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インフルエンサーは若者に悪影響か、ただの産業界の金のなる木か ノルウェーで論争

ノルウェーで今、若者や女性に大きな影響力を与える「インフルエンサー」の社会的責任について議論が巻き起こっている。

きっかけは、国営放送局NRK(日本でいうNHK)に寄稿されたとあるコラムだ。

ノルウェーの報道機関では、民主主義の一環として、幅広い人の意見を反映させるために、政治家や有名人のコラムを丸ごとそのまま掲載する習慣がある。

ドラマ『SKAM』の政治的に正しいことを言うインスタグラマー

ウルリッケ・ファルクさん(21歳、写真上右)は、今やノルウェーで知らない人はいないのではとされる芸能人。人気の高校生ドラマ『SKAM』で登場人物を演じて、人気に火がついた。

自身のインスタグラムでは、メディアや産業界が押し付けてくる女性の理想像に疑問を呈する写真を投稿。今は100万人以上のフォロワーを持つ。

別記事Yahoo!ニュース個人 「ノルウェー人気インスタグラマー、女性の見た目重視の社会にNO!価値を決めるのはあなた自身」

ノルウェーでは、毎年SNSやブログで活躍するインフルエンサーに賞を与える「Vixen Influencer Awards」が開催されている。

ファルクさんはこのアワードでノミネートされていたが、1月30日のNRKのコラムで辞退すると発表し、その理由を告げた。

「今、インフルエンサーは新しいロールモデルになっています。スナップチャット、インスタグラム、YouTube、ブログ、新聞、テレビ、至る所にいます」と書き始めた彼女。

自身も13才だった頃、人気のブロガーたちのようになろうと、必死にダイエットをし、外見を輝かせようとした。15才には、綺麗になれない自分が好きになれずに、自分に価値が見いだせずに、初めて自殺をしようともした。

若者を追い詰める、その社会制度の原因は、メディア、美容業界、ファッション業界。そして、商品を売るために若いインフルエンサーたちを利用する大人たちだと指摘するファルクさん。

「業界は若者を利用して、お金儲けをしようとしている。顔のシワを減らすためのクリーム、お腹を引っ込ませるためのタイツ、唇を膨れ上がらせるリップ。このアワードにノミネートされている人たちは、非健康的な外見の重視、異常な消費を押し付け、メンタルヘルスや整形手術のもたらす影響をしっかりと伝えていない」。

「自分の持つ責任を果たせないのなら、あなたにそのタイトルを得る資格はない。もっとポジティブな変化をもたらす人に、その席を譲るべきだ。舞台でスポットライトを浴びる若い女性たちは、スポンサーや広告主に利用されているのだと、もっと批判的にみるべきだ。インフルエンサーはそれで収入を得ているが、利用されているだけだ」。

「私は歯を白くしたり、髪を綺麗にする道具や化粧品がなくても、今までと違うやり方で若い人たちとコミュニケーションをしていくことができる。私はアワードを辞退します。自分のしていることが重要だと知るために、このような賞を受け取る必要はない」。

このファルクさんのコラムは、大きな話題となった。

ノルウェーではもともと、日本以上に「政治的に正しい」発言が重視される社会だ。日本と比較すると、化粧品などをおすすめする広告なども少なかった。

一方で、SNSやブログの普及で、一部の若者たちが一気に影響力を増している。ブロガーたちはメディアとなり、企業が商品宣伝を依頼している。大手既存メディア、消費者・青年団体、政党などは、この新しい若者メディアとビジネスに批判的になっている。

ファルクさんの言い分は、政治的に正しいことを理想とし、美容やファッション業界に憧れを見出さない人には、素晴らしくうつるだろう。

しかし、彼女の書き方は、自分とは異なる立場の若いインフルエンサーたちを否定するようにも見受けられた。

ノルウェーのピンクブロガー女王が反論

翌日、アワードにノミネートされているもう一人のインフルエンサーが、NRKにコラムを寄稿した。

ノルウェーで名前を聞いたことがない人はいないのではないだろうか、人気ブロガー、ソフィエ・エリーセさん(23)だ。

(写真:エリーセさんの本『ロールモデル』)

ノルウェーでは、女性らしい日記を投稿する人を「ピンクブロガー」と呼ぶ。その中で、ブログのトップランキングを占める者は「勝ち組」とされ、スポンサーからお金を得て、化粧品やトレーニングウェア、服などを宣伝する。

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