的な日用品コーナーまである。
日本のスーパーそのもの。

店員さんは日本人、客も全員ではないが日本人、なつかしの日本語が聞こえてくる。
興奮してしまって長時間店内をぐるぐるとまわり、その間ずっとニヤけっぱなしで、「すげーすげー」とずっと独り言を言い続けていた。
気持ちとしては店ごと買い占めたいぐらいだったが、現実には菓子やカップラーメンですら気軽に買える値段ではない。

悩んで悩んだ挙げ句に思い切って買った、午後ティーとあんぱん。

長旅の者としては、この国では外食はできない。
たとえばフィッシュアンドチップス、魚と芋を揚げただけの軽食がNZ$22(1937円)。
ましてジャパニーズレストランともなると、何よりも和食に飢えているこの身でも論外。
スーパーで割安商品を見つけ出し、オール自炊でやりくりする以外ない。

オークランドで滞在したホステルは、ドミトリーNZ$28(2462円)。

労働者の宿。
インド人、ネパール人、フィリピン人、フィジー人、アルゼンチン人、etc。
多国籍出稼ぎ労働者たち。
無数の言語が飛び交う。

ホステル内は騒音地獄。
どいつもこいつも、場所を問わず時間を問わずスマホを鳴らしまくる。
ボリュームなんぞ気にもせずに動画を見る。
そして大声で電話電話電話。
何をそんな電話することがあるかね。
共用リビングのソファーに腰掛けて、ここは静かで落ち着けるかな、とすぐさま隣に人がやってきてスマホを鳴らしたり電話を始めたり、平然と静寂をブチ壊す。
深夜だろうが早朝だろうがおかまいなし、何の躊躇も罪悪感もないようだ。
周囲に対する配慮が絶望的なまでに欠落している。
ご丁寧にスピーカーを持参して爆音で音楽を鳴らすバカもいる。
誰もリクエストしてないよ。
こういう騒音野郎って、世界中どこへ行ってもドコドコ系の似たような音楽を鳴らす。
センスのある音楽を流す騒音野郎はいまだかつていない。
イヤホンという護身アイテムなしでここにいたら、きっと僕は心の病気になる。

労働者たちは当然、自炊する。
夕飯時のキッチンは大混雑。
東南アジア系の人たちは僕に話しかけてくれる。
日本人だと答えると皆ニッコリと笑ってくれる。
民度は崩壊しているものの、皆フレンドリーでピースフルだ。

日本も、今後大々的に外国人労働者を取り入れていく流れはもう止められないかもしれない。
まだ他に策はありそうなものだが。
世界の移民国家とはまったく異質な歴史を歩んできた単一民族の島国日本。
一度やり出したらもう後戻りはできない、覚悟しないとね。

ニュージーランドでは、やたらと「Sorry」と言われる。
そこまで悪いことしたわけでもないのに口癖のように謝る民族、イギリス人、アイルランド人、ニュージーランド人、日本人。
閉ざされた土地で衝突を避け、人間関係を円滑にするための島国特有の戦術なのかな。

気候は、夏は暑すぎず冬は寒すぎず、すごしやすい。
雨天曇天が多く、今は冬で日照が弱い。

車も多種多様。
日本車も大人気だが、テスラもよく見かける。

水素バスも。

もちろん、e-Scooterもそこら中で走っている。
スーパーの中に持ち込んで買い物する光景も。

有人レジなし、完全セルフレジでストレスフリー。

人口が少なくて資源も少ない小国ほど、新しいものを多様に取り入れやすい。
主産業は第一次産業でも生存戦略の勝負所は第三次産業だろうし、新たな試みが失策だったとしても国の規模が小さいので軌道修正しやすい。
シンガポール、アイスランド、アイルランド、ウルグアイなどの小国で共通するものが感じられる。

