見出し画像

孤高の大陸オーストラリアの大自然:北部編

オーストラリア一周スタート。

世界で最もフラットな大陸。
自転車こぎ放題、いくらでも好きなだけこぎやがれ。

猛スピードでかすめていくモンスタートレイラーの突風に吹っ飛ばされながら。

おそらく空気圧の関係だと思うが、追い越される瞬間にトレイラーの方にグッと引き寄せられることがある。
背後から迫りくる轟音が聞こえたら、ハンドルをガッチリ握って身構える、緊張の瞬間。

ロードトレイン。

曲がる気なし。

日本の20倍、世界で6番目に大きな国。
オーストラリアより小さな陸地は「島」、グリーンランドより大きな陸地は「大陸」、と定義づけられている。

山や坂がないわけではないが、最高標高が2200mほど。
全体として侵食が進んでいる、非常に古い大陸。

人口は2500万人、そのうち99%以上が沿岸部、特に南東部に集中している。

最大の都市シドニー。

サーファーズパラダイス。

パラダイスだのゴールドなんたらだのグレートなんたらだの、大げさな地名が多い。

クイーンズランド州の州都、ブリスベン。

人口が集中する沿岸部以外は、スッカスカの大無人地帯。

6000万年前にゴンドワナ大陸から切り離されて以来、孤立した大陸であり続けた。
隔絶された土地で生物たちは独自の進化を遂げ、他の大陸とは異質な生態系が形成された。
ユニークな生物たちとの遭遇が始まる。

カンガルーはそこらじゅうにいる。

有袋類は原初の哺乳類で、世界中に分布していたが、後に出現した有胎盤類によって駆逐され滅びていった。
孤立したオーストラリアには有胎盤類は到達せず、ここは有袋類の楽園となった(適応放散)。

人間が持ち込んだものを除けば、元来オーストラリアには有胎盤の哺乳類はほとんどいない。

大型のものから、樹上生活する小型のものまで、サイズも毛色も様々な種類のカンガルーが存在する。

これぐらいの小型のものはワラビー。

有袋類は夜行性。
キャンプ中、カンガルーがテントの近くを横切ることも多い。
四本脚の動物とは違う、軽快に跳ねる4ビートの足音。

あろうことか、カンガルーは光に向かって突進する習性がある。
夜間はドライブするものではないが、輸送トラックや夜行バスはやむをえない。
夜間走行する大型車はカンガルーを轢き殺すことが前提になっており、カンガルーバンパーが装着されている。
路上はカンガルーやワラビーの死体だらけ。

そんなわけで、ワラビークッキング。

まだほんのり温かい。
轢かれたてのフレッシュなワラビーをいただき。

基本的な内部構造は有胎盤の哺乳類と変わらないようだ。
内臓を包む膜のようなものがあり、ナイフで突き刺すとプシューッとガスが抜けて収縮した。
腸らしきものを突くと、ウンコらしきものがナイフに付いた。

捌いた肉を宿に持ち帰って、クッキング。
ステーキにしてみたり、卵で閉じて他人丼にしてみたり。

初めて食べる有袋類、独特の食感でとてもケモノ臭かった。

ノーザンテリトリー準州。

日本の3.7倍の面積があるこの準州、人口はわずか24万人。
人口密度は0.17人/k㎡。
世界一人口密度の低い国モンゴル(2人/k㎡)の10分の1以下。
州単位で区切るなら、このノーザンテリトリーの希薄っぷりはずば抜けている。

オーストラリアは、ハエに支配されたハエ王国。

オーストラリア走行はハエとの格闘に終始する、と言っても過言ではない。
一体何億匹、何兆匹いるだろう。
性格もきわめてアグレッシブ。
水分を求めて、目、鼻、口、耳など、あらゆる穴に遠慮なく突進してくる。

常時、片手でハエを追い払い続ける。
両手が必要な時、たとえばペットボトルのキャップを開閉するほんの数秒、カメラのシャッターを押すほんの数秒で、僕の顔面はハエまみれになる。
走行中は、首をブンブン振ったり、顔を動かし続けたり、イライラしすぎて絶叫したりする。
手がもう1本必要だ。

日中は常に包囲され続けて、ハエの存在を感じない瞬間はないほどだが、日が沈んだとたん、何億匹ものハエが同時にスッと消える。

あちこちに林立するアリ塚。

岩のように頑丈で、蹴ったりしてもビクともしない。

そびえ立つ巨大アリ塚。

南北を指し示すマグネティックターマイト。

強烈な日射を避けるためのアリたちの工夫。

テントの中で食料の管理を怠るとこうなる。

緑色のアリがいた。
木の葉ばかり食べているので緑色をしている。
アボリジニはこれを食うと聞き、僕もためしに生きてるやつをそのまま食ってみた。
かなり大きなアリだが、しょせんアリなので、腹はふくれない。

デビルズ・マーブルズ。

地殻変動によって露出した花崗岩が、風雨に浸食されてシュールな奇岩群となった。
タマネギのように岩の表皮が剥がれ落ちてゆくことから、オニオン・ストラクチャー現象と呼ばれる。
Devil's Marblesは「悪魔のビー玉」。
アボリジニからは「大蛇の卵」と呼ばれている。

ビタースプリング。

34℃の温泉。
水深2~3m、透明度が高く、太陽の光が底まで届き、小魚とともに泳ぐ。
幻想的なひととき。

ワニ注意。

ジャンピング・クロコダイル!

イリエワニは、ワニの中でも最大級。
主に汽水域で生息し、淡水にも海水にも適応している。
ここでは「Salty」と呼ばれる。

間近で見るソルティは本当にデカイ、こりゃ人喰えるわ。

カカドゥ国立公園。

公園といっても四国ほどの広さ、4日かけて走る。

広大な湿地帯。
無数の野鳥たち。
息をひそめるクロコダイル。
ダイナミック。

ロータスバード。

キバタン。

かのエリマキトカゲも見た。
ものすごいスピードで道路を横切り、一瞬のことで写真は撮れなかったが、あの走り方でエリマキトカゲだと確信した。

アボリジニの壁画。

少なくとも4万年以上前から、オーストラリアには人類が住みついていた。
農業に適した植物が少なく、家畜に適した動物もおらず、狩猟や採集による生活を続けていた。
文字も持たなかったため文明が発展せず、世界史のストーリーにオーストラリアはほぼ登場しない。

動物の体内を描くX線画法。

鮮明に残る壁画は貴重な手がかり。

絶滅してしまったタスマニアタイガーの絵もあり、当時は大陸にも生息していたことがわかる。

タスマニアタイガーも有袋類。
和名はフクロオオカミ。
タイガーでもないしオオカミでもないしイヌでもない、まったく別種の肉食有袋類。
他の大陸の有胎盤類と接触することなく有袋類が進化してきたオーストラリアだが、この生態系の中でのイヌ的な地位の種はイヌ的な形質に進化する(収斂進化)。
もともとオーストラリア全土に生息していたタスマニアタイガーは、人間が持ち込んだイヌ(ディンゴ)に駆逐され、タスマニア島ではしばらく残存していたが1936年に絶滅した。

大航海時代にヨーロッパ人がオーストラリアに到達した時、数十万~100万人のアボリジニがいたと推定されているが、ヨーロッパ人が持ち込んだ疫病やスポーツハンティングによる虐殺で、20世紀前半には7万人まで減少し、タスマニアのアボリジニにいたっては完全に絶滅した。

現在のアボリジニは、混血が進みながらも人口増加を続け、80万人(オーストラリアの人口の3%)ほどいる。
一口にアボリジニといっても30弱の言語グループがあり、多数の部族に分類される。

都市部に住むアボリジニも多いが、すごしやすい沿岸部はヨーロッパ人に占拠されたため、過酷な内陸部へ追いやられ、特にノーザンテリトリーでは今も伝統的な生活を営むアボリジニがいる。

数万年もの間隔絶された土地で原始的な生活を続けてきたアボリジニと、突如やって来た近代文明人とがスムーズに融和できるはずもなく、長いこと人間扱いされずに虐げられてきた。

政府がアボリジニに市民権を認めたのは1967年。
経済的援助や住居の提供や仕事の斡旋など、都市部の文明生活への同化と、同時に伝統文化の保護をめざした試みがなされてはいる。
それでも、今まで見た他のどの国よりも「侵略者vs先住民」の格差は露骨に見えた。

ディンゴ。

ノーザンテリトリーの北部はトップエンドと呼ばれ、ここもある意味果てだ。
最大の(唯一の?)都市ダーウィンはリゾートとなっており、うかれはしゃぐ観光客たちの空気になじめず、落ち着けなかった。
第二次大戦中に日本軍がここまで攻めてきてオーストラリアと戦ったことを知っている日本人は少ないかもしれない。

ブッシュファイヤーはオーストラリアの日常。

ブッシュファイヤーは、ユーカリの木が意図的に起こしている。
油分を多く含んだユーカリの葉が地面に落ちると、極度に乾燥した空気と太陽熱で自然発火し、大規模な火災となる。
これによって雑菌が除去されたり栄養が循環されたりする、いわば自然の焼畑農業。
ユーカリ自身は表皮一枚燃えるだけで本体には支障なく、常緑種なので葉はすぐに生え変わる。
この火の熱によって種を飛ばして繁殖する植物までいる。
ブッシュファイヤーは自然のメカニズムの中に組み込まれているのだ。

オージーたちは慣れっこのようだが、旅人としては結構ビビる。
昼間ならまだいいが、夜、テントから外を見ると、空が赤く染まり、ゴォーという不気味な音が聞こえ、しかもこちらが風下だったりすると、おちおち眠れない。

ディジュリドゥと呼ばれるアボリジニの楽器。

星空は世界一なんじゃないだろうか。
夜中にテントから外に出ると、思わず声を上げてしまう。
あ、、、明るい!
超高密度の南半球の星空。
月も人工的な光もない。
なのに、自分の影がある。
影をつくるほど派手に流れる天の川。

北半球の人間にとって、南半球の星空は別世界。
デザインも密度も輝きも。
大小マゼラン星雲。
最も近い恒星、ケンタウルス座α星。
ひときわシンボリックな南十字星。

リアルに感じさせる宇宙。
空の上ではなく、今ここに直接的にある宇宙。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?