装備を整えて、走行開始。

オーストラリアと同じく、ニュージーランドもヘルメット着用が義務。

都市圏でも、さほどストレスなくスムーズに走れる。
完全ではないが基本的には自転車レーンがあり、ドライバーもサイクリストも互いを尊重し余裕をもって運転しており、脅威を感じさせない。
バスやタクシーにことごとく進路妨害されることもない。
自転車が乗り物として公認されてテリトリーを与えられている、だからルールも曖昧ではなくヘルメットも必着。
日本もこれぐらいしっかりと環境整備してくれるのならヘルメット被ってあげてもいい。

左側通行。
ニュージーランドはイギリス連邦に属しており、イギリス国王を元首とする立憲君主制国家。
アフリカ南東部、インド界隈、東南アジア、オーストラリア、などイギリスの影響下にあったエリアは左側通行が多い。

ニュージーランドの国土は本州+北海道ほどで、形状もなんとなく本州と北海道に似ている。

人口500万人。
ヨーロッパ系70%、マオリ人16%、アジア系15%、太平洋島嶼国系8%。
どの統計で調べても合計が100%を超えているのは複数を回答する人がいるためだろう。

公用語は英語、マオリ語、手話。

先住民マオリがこの地に移り住んだのは9世紀頃。
1642年オランダ人のアベル・タスマンがオーストラリアとタスマニアに次いでこの地を発見。
タスマンの出身地であるゼーラント州にちなんで「新しいゼーラント」と名付けられた。
1769年イギリス人のジェームズ・クックが来航、以来イギリスによる入植が始まった。
マオリ人の土地はイギリス人に奪われ、イギリス人が持ち込んだ感染症によって人口激減、戦争勃発、差別の時代も長く続いた。
しかし早い段階で融和政策もとられ、1864年にはマオリ人に選挙権が与えられた。

地名はマオリの言葉で残っており、発音がさっぱりわからん。

酪農大国。

人口500万人に対して、ウシ1000万頭、ヒツジ2600万頭。
1980年代には7000万頭いたヒツジは都市化や産業スタイルの変化で年々減少している。

家畜のげっぷやおならが発するメタンガスによる温室効果が近年のカーボンニュートラルの風潮でも取り沙汰されており、政府は世界初の「げっぷ税」の導入を検討している。

例によって、ファームの国では土地はすべて私有地となっており、えんえんフェンス。
こんなに広大な土地でも、テントを張るスキはあまりなさそう。

オークランドでは若者が圧倒的に多く高齢者が少ないという印象だった。
都市圏を出ると、違う。
たとえばスーパーの買い物客は半分ぐらいが高齢者、平日の昼間だからというのもあるだろうが。
移民も少なく、白人が多い。

街にはたいていキャンプ場がある。

料金はかなりばらつきがあるが、安いところだとNZ15$(1319円)。
キッチン完備、コンロも冷蔵庫もある。
Wi-Fiあり、ラウンジでひとりゆっくりくつろげたりする。

冬季のためか、どこのキャンプ場でもテント泊しているのは僕だけ。
他のキャンパーは皆キャンピングカーで、旅行ではなく定住している人も多い。

生粋のニュージーランダーの英語は僕の耳には聞き取りづらいが、皆礼儀正しく気さくに声をかけてくれる。
公共性の高い場でスマホを鳴らしたり大声で電話したりする者はいない。

トレーラーで子供を運びながら仕事するキャンプ場のスタッフ。

育児は必ずしも家でするものと決まってるわけではなく、職場に持ち込んだっていい。

ニュージーランドは、世界で初めて女性参政権を実現した国。
2013年には同性婚を認める法案が可決、その最終審議での議員のスピーチが世界的な反響を呼んだ。
2018年には女性首相が首相就任中に出産、6週間の産休を取ったことも話題になった。
2020年に初の女性外務大臣に就任したのはマオリ人で、顔に伝統的なタトゥーが彫られており、その時の副首相も女性で同性愛者。
2022年には女性議員数が男性議員数を上回った。

多様性とかいう言葉だけが先走りしている国から来た者としては、こういったことが素で実現されているこの国は刺激的だ。

ジェンダーギャップ指数は、北欧諸国が世界のトップを占める中でニュージーランドは世界4位にランクインしている。

ちなみに、日本のジェンダーギャップ指数は世界125位。
女性議員の割合は15%で世界133位。
女性の管理職率は14%で世界167位。

女性の社会進出が進めば必然的に出生率が低下すると推測できるが、日本は女性の社会進出度が著しく低いにもかかわらず出生率も著しく低い(世界197位)という不思議な国である。

しかしニュージーランドも、日本を含む東アジアの国々の惨状とは比較にならないが、出生率が年々低下し、高齢化社会となっている。
タイミングのズレはあっても、少子高齢化というやつはどんな優秀な国でもいずれは直面する不可避なテーマのような気がする。

星空。
南十字星、天の川。
南半球はそれほど久しぶりというわけでもないけど、これを見るとやっぱいいなあ。

トンガリロ山(1978m)。

「Tongariro」はマオリ語で正確な発音はわからないが、日本語とも共通するような語感。

オーストラリアと同じくニュージーランドも、6千万年前にゴンドワナ大陸から分離し、氷河期に海水面が低下しても他の陸地とはつながらず、独自の生態系が形成された。

両者とも哺乳類はアザラシなどの海洋生物とコウモリしか生息せず、オーストラリアでは有袋類と爬虫類が繁栄したが、ニュージーランドでは有袋類も生息せず、爬虫類はごくわずか。

捕食者のいないこの地で鳥たちは飛ぶことをやめて巨大化し(適応放散)、鳥類が生態系の頂点に立つこととなった。
しかしマオリ人が到来してから、乱獲によって多くの固有種が絶滅。
体高3mを超える史上最大の巨鳥モアはわずか50年で絶滅に至ったという。

巨鳥は絶滅してしまったが、現在もユニークな鳥、それも飛べない鳥が多く生息している。

よく見かけるこの白頭と黒頭の鳥はいつもペアで一緒。

路上では、小動物の轢死体をよく見かける。
ポッサムなどの有袋類や、ウサギやハリネズミなどの哺乳類。
これらの動物も家畜も、17世紀以降にヨーロッパ人によって持ち込まれたもの。
ワラビーも、その昔ハンティング用に持ち込まれたものが野生化しているらしい。
マオリ人にしてもヨーロッパ人にしても、人間の到来によってさぞかし生態系をかき乱されたことだろう。

オーストラリアのブラックスワンも持ち込まれて繁殖している。

ニュージーランドの国鳥は、キウイという飛べない鳥。
キウイはニュージーランド人の愛称でもあり、オスが卵を温める習性があることから、育児によく励む夫のことをキウイと呼んだりもするらしい。

中国原産のマタタビがニュージーランドで品種改良されて、キウイフルーツとなった。

日本が輸入しているキウイの96%がニュージーランド産なので味に差はなさそうだが、フルーツは久しぶりに食べるとすごくおいしく感じる。
特に近頃は貧素で偏った食生活で、いつもと違う栄養が身体に入って来るとダイレクトに沁み入る。

でも今のところ牧草地ばかりで、キウイ畑なんてまったく見てないな。

Warmshowers泊。

ほとんどの家は平屋で広々としている。

到着した時は学生の娘さん一人だけだったが、警戒することもなくフレンドリーに迎えてくれた。
さすがしっかりしてるな、若いのに話し方も大人びてる。

奥さんはヨーロッパ系で、旦那さんはマオリ人。
オーストラリアでは先住民アボリジニとの埋めがたい格差が見られたが、ニュージーランドではマオリはほぼ完全に溶け込んでいるように見える。
もちろん混血も進んでいるし、マオリ語はまったく話せない英語オンリーのマオリ人も多いようだ。

首都ウェリントン。

今まで旅したいわゆる先進国はどれだけ先進的でも、移民問題、民族問題、領土問題、経済格差、犯罪率、暴動、テロ、デモ、など多くの問題が旅人目線でも実感できた。
ここニュージーランドは、欠点を見つけるのが難しいほどよくできた理想的優良国家なのか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